空前のラーメンブームが続くアメリカ。ここサンフランシスコでもラーメンはシリコンバレーの食文化として一大ジャンルを確立しているといっても過言ではありません。以前、著者がTwitterやUber、AirBnBなどで働く友人たちに誘われて行った夕食会の場所もラーメン・ダイニングの人気店でした。しかし、このような席で必ず話題になるのはラーメンではなく、「SAKE(酒)」なのです。
地産地消へのこだわり
酒は酒でも、サンフランシスコの人々に特に愛されているのが「セコイヤ酒(Sequoia Sake)」。これは初のサンフランシスコ産の日本酒なのです。この町では地産地消がクールで、本銘柄もうたうのも「Made Local, Drink Local」。従って、人気を集めるのも極めて自然な流れだといえます。
日本酒は主原料となる米と水選びが極めて重要です。地産地消を大切にするセコイヤ酒が使う米は、カリフォルニアの州都であるサクラメント産のカルローズ。その「食用米」はカリフォルニア州で生産量が最も多く、広く出回っているのですが、実は昔「酒米種」のDNAと間違ってかけあわされてしまったという歴史があります。しかし、この偶然が功を奏し、酒米種の味が改良。カルローズは「酒米」としても使えるようになりました。
とはいえ、創業当初は米農家や業者との交渉が非常に大変だったそう。「無名酒造のうえに注文ロット数が少なく、さらにお米の味やレベルもバラバラで、いい日本酒の特徴である『安定した味』を作り続けることが非常に困難だった」とセコイヤ酒を夫婦で作るジェイクさんとノリコさんは言います。
水はヨセミテ国立公園の麓からサンフランシスコへ流れてきているものをフィルタリングして使用。この水をカルローズに加え、セコイヤ酒はサンフランシスコ市内で丁寧に醸造されます。
夫婦二人三脚で道を開く
この酒造は夫婦経営です。ジェイクさんはシリコンバレーのテクノロジー企業に勤務。さぞかし投資家などを巻き込んだ大掛かりなビジネス展開計画をしていたのかと思いきや、奥様のノリコさんとの二人三脚で事業を立ち上げ、あえて家族経営を選んだそうです。その理由について尋ねると、「外野から口出しされずに、自分たちの理想とする日本酒づくりを徹底的かつ自由に追求したかったから」とジェイクさんは言います。
2年間の試行錯誤を経てついに販売となったとき、アメリカではちょうどラーメンブームがさらに勢いを増していたところでした。そこで積極的に人気ラーメン店や和食レストランに商品を置いてもらうように営業を展開。次第に口コミでアメリカ人のファンが増えていったそうです。
「日本ではラーメンにはビールが多いですが、こちらのアメリカ人やサンフランシスコに訪れる観光客が、話題のラーメン屋をくぐるときは『やっぱりSAKEだね』というモードになるのです。日本酒の販売量が減少気味の日本に比べ、世界では和食やラーメンブームの背景を受けて日本酒はアツいんです!」とノリコさんは語気強く語ってくれました。
地ビールやバーボン樽とのコラボでイノベーションを起こす!
信念を曲げずに日本酒を作り続けていくことで、アメリカの生酒ファンの心を掴み、ついにはサンフランシスコ界隈やシリコンバレーを代表する日本酒にまで成長していったセコイヤ酒。その成功によって、カリフォルニアの契約農家からお米を安定供給してもらえるようになり、長年課題だった「味のばらつき」も解消されました。
その一方、ご夫婦は面白いことにチャレンジし続けています。新鋭の地ビール・クラフトビール醸造所のベアボトルビールとコラボして、酒ビールの「HALF SAMURAI」の開発に協力。つい最近では、アメリカならではの「バーボンウィスキー樽で熟成した酒(Bourbon Barrel-aged sake)」も売り出し始めました。
ほしいものがなければ自分で作る。小さく始めつつも夢は大きく。こだわりは貫く。そして、近隣のコミュニティや異業種との交流を通じてイノベーションを生み出す――。セコイヤ酒を作るご夫婦が持つこのようなスピリットからは、アメリカのハイテク起業家が連想されます。セコイヤ酒も「シリコンバレー流のモノづくり」の1つなのかもしれません。