2022年……コロナ禍が続き、半導体不足へ拍車をかける形となりました。また、巣ごもり需要で電化製品の製造が増加し、半導体の供給先として優先度が低かった自動車業界が大きな影響を受け納期遅れにつながってしまったとも言われています。重ねてウクライナ戦争や中国のロックダウンは部品の供給不足と輸送力の低下を招き、新車納期がなかなか見通せない状況に。
しかし、そのような中でも自動車業界の技術は革新を続けています。より快適なモビリティライフへの進化、2022年起こったトッピクスをいくつかまとめてみました。
【Topics1】渋滞回避も可能なプローブ情報を加えたVICS、実証実験を全国へ拡大
カーナビに表示されて当たり前と感じている人が多い交通情報ですが、これを提供しているのが道路交通情報通信システムセンター(VICSセンター)です。そのVICSセンターは2022年7月4日、日本道路交通情報センター(JARTIC)と共に、トヨタ、ホンダ、日産の自動車メーカー3社とカーナビメーカーであるパイオニアの協力を得て、プローブ情報活用サービスの実証実験を全国へ拡大したと発表しました。
プローブ情報とは、道路を走るクルマからの情報を収集して交通情報として生成したものです。従来の道路上の感知器からの情報にこの情報を加えることで、VICS情報は従来の2倍にまで拡大。一般道でのより高精度な渋滞回避を可能となるのです。
このプローブ情報で渋滞回避を行うにはVICS-WIDEに対応したカーナビを使います。VICS-WIDEとは伝送容量を従来の約2倍にまで拡大したFM多重放送を利用した情報サービスで、渋滞回避以外にも大雨などの気象・災害情報を画面上に表示することができます。現在、販売されているカーナビであればほとんどが対応していると思って大丈夫です。
一方、VICS-WIDEに非対応の少し古いカーナビでもメリットはあります。自動的に渋滞回避はしないものの、プローブ情報の表示はできるので地図上の交通情報は同じように2倍まで増えています。つまり、この情報を確認することで渋滞回避をすることに役立つのです。
道路交通情報がユーザーの直接の負担なしで利用できるのは、世界でも日本だけ(※VICS利用料金はカーナビの出荷価格に上乗せされている)。そんな中で、渋滞回避の精度を高めたVICSは、今後も“渋滞ゼロ”を目指して情報の充実化を図っていくとのことでした。
【Topics2】新型クラウン、ドラレコにADAS用カメラ初めて活用。標準化のきっかけになるか?
2022年7月に登場した16代目「クラウン」、そこには見逃せない新機能が搭載されていました。それがADAS(先進運転支援システム)用カメラのドライブレコーダー活用です。これまでにも純正ドライブレコーダーを搭載する例は「ハリアー」などでありましたが、ADAS用カメラをドライブレコーダーに活用するのは新型クラウンが初めてだったのです。
実は以前から「ADAS用カメラをドライブレコーダーに活用できないものか?」との疑問はありました。ドライブレコーダーを後付けすると、電源を別に取らなければならないし、その配線が目立って取り付けた状態は決してスマートではないからです。しかし、そこには理由がありました。
ドライブレコーダーは走行中の映像を常時記録するのが役割ですが、そこには様々な個人的な映像も含まれます。そのデータをユーザーがSNSなどで拡散すれば、プライバシーや肖像権侵害として訴訟問題になることを自動車メーカーは恐れていたのです。
一方で、世の中ではドライブレコーダーが認知され、あおり運転対策として推奨される風潮があるのは確かです。某自動車メーカーのADAS開発担当者からは「どこかが露払い的にADASカメラにドライブレコーダー機能を装着してくれると心強いんですが……」と本音も聞こえていたのです。
そんな中で世界のトヨタが“露払い”をしてくれました。トヨタはその後も採用車種を「シエンタ」などにも拡大。今後はドライブレコーダーの標準化への道は開け、他メーカーでもドライブレコーダーの搭載は当たり前になってくるとみていいと思います。
【Topics3】「農作業用搬送ロボット」その姿はまるでトランスフォーマー!
