電動アシスト自転車は日本で生まれた乗り物ですが、海を渡り主に欧州でさらなる進化を遂げ、e-Bikeと呼ばれるようになって生まれ故郷に戻ってきた経緯があります。その進化を牽引している存在が、e-Bikeのドライブユニット(モーター)では世界シェアNo.1を誇るBOSCH(ボッシュ)です。
そのBOSCH製ドライブユニットのトップグレードである「Performance Line CX」が、新たに「Smart System(スマートシステム)」対応モデルとして生まれ変わりました。この新しいドライブユニットを搭載したマウンテンバイクタイプのe-Bike「e-MTB」に試乗することができたので、その乗り味と進化の詳細をお伝えします。
コントローラーのみで動かす新システムに対応
e-Bikeの心臓部といえるのが、アシストを発生するモーターなどが一体となったドライブユニット。近年は、そのドライブユニットを自転車メーカーに提供する企業が増えていますが、そこでトップを走り続けているのがBOSCHです。同社のドライブユニットには、街乗り向けのモデルに搭載される「Active Line Plus」と、スポーツ向けモデルに採用されるPerformance Line CXがあり、今回リニューアルされたのは上位グレードのほうです。
新型のドライブユニットは、BOSCHが「The smart system」と呼ぶアシストシステムに対応しています。このシステムはPerformance Line CXドライブユニットを中核に、組み合わせるコントローラーとバッテリーの自由度を高めたもの。従来はコントローラーとディスプレイの2つを装備する必要があったのですが、新システムではコントローラーのみで動かすことができるようになりました。また、バッテリーサイズは750Whという大容量のものを選べるようになっています。
アシスト面では、新たに「Tour+」「Auto」という2種類のアシストモードが加わり、「OFF」モードを含めて全7モードが選べるようになりました。Tour+モードは、その名の通りツーリング向けのモードですが、ペダルを踏む力に応じてアシスト力が可変するもの。ツーリング中でも坂道に差し掛かって踏力が増せば、アシスト力も強くなります。
Autoは、踏力ではなく速度の変化に応じてアシストを増減するモード。上り坂になると速度が落ちるので、それに合わせてアシストが増しますが、ライダーが疲れて速度が落ちてきてもアシストを強くしてくれる”楽のできる”モードといえます。
進化したドライブユニットはアシストの制御が緻密
今回The smart systemに対応したe-MTBで専用コースを試乗。用意されていたのはトレックのe-MTB4車種でした。ハードテイルと呼ばれるフロントのみにサスペンションを搭載した「Powerfly(パワーフライ) 4 Gen 4」と、前後にサスペンションを装備する“フルサス”と呼ばれるタイプの「Powerfly FS 4 Gen 3」、「Rail(レイル) 5 Gen 3」、「Rail 9.7 Gen 4」の4モデルです。ドライブユニットはすべてPerformance Line CXを搭載しています。
【e-MTBフォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)
e-MTBの中でも最高峰のモデルといえる「Rail 9.7」については、以前に前モデルの「Gen 2」に乗ったばかりだったので(関連記事)、ドライブユニットの進化を如実に感じることができました。一番に感じたのは、アシストの制御が緻密になっていること。BOSCHのドライブユニットはe-Bikeの中でもパワフルという評価がされますが、新型ではペダルを踏んだ瞬間にガツンと車体を押し出すようなアシストではなく、立ち上がりは穏やかだけどペダルを踏み込んでいくうちにパワーが増してくるような特性です。
この特性の進化を、顕著に感じられたのが最もアシスト力が強い「TURBO」モード。従来は、このモードにしているとペダルに足を乗せているだけでも前に出ようとする力が発生して、慣れていないと怖い場面もあったのですが、その危なさがなくなっていました。
出だしのアシストがコントローラブルになっていることは、ハードテイルタイプのPowerfly 4 Gen 4に乗った際にさらにありがたく感じました。リアタイヤを路面に押し付けるサスペンション機構がないため、ペダルを踏み込むとリアタイヤが滑りやすい傾向にありますが、Powerfly 4 Gen 4はコントロールしやすくなっているので、滑りやすい路面でも滑ってしまうことはありませんでした。
