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2023/1/16 11:30

BYDのミドルサイズSUV「ATTO 3」は、コスパ面で日米欧勢のEVを上回っている!

1997年に初代プリウスが発売されて以降、日本はハイブリッドカー大国となり、世界を席巻してきた。しかし、クルマの最新進化型がEV(電気自動車)となった現代では、中国がEV大国となっている。そしていよいよ、その中国メーカー製のEVが日本へ上陸を果たす。果たして世界トップクラスのEVメーカーが放つ最新EVの実力はどれほどのものか?

 

■今回紹介するクルマ

BYD/ATTO 3

※試乗グレード:─

価格:440万円〜(税込)

 

EVで最も重要な性能は航続距離

中国は世界最大の自動車市場。昨年の新車販売台数は2627万台と、アメリカの1541万台をはるかに上回った。ちなみに日本は445万台で、なんとか世界第3位を維持したが、インドに追い上げられるなど地盤沈下が激しい。

 

中国はあまりにも巨大だが、中国製乗用車のほとんどは中国国内で消費され、輸出はゼロに近かった。中国製乗用車は、ブランド力不足により、海外ではまったく競争力がない。ところが、モノがEVなら話は違う。すでに中国製の電化製品は大いに世界に進出し、品質を認められつつある。アメリカがファーウェイ(華為)製品を排除しているのは、競争力の高さの表れだ。

 

そして2023年。ついに中国製乗用車の販売が日本で開始される。第一弾はもちろんEV。世界第2位のEVメーカー、BYDの「ATTO 3(アットスリー)」だ。

↑1月31日から販売が開始するATTO 3。写真のPARKOUR REDを含め、ボディカラーは全5色から選べる

 

ATTO 3のボディサイズは、コンパクトSUVに属する。全長は日産「アリア」より140mm短いが、全幅と全高はほぼ同じ。バッテリー容量は58.56kWhで、WLTCモードの航続距離は485kmだ。アリア(B6)は66kWhで470kmだから、それよりバッテリー容量は小さいものの、航続距離ではわずかに上回っている。つまり効率がいい。

↑この複雑な曲面のデザインを実現しているのは、BYDのグループ会社である日本のTatebayashi Moldingが持つ高い金型技術とのこと

 

EVで最も重要な性能は航続距離だ。一度でもEVに乗ったことのある者なら、その切実さを理解しているだろう。夜間、自宅で普通充電し、それでどこまで走れるかで勝負は決まる。外での急速充電は、ガソリンの給油に比べると、ストレスは100倍レベル。なにしろ30分間の急速充電で走れるのは、せいぜい100km強なのだから。

 

現在、世界の多くのEVが、航続距離500km前後になっている。500kmというのはあくまでカタログ値で、実際にはその7掛け程度と考えるべきだが、ともかくカタログ値で500kmの航続距離があれば合格というのが世界の趨勢だ。ATTO 3は、EVとして標準的な航続距離を持っている。

↑インバーター、モーター、コントロールユニットがコンパクトにまとまっている。それらが一体型で低い位置に収納される

 

ATTO 3のルックスは至って「フツー」

では、その他の部分のデキはどうか。まずデザイン。EVの定番は「未来的で高級感のあるスタイリング」だが、ATTO 3のルックスはやや安っぽい。フロントグリルのメッキでEV感を出しているが、かえってオモチャっぽく見える。と言っても落第というわけではなく、「ものすごくフツー」というレベルにある。

 

インテリアも、質感はあまり高くないのだが、こっちには斬新で楽しい仕掛けがいろいろある。インパネセンターの大型ディスプレイは、ボタンひとつで縦にも横にもなる。これはちょっとした衝撃だ。ディスプレイは、通常は横、ナビとして使うなら縦が適しているが、ATTO 3はどちらにも対応できるのだ。ボタンを押してディスプレイが回転すると、それだけで「うーん、やられた!」と感じる。

