BYDジャパンは8月末、バッテリーEV(BEV)のコンパクトハッチモデル「ドルフィン」のメディア向け試乗会を開催しました。同社は2023年1月にSUV型のBEV「ATTO3(アットスリー)」を発売しており、ドルフィンはそれに続く第2弾。9月20日に正式発表されたモデルの走りをさっそく体験してきました。
■今回紹介するクルマ
BYDジャパン/ドルフィン
価格:363万円〜407万円(税込)
グレードは「ドルフィン」と「ドルフィン・ロングレンジ」の2構成
ドルフィンを前にして実感するのは、思ったよりも存在感があるということでした。ボディサイズをチェックすると全長4290mm×全幅1770mm×全高1550mmで、クラスとしてはBセグメントとCセグメントの中間に位置するサイズ。これはノートやフィットよりも一回り大きいサイズに相当します。
ドルフィンで注目なのは輸入車ながら、徹底して日本市場にローカライズされていることです。たとえば全高は、グローバルでは1570mmなのですが、日本仕様だけは回転式駐車場制限に合わせて20mm低くしています。それだけじゃありません。ウインカーレバーを中国本国の左側から右側に変更したほか、急速充電についても日本で一般的なチャデモ方式を採用。そして、日本では装着が義務づけられている誤発進抑制システムや、各種機能の日本語による音声認識機能までも追加しているのです。
そのドルフィンは、スタンダードな「ドルフィン」と、より上級な装備を搭載した「ドルフィン・ロングレンジ」の2グレード構成となっています。違いで最も大きいのはバッテリー容量とモーターの出力にあります。
ロングレンジはバッテリー容量を58.56kWhとし、一充電での航続距離は476㎞。組み合わせるモーターも最大出力150kW(204馬力)・最大トルク310Nmというハイパワーを実現しています。一方のスタンダードはバッテリー容量が44.9kWhとなり、一充電当たりの走行距離は400km。モーター出力は最大70kW(95馬力)・最大トルク180Nmとなります。
駆動方式はどちらも前輪駆動のみ。サスペンションは、フロントこそどちらもストラットですが、リアはロングレンジがマルチリンクを採用し、スタンダードはトーションビームの組み合わせとなっていました。これらの両者の違いも気になるところです。
外観上は、ロングレンジにはルーフとボンネットをブラックとした2トーンカラーを組み合わせましたが、スタンダードは単色のみの選択となります。
グレードを問わず、最高水準の先進運転支援システムを標準装備
インテリアはとても質の高いものでした。シンプルながら緩やかにラウンドするダッシュボードに、ドルフィン(イルカ)のヒレを彷彿させるドアノブなど、デザインへのこだわりが感じられます。ソフトパッドも随所に施され、コンパクトハッチにありがちなチープさはほとんど感じません。特にロングレンジにはサンルーフやスマホ用ワイヤレス充電器が追加されており、そういった面での満足度は高いと言っていいでしょう。
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加えて驚いたのが先進運転支援システムの充実ぶりです。アダプティブクルーズコントロール(ACC)をはじめ、自動緊急ブレーキ(AEB)やレーンキープアシスト(LKA)、フロントクロストラフィックアラート(FCTA)&ブレーキ(FCTB)、ブラインドスポットインフォメーション(BSI)といった多数の先進機能を装備。さらに室内に2つのミリ波レーダーを搭載し、子供やペットの置き去り検知機能も装備。これらがすべてグレードを問わず標準装備されるのです。
グレードによって安全装備にも差を付けていることがほとんどの国産車と違い、安全装備ではグレードに応じて差を付けない。こうした姿勢は高く評価していいと思います。
市街地走行に十分なパワー感を発揮する「ドルフィン」
さて、いよいよドルフィンで公道に出て試乗に入ります。
最初に試乗したのはモーター出力を抑えたスタンダードからでした。とはいえ、アクセルを踏むと、車重が1520kgもある印象はまるでなく、スムーズに発進していきます。街中は「エコモード」で走りましたが、もたつく印象は一切なく、ハンドリングは軽めながらも左右の見切りがいいので不安を感じさせません。決して速さは感じませんが、軽くアクセルを踏むだけで交通の流れに乗れるので、運転はとてもラクに感じました。
ただ、高速に入ると加速に物足りなさを感じたのは確かです。クルーズモードに入ってからの加減速ではそれほど力不足は感じませんが、高速流入時ではすぐに加速が頭打ちとなってしまい、つい「もう少し!」と叫んでしまいそうになります。
ステアリングも中間位置が曖昧で、これに慣れないでいると真っ直ぐ進むのに細かく修正を加えながら走ることになります。また、乗り心地についてもスタンダードは路面からの突き上げ感があり、後席に乗ったカメラマンからも「結構コツコツ来ますねー」との声が出たほどです。
圧倒的な加速力で目標速度に到達!「ドルフィン・ロングレンジ」
こうした体験の後、次はロングレンジに乗り換えてみました。街乗りからスタートするとすぐにスタンダードとの違いを実感します。路面の段差もしなやかにこなし、不快な感じはほとんどなくなったのです。ステアリングの軽さは大きく変わりませんでしたが、このしなやかさがクルマに上質感を与えてくれています。
さらに加速の力強さが半端ない! 走行モードを「スポーツ」に切り替えてアクセルを踏み込むと、車重が1680kgもあるクルマとは思えない圧倒的な加速力で目標の速度域に到達したのです。走行モードを「エコ」に切り替えたとしても十分な加速力を実感でき、まさにモーター出力の違いを見せつけられた印象があります。
一方で回生ブレーキは2段階を用意していますが、ATTO3と同様、ワンペダルで走れるほど減速感は強くありません。それでもスポーツモードにするとやや減速感が強くなるので、たとえば峠道はより楽に走れるのではないかと思いました。
ドルフィンで気になるのはやはり価格でしょう。ドルフィンの価格は363万円(税込)、ドルフィン・ロングレンジは407万円で、政府のCEV補助金65万円を適用すれば、ドルフィンは298万円からとなります。正直言えばもう少し安く出てくるかとは思いましたが、昨今の円安を踏まえれば妥当な価格といったとところでしょうか。それでも、この価格は日本で販売される軽EVと真っ向から勝負できる価格。その意味でこのドルフィンは、日本におけるBYDの存在感を打ち出せるか、重要な役割を担っていると言えるでしょう。
SPEC【ドルフィン】●全長×全幅×全高:4290×1770×1550mm●車両重量:1520kg●パワーユニット:交流同期電動機●モーター最高出力:95ps/14000rpm●エンジン最大トルク:180Nm/3714rpm
【ドルフィン・ロングレンジ】●全長×全幅×全高:4290×1770×1550mm●車両重量:1680kg●パワーユニット:交流同期電動機●モーター最高出力:204ps/9000rpm●エンジン最大トルク:310Nm/4433rpm
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写真/松川 忍(ドルフィン)、 筆者(ドルフィン・ロングレンジ)