全世界20カ国以上が参加した2023年の「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ(以下、BWSC)」から1年が経ちました。この世界最高峰に位置付けられる大会で、“総合5位”と“デイビット・ヒューチャック賞”を受賞した東海大学ソーラーカーチームは、すでに2025年のBWSCに向けて準備を進めています。
2024年8月に秋田県で行われた「World Green Challenge (以下、WGC)」では、首位を守りきり見事、総合優勝を果たしました。振り返って「学生たちだけで次に何をすべきか、どう動くべきか役割を意識して自律的に動けていた」と評価するのは、佐川耕平総監督。今回は、新車の設計まっただ中にある東海大学ソーラーカーチームのみなさんに、残り1年を切ったBWSCへ懸ける思いを伺います。
BWSCから1年。本当にあっという間だった
オーストラリアの大地を約5日間かけて太陽の力だけで走り切るBWSCは、2年に一度開催されている世界最大級のソーラーカーレースです。4年ぶりに開催された23年大会では、気象変化やトラブルを乗り越え見事総合5位で完走しています。
この大会にも出場し、2024年度の学生代表を務める工学部機械工学科3年の熊林楽(がく)さんは次のように振り返ってくれました。
「本当にあっという間で、もう1年か……というのが率直な感想。この1年は国内大会に向けての調整をしながら、新車作りにも取り組んできました。学生代表になったことで責任感は増しましたが、自分の中ではまだまだ。来年に向けて、チームを率ながら今できることを進めていきたいです」(学生代表・熊林さん)
前回大会終了後の取材で「実は意外と時間がないんです」と語った佐川総監督。その実感に変化はあるのでしょうか?
「正直、さらに追い込まれている感覚があります。前回大会終了後、25年大会の新しいレギュレーションが発表され、これまで通りでは難しい部分も多く出てきたんです。また開催日程も10月末から8月末へ。2ヶ月早く開催される分、学生たちも夏休みに最後の追い込みができなくなり、負担も大きくなるでしょう。大人たちがチームビルディング含め環境を整えていかなければなりませんね」(佐川総監督)
チームワーク良く和気藹々とした雰囲気の中、WGCで総合優勝
新車の設計に忙しい最中ですが、8月に秋田県大潟村で開催されたWGCに参加。2019年にBWSCで準優勝した車体で挑み、周回数計34周(総走行距離875km)を走破! トラブルを乗り越えながら2位と50kmもの大差をつけ見事、総合優勝を獲得しています。
今年はたくさんの新入生が興味を持って、チームに参加してきたという東海大学。メインで活躍している新入生10名の半数が女子学生だといいます。WGCに初参加した工学部機械システム工学科1年の種田花音(おいだかのん)さんは、初めての大会で感じたことを次のように教えてくれました。
「プレッシャーもありましたが素直に『楽しい!』と思えることがたくさんありました。同級生も多く参加していたので、女子同士で夜遅くまで話し込んでしまいました(笑)」(種田さん)
種田さんの言葉からも楽しそうなチームの雰囲気が伝わってきます。入学式でソーラーカーに一目惚れしてチームに参加した、という工学部4年の小平苑子(そのこ)さんは、女子学生が増えたことに「うれしい!」と目を輝かせます。
「新入生たちはとても元気なんです。女子学生が増えたことも影響しているのか、広報活動も積極的に行ってくれていて、とても和気藹々とした雰囲気。私は4年生なので、後輩に気を遣わせてしまうかな? と心配していたのですが、すごく仲良くしてもらっています」
「そんな状況で、WGCを優勝できたことはチームの自信にもつながったと感じています。ただどうしてもBWSCを経験している人・していない人で経験の差が出てしまうのが正直なところ。25年の大会に向けて、後輩たちの育成など強化していきたいです」(小平さん)
ちなみに、この大会期間中に還暦を迎えられた木村英樹教授。1996年からチームを率いてきた中で、今年のメンバーたちをどのように見ていたのでしょうか?
「実は、大会期間中に体調を崩してしまいまして……戦力になれなかったと反省もあるのですが、学生たちが中心となって優勝を手にできたのはとてもうれしい結果でした。レース後には、胴上げもしてもらいましたよ(笑)
女子メンバーが増えているのは、理系学生全体にも言えることかもしれません。もちろん彼女たちが和気藹々と楽しんで参加してくれているのもチームの雰囲気に影響していますが、今年の新入生たちはコロナ禍の大学生活を知らない子がほとんど。やっと通常通りの大学生活が送れるようになったのも影響しているかもしれませんね」(木村教授)
2025年BWSCは約2ヶ月前倒しに……課題と対策は?