初心者が乗っても快適そうなフルサスモデルに好印象
そして、今回試乗した中で最も好印象だったのが、追加されたフルサスモデルのPowerfly FS 4 Gen 3。フルサスモデルは凹凸の激しい下り斜面にフォーカスしたモデルが多いのですが、新モデルはどちらかというと普通の山道を走る際の快適性を重視したような設計となっています。サスペンションのストロークは「Rail」シリーズがフロント160mm、リア150mmであるのに対して、Powerfly FS 4 Gen 3はフロント120mm、リア100mm。凹凸の大きな路面を走らなくても、フルサスのメリットを感じることができます。
新しいドライブユニットとの相性も良好で、抑制の効いたサスペンションがしっかりとタイヤを路面に押し付けてくれるうえ、アシストのコントロール性が高いので、自分の脚力が強くなったと錯覚するほどスルスルと山道を登って行くことができました。フルサスタイプのe-MTBはどちらかというと中級以上のライダー向けというイメージでしたが、Powerfly FS 4 Gen 3は初心者や女性が乗っても快適にトレイルを楽しめそうです。
【Powerfly FS 4 Gen 3の細部を写真でチェック】(画像をタップすると閲覧できます)
自転車用のABSも登場
もうひとつの注目すべきトピックはBOSCHのe-Bike用ABSシステム。近年、クルマはもちろん、バイクでも標準的な装備となってはいるものの、自転車用にはまだまだ普及していません。ただ、日本では初披露となるe-Bike用ABSシステムですが、欧州などではすでに実用化されていて、採用したe-Bikeも発売されているとのこと。目新しい技術ながら、すでに普及を見据えて製品化されているようです。そもそもBOSCHはクルマやバイク用のABSで長い実績のあるメーカーですから、信頼性については言うまでもありません。
実際にABSを装着した試乗車で、滑りやすい砂利の路面で思い切りブレーキを握ってみました。ですが、フロントタイヤがロックすると、反射的にレバーを握る力を緩めてしまって失敗……。フロントタイヤがロックしたまま、レバーを握り続けるのは結構勇気が必要です。滑りやすい路面でフロントがロックすれば、通常は即転倒ですから。
しかし、握り続けてみるとレバーにカクカクという感触が伝わってきて、何事もなかったかのように停止できます。少しハンドルを切りながら試してみても同様。ABSのついていないMTBで同じことをしたら……と想像するだけで恐ろしいですが、多少フロントがアウト側に逃げる程度で曲がりながらでも止まることができました。
近年のMTBは制動力の高い油圧式のディスクブレーキを装備していますが、慣れない人が山道で乗ると効きすぎてしまってタイヤがロックして転倒に至ることも珍しくありません。慣れるとレバーの入力を調整できるようになっていきますが、ABSが付いていれば安心してブレーキを握ることができそうです。
初心者が起こしがちな転倒を防げるABS
試乗用e-MTBをよく見ると、リアブレーキにも回転センサーが取り付けられています。ただ、ABSが効くのはフロントのみで、リアはフロントとの回転差を検知するためのものだとか。MTBで山道を下る場合、フロントブレーキを掛け過ぎるとリアタイヤが持ち上がって前転してしまうこともありますが、リアが持ち上がってロックすると自動的にフロント側のABSが作動する仕組み。”握りゴケ”と呼ばれるフロントロックによる転倒も、前転も防いでくれる優秀な機構です。
初心者が起こしがちな2大転倒要因を防げるので、これはぜひエントリーグレードのe-MTBに採用してもらいたいもの。コスト的には2〜3万円程度のアップで可能になりそうとのことなので、多くのモデルに取り入れてほしいと感じました。
新型ドライブユニットの制御の緻密さと、e-Bike用ABSの実用化。どちらもe-MTBの利用シーンに合わせた制御になっており、BOSCHがこのカテゴリーではトップランナーであることを改めて感じさせられました。世界初の電動アシスト自転車であるヤマハ「PAS」が登場したのは1993年のことですから、今年はちょうど30年目の節目。それでもまだまだ進化を続けていることが実感できた試乗体験でした。
【フォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)