↑アスレチックジムをモチーフにデザインされた内装。センターディスプレイが回転可能で縦型にも横型になる

 

もうひとつ面白いのは、ドアにギターのようなゴム製の弦が付いていることだ。これは実際にギターをイメージした装飾で、BYDの遊び心を表したもの。ステイタスにこだわらず、楽しいクルマを作ろうとしているのが感じられる。

↑弦を弾くと音を奏でるドアトリムなどユニークなデザインが随所に散りばめられた

 

ちなみにウィンカーレバーは国産車同様、ハンドルの右側に付いている。輸入車としては極めて珍しいが、日本市場に合わせてわざわざ変更したという。

 

乗り味は、EVとしては穏やかな部類に属する。加速は、一部EVのような狂気の爆発力はなく、ガソリン車と比べれば「ダッシュがいいね」くらいのレベル。サスペンションもかなりソフトでゆったりしている。日常的な走りを優先した仕上がりと言える。

↑長距離運転や高速道路の運転をサポートするナビゲーション パイロット機能、万一の衝突時の被害を回避または軽減する予測緊急ブレーキシステムなど、先進的な予防安全機能を装備

 

基本的にEVは、どれに乗っても乗り味にそれほど大きな違いはない。電気で回転するモーターは、ガソリンエンジンのような味わいの違いが出しづらく、主な違いは加速力だけになってしまう。ATTO 3もその例に漏れないが、見た目同様、走りもEVとして「ものすごくフツー」。家電の仲間と考えれば、完全に合格点だ。

 

コスパでいうと、ATTO 3は日米欧勢を上回っている

こうなると、勝負は価格で決まる。1月31日から全国22か所のディーラーで販売が始まるATTO 3の価格は、440万円と発表されている。そのコスパはどうか?

 

主なEVの車両価格1万円あたりの航続距離をランキングすると、このようになる。

1位 ヒョンデ「アイオニック5(ボヤージ)」 1.19km/万円
2位 BYD「ATTO 3」 1.10 km/万円
3位 テスラ「モデル3(スタンダード)」 0.95 km/万円
4位 VW「iD.4(プロローンチエディション)」 0.88 km/万円
5位 日産「アリア(B6)」 0.87 km/万円
6位 トヨタ「bZ4X」 0.86 km/万円
7位 日産「サクラ」 0.84km/万円
<その他>
メルセデス・ベンツ「EQA」 0.69km/万円
BMW「iX3」 0.59km/万円

 

ATTO 3は、日米欧勢を上回っているが、韓国ヒョンデの「アイオニック5」には及んでいない。日本国内では、ヒョンデにもブランド力はないが、中国BYDに比べれば知名度は抜群だし、アイオニック5のデザインは、ATTO 3に比べれば断然イケている。

 

総合的にみると、ATTO 3は、「もうちょっと安ければよかったんだけど」というところだろうか? 400万円を切る価格なら、競争力はあったはずだ。

 

たとえば中国製のタイヤは、日欧米ブランドの4分の1程度と激安で、性能も普通に使う限りあまり差はないため、最近、シェアを伸ばしている。しかしEVの価格は、おおむねバッテリー容量で決まってくる。自動車用バッテリーは超グローバル商品。中国製もそれ以外も、価格に大きな差はない。

 

BYDが自社生産する「ブレードバッテリー」は、独自の技術で作られており、耐久性が高いと言われるが、長く使ってみないと実感できないので、当初はアドバンテージになりにくい。結論としてATTO 3は、今の段階では、「面白い存在だけど、買うかどうかは別」というステップにとどまるだろう。ただ、中国製EVの実力が侮れないことはたしかだ。近い将来、世界を席巻する可能性もある。

 

SPEC●全長×全幅×全高:4455×1875×1615㎜●車両重量:1750㎏●パワーユニット:電気モーター●最高出力:204PS/5000-8000rpm●最大トルク:310Nm/0-4620rpm●一充電航続距離(WLTCモード):485㎞

 

撮影/池之平昌信

 

 

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