ニューヨーカーが日本食と聞いて、最初に思い浮かべるのは寿司――。そう思った方は情報のアップデートが必要です。寿司が日本食の代表だったのはもう10年以上前の話。今日では他の日本食も人気です。例えばラーメン。昔からマンハッタンにあったオリジナルのラーメン店に加え、いまでは日本からラーメンチェーン店が多数進出しており、一風堂イーストビレッジ店が2008年にオープンしてから10年経つ今でも、ニューヨークのラーメンブームはいまだに衰えを見せません。
それに加えて、ここ数年、日本のチェーンレストランが立て続けにオープンしています。「和定食の大戸屋」「うどんのつるとんたん」、そして新しい所では「いきなりステーキ」もオープン。もはや日本食のイメージが覆ったように見えます。このブームの背景や成功の秘訣には何があるのでしょうか?
ラーメン一風堂
2008年のオープン当初から常に行列のできる店。「Shiromaru Hakata Classic」が15ドル(+税とチップ)と、日本の一風堂と比べると値段は張りますが「2時間待ちでやっと入れた」という人も多く、ピークの時間帯には行列を覚悟していく必要があります。日本人店員と日本語を話さない店員はどちらも大きな声で「いらっしゃいませ!」「ありがとうございました!」と迎えてくれ、つたない日本語で「3名様ご案内します!」と声を張り上げるアメリカ人店員の姿は微笑ましくもあります。口コミサイトでは「今まで食べたラーメンのなかで一番美味しい」と絶賛する声も多く、人気の絶えないラーメン店です。
ラーメン一蘭
2018年3月28日にニューヨークで2店舗目となるミッドタウンウエスト店を開店したラーメン一蘭。1号店はラーメン店飽和状態のニューヨークのブルックリンにオープンし、当初はどうなるかと思われましたが、日本店と同様の「味集中カウンター(Flavor Concentration Booths)」と呼ばれる仕切られた個人用ブースで1人になって味に集中して食べるというユニークなアプローチが話題を呼びました。味集中カウンターは日本よりやや広めに設けており、様々な体型の人が快適に過ごせるよう工夫されています。
また、食べ物のオーダーをカスタマイズするのが好きなアメリカ人にとって、麺の固さやトッピングを細かく指定できるところが好評な様子。ブルックリン店は店舗横に工場を併設しており、まさに「できたてラーメン」を味わえる、こだわりのラーメン店です。
大戸屋
日本では手軽でカジュアルな雰囲気の定食屋ですが、ニューヨークの大戸屋はハイエンドな店内。「しまほっけ定食25ドル(チップ込)」とお値段も張ります。日本食を恋しがる日本人客に加え、「寿司とラーメン以外の日本食だって知っているのだ」という食通のアメリカ人も多く来店しています。
つるとんたん
Danny Meyerの老舗レストラン「Union Square Cafe」が、家賃の高騰で別のロケーションに移り、「次は何が入るのか?」と話題にのぼっていたところ、オープンした店が日本のうどんチェーン店だったということで注目を集めました。店内で打った手打ち麺はコシがあり大変美味。「顔がすっぽりと入ってしまいそうな大きな器」は、インスタ映えする食べ物を撮ることに熱心な若者にも人気があります。
いきなりステーキ
バーでは何時間もカウンター前に立ったままお酒を飲むのに、「立ち食い」には馴染みがないアメリカで、いきなりステーキは「椅子のないレストラン」ということで話題になりました。2017年2月にニューヨーク最初の店舗をオープンし、1年で既に5店舗に拡大しています。ただ、「ステーキの立ち食い」はあまりアメリカ人に好まれなかったようで、各店舗にそれぞれ立ち食い用テーブルの他に椅子の席も用意されています。
味だけではない「付加価値」――独自コンセプトと日本特有のサービス
ニューヨークで働く著者が見る限り、日本食チェーンブームの要因の1つとして、近年のラーメンブームで「日本食は寿司だけではない」という認識がアメリカ人に広がったことが考えられます。それに加え、多くの地元メディアが報じているように、「椅子のないステーキレストラン」や「仕切りがあり、一人ずつ会話せずに食べるラーメン屋」など、普通とは違う「ユニークなセッティング」も好奇心旺盛なニューヨーカーの興味をそそるように見えます。
また全店共通して、口コミサイトのレビューで「サービスの良さ」が多く言及されています。日本とアメリカのチェーン店において、サービスのレベルの違いが、日本チェーン店の人気に一役買っていると言えるでしょう。ウエイターは必ずしも日本人ではありませんが、トレーニングをしっかりと受けていることが分かる丁寧さや、知識の深さも共通して見られます。日本のおもてなしがアメリカでは大変驚かれ、好印象を残すのでしょう。