大学のチームは常に学生たちの入れ替わりがあるため、来年大会に出場予定のBWSC経験者は半数ほどになってしまいます。さらに例年の10月末開催が8月末に前倒し。チームを率いる工学部の福田紘大教授は、これからの1年をどう過ごしていくかが勝負になると話します。
「開催時期が前倒しになることは、毎年メンバーが入れ替わる大学チームにとっては大きな影響があります。ただし、学生たちが責任感を持ってくれるようになり、自主的に動いてくれるようにもなったのは良い成果ではないでしょうか。新車体の設計についても、学生主体でアイデアを出してくれて、活発な議論ができています。私たちが『〇〇をしなさい』と指示を出さずとも、自分たちでやるべきことを見つけてくれているのはいい成長を感じられていますね」(福田教授)
工学部機械工学科2年の木村遥翔(はると)さんは、昨年との心境の変化を次のように話してくれました。
「1年生の頃はすべてが受け身の状態。大会についても先輩に教わることばかりでした。2年生になって、後輩ができてからは『受け身のままではいけない』と感じるようになり、責任感が伴うようになったと思います。2025年のBWSCはもちろんのこと2027年大会も見据えながら、この1年取り組んでいきたいです」
リベンジを果たし、目指せ世界一!
では、学生のみなさんに2025年の大会に向けた意気込みを伺っていきましょう。
「まだ実感がわかないのが正直なところですが、楽しみな気持ちが強いです。まだまだ私たちができることはたくさんあると思っているので、残り1年しかありませんが、できる限りのことを尽くして頑張ります」(種田さん)
「個人的には、焦っています(笑)。まだまだ成長できるところはたくさんあると思うので、自分自身を成長させていきながら準備していきたい。WGCでの課題をBWSCへと繋げられるよう、メンバーとのコミュニケーションを密にとりながら進めていきたいです」(木村さん)
「来年は大学院に進む予定なので、BWSCにも出場予定です。2021年の大会が新型コロナウイルスの影響により中止され、出場できなかった経験を踏まえて挑んだ23年の大会。そして来年が私にとっては最後のBWSCになります。いろんな思いがありますが、目標は優勝。前回大会で得た海外チームの技術も参考にしつつ、東海大学の実力を100%発揮できる大会にしたいと思います」(小平さん)
「8月に前倒しになったことで焦る気持ちもありますが、来年こそは優勝を目指したい。反省を活かして、リベンジですね。大会をゴールとするとまだ20%くらいの完成度だと思っています。まだまだやれることはある、そう信じて進んでいきます」(学生代表・熊林さん)
最後に、先生方からも学生たちに期待していることを伺いました。
「限られた中で、最高のパフォーマンスを出し切れるように頑張ってほしい。BWSCに出場するチームは、全チームが優勝を狙っています。技術の向上はもちろんのこと、チームで戦える力を身につけてもらえるといいですよね。今年の夏に行われたWGCでは、学業と地域イベントと新車体の設計と同時進行で進めることが多かった中で優勝することができた。チーム全体を見ながら、やるべきことに取り組める学生が増えてきたのは素晴らしいこと。期待しています!」(佐川監督)
「25年の大会は、開催時期が早まりレギュレーションも変わりましたが、見方を変えれば勝負できる大会ともいえます。仲間たちと勝利を勝ち取って、喜びをわかちあいたいですね。1年後にはもう大会が終わっているわけですから、どんな結果になるか私自身も楽しみです」(福田教授)
「毎年のことではありますが、学生チームは入れ替わりが発生する分、毎年フレッシュな気持ちで挑めるのがいい部分でもある。新しいメンバーにどんどん新しい発想を出してもらって来年のBWSCに挑みたい。学生にとっては、オーストラリアの大自然を存分に感じられるまたとない機会。世界中の仲間とふれあい、5日間過酷な条件で戦うことは人間としても成長できる大会なので、出場してよかったと心から思えるよう頑張ってもらいたいです」(木村教授)
東海大学は、この世界的なソーラーカーレースで過去に総合優勝2回、準優勝2回、第3位1回の輝かしい戦績を残しています。新たなメンバーでたくさんの人の期待を背負って挑む、2025年大会が楽しみですね。
Profile
東海大学ソーラーカーチーム
大きなスケールを誇るチャレンジプロジェクトの一つである「東海大学ソーラーカーチーム」。東海大学に所属する大学生・大学院生、約50名のメンバーで構成されており、学生自らが組織運営するプロジェクトチーム。省エネルギー技術を駆使した電気自動車やソーラーカーの研究に力を入れながら、ソーラーカーの世界大会でもある「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」への参加、企業とのソーラーカー共同開発、学内外への広報活動にも取り組んでいる。また近隣の小学校を対象にしたエコカー教室を開くなど、地域貢献活動にも積極的。
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