ECサイトを開くとポップアップが出現。「あなたが欲しい服はこちらでしょうか?」そこにはECサイトがまるで自分の好みを知っているかのようなどストライクなデザインの服が表示されています。しかも期間限定値引き中ときているので、オーダーボタンを押すしかありません。
これは将来想定されるシナリオですが、こんな世界が本当に実現しそうなのです。
ユーザー好みの服の特徴をデータ化し、画像を生成
カリフォルニア大学、サンディエゴ大学、Adobeの研究チームはAIがユーザーの購買データを分析し、ユーザーの好みにマッチしたデザインの服の画像を生成するAIシステムを開発し、その報告レポート「Visually-Aware Fashion Recommendation and Design with Generative Image Models」を公表しています。
AIがECサイト上の購買データからユーザーの好みの服の特徴量(特徴をデータ化したもの)を抽出。特徴量に基づきユーザー好みのデザインの服の画像を瞬時に生成するという内容です。
同研究チームは2つのアルゴリズムを活用。1つ目は「CNN(畳み込みニューラルネットワーク)」です。これは従来のリコメンド機能に活用されているアルゴリズムで、Amazonの6つのカテゴリー(男女の靴、トップス、パンツ)における購買データを基にユーザーの好みのスタイルの特徴量を抽出します。
もう1つのアルゴリズム「GAN」は特徴量を基にユーザーの好みの服の画像を生成します。GANはAI研究の第一人者であるイアン・グッドフェロー(Ian Goodfellow)氏が2014年に発表したモデル。GANは正式には「Generative Adversarial Networks(敵対的生成ネットワーク)」と呼びます。
GANは「貨幣偽造犯」と「警察」の間でしばしば起きる、貨幣偽造と偽造貨幣識別のいたちごっこの競争原理をAIに応用したもの。ジェネレーター(生成者)とディスクリミネイター(識別者)の2つのネットワークを活用しており、前者は貨幣偽造犯のように画像を生成し、後者がその画像を警察のように本物に近いかどうか識別します。
さらに、ジェネレーターは識別されないような画像を生成ディスクリミネイターは再度、画像が本物かどうか識別しようとします。このように両者が競争することで、本物に近い画像が生成される方向へと向かうのです。
このシステムは消費者と小売業者にも影響を与えそうです。消費者にとってはテーラーメードの洋服がより簡単に手に入るかもしれません。小売業者はユーザー好みの「売れる」確率が高いデザインの服の画像を生成し、それを広告表示したりレコメンドしたりして、オーダーが入った分だけ生産する。売れ残りの服は発生しません。
もしかすると、将来のECサイトではそんなようなことが可能になるかもしれません。このAIシステムはまだ商業化には程遠い状態ですが、着実に前進している様子。AIが今後の小売業のあり方に大きく影響することが予測されます。