人手不足が深刻なのは物流業界にとどまらず、農業の現場にも及んでいるそうです。そんな中で「エムスクエア・ラボ」(静岡県牧之原市)は、農業の現場での活躍を想定したユニークな搬送用ロボット『MobileMover Transformer』の試作車を開発し、注目を浴びました。その名称の通り、この試作車は農作業の現場で車体幅を変化させて、たとえば田畑の畝や作業所の出入り口など、幅に制限のある場所でもスムーズに通過できる独自の機構を採用しているのがポイントです。
CEATEC 2022の会場では実際にその“変身”ぶりがデモされていました。車幅を変えるのに要する時間は10秒足らず。その動きは驚くほどスムーズで、基本的なパワートレインはスズキ自動車の『セニアカー』の技術を採用しているということでしたが、その見事な変身ぶりに思わず手を叩きたくなるほどでした。将来は駆動方式として、よりぬかるみに強いキャタピラ仕様や、クレーン機構を備えることも想定しているとのこと。
【Topics4】デンソーがより多くの情報が得られる次世代QRコードを開発
デンソーは日常生活ですっかりお馴染みとなったQRコードの次世代版2つを公開しました。
一つは、異なった情報を収録したQRコードを重ねることで、より多くの情報を得られる特徴を持つ次世代QRコードです。これは主として、自動車部品のサプライチェーンで使うことを目的に開発されたもので、材料のリストや調達情報のより詳細なデータを含めることができるそうです。たとえば材料がサプライチェーン内で循環するようになると、その生い立ちに関する正確な情報が必要となりますが、そういった時にもより多くの情報が書き込めるQRコードとして活用できるというわけです。
もう一つは、肉眼では見えないものの、赤外線を当てることで、スマホにインストールされた専用アプリでのみ読み取れるようになる「透明QRコード」です。いわば“隠しQRコード”とも呼ぶべき、新たな使い方を提案できる技術で、デザイン面でQRコードを掲載したくない場合や、セキュリティを重視した活用において役に立つ技術としています。
デンソーでは「自動車用バッテリー生産における二酸化炭素排出量のトレーサビリティを向上させ、サプライチェーンにおける信頼と信頼性構築の支援に役立つ」としています。
【番外編】中国・ウーリン、小型EV『Air EV』を海外初展開! 日本にも来るのか?
中国・上汽通用五菱(ウーリン)は2022年8月、中国で大ヒットした小型EV『宏光miniEV』のハイグレード版『Air EV』をインドネシアで発表し、大きな注目を集めました。『宏光miniEV』といえば、なんと言っても45万円前後(2020年8月の発売時、日本円換)という驚異的な低価格が最大の武器。その甲斐あって、今やその販売実績はテスラと肩を並べるまでに急成長しているのです。そして、その海外展開の第一弾がインドネシアで販売された『Air EV』なのです。
実は『宏光miniEV』が日本市場への参入を伺っているとの噂は2022年の春頃からありました。しかし、エアバッグやESC、さらに衝突軽減ブレーキも非搭載など、そのままでは日本の安全基準には合致せず、参入は難しいと考えられていたのです。そんな矢先、宏光miniEVは『AirEV』としてインドネシアで海外初展開を果たしたのです。
インドネシアでは欠かせないエアコンを装備したのはもちろん、上級グレードのロングには航続距離300kmを実現する大容量バッテリーをはじめ、キーレスエントリーや電子ミラー、電動パーキングブレーキも装備しました。ただ、こうした上級装備を加えた結果、価格はスタンダードレンジで IDR 2億3800万(約215万円)、ロングレンジで IDR 2億9500万(約266万円)と、ベース車の『宏光miniEV』から大幅な価格アップとなってしまいました。
とはいえ、日本の軽EVとガチンコで勝負できる価格帯でもあります。果たして日本への展開はあるのか。今後が楽しみです。