ワールド
2018/11/1 21:00

普通の観光ガイドじゃ満足できない! 「ロンドン地下鉄」の一風変わった楽しみ方

世界最古の地下鉄であるロンドン地下鉄。通勤・通学や観光の足としてロンドン市民や訪問客が年間13億人も利用しているが、ただの移動を目的とする交通機関として扱うのはもったいないほどの知られざる魅力がある。当記事では、ありふれたロンドン地下鉄の乗車ガイドや車両紹介などではなく、知れば知るほど興味が沸く一風変わった楽しみ方を紹介していく。

 

地下鉄を指す「メトロ」の語源は鉄道会社?

本題に入る前に、まずはロンドン地下鉄の簡単な歴史から。

 

19世紀半ば、7つの海を制し世界中に躍進していた大英帝国の首都ロンドンは発展を遂げており、人口と道路の交通量も多くなっていた。既存のインフラでは支えきれないとされ、市内を横断する地下鉄道の建設が可決。こうして世界初の地下鉄が1863年に開業した。この路線はメトロポリタン鉄道という私有会社が建設と運営を行い、後に世界中で地下鉄を指す「メトロ」の語源になったと言われる。

 

その後次々に他の私有会社が路線を新たに開業していったが1933年にネットワークが公有化され、1948年に国有化された。現在は地方公営企業であるロンドン交通局(Transport for London)が運営している。

↑開業当時の姿に復元されたBaker Street駅。薄暗い雰囲気の中、ガス灯を模した電灯がホームを照らす

 

↑ホームには復元記念に世界最初の地下鉄道を建設したメトロポリタン鉄道のエンブレムを模した記念プレートが取り付けられている

 

【ロンドン地下鉄の楽しみ方その1】建築を楽しむ!

ユニークな車両などが注目されがちなロンドン地下鉄だが、実は駅舎も魅力にあふれている。時代によって様々な建築様式が採用されており、特に当てもなく駅巡りをするのも十分な観光となるだろう。ここでは採用された代表的な様式を時系列順に解説していき、それを見学できる一部の駅を挙げていく。

 

<最初期の駅>

Paddington (ディストリクト線ホーム) 、Notting Hill Gate、Baker Street (サークル線ホーム)等

地下鉄が開業した19世紀半ばは電車がまだ発明されておらず、地下区間にも関わらず蒸気機関車を使って列車を牽いていのでとても煙たかった。煙を逃すために深度が浅い駅の多くは完全に覆われず、できるだけ自然光を取り入れた開放的な空間として設計されたのである。これは当時多くの乗客にとって「地下鉄」という暗闇のなかを突き進む未知の乗り物への不安を和らげる目的もあった。

 

この時代の駅はホームのレンガのアーチやドーム型屋根が特徴となっている。なかでもBaker Street駅の5・6番ホームは1863年に開業した線区の一部で開業当時の姿に復元されているので必見だ。

↑Notting Hill Gate駅のサークル・ディストリクト線ホーム。改札方面部分は半地下となっているが反対側は開放的なガラスアーチの元にある

 

<1900年代のレズリー・グリーン式>

Russel Square、Edgware Road (ベーカールー線) 、Chalk Farm、Holloway Road駅等

ロンドン地下鉄の初期の路線はトンネルを掘る技術が未熟だったため、深度が浅いところを走っていた。しかし19世紀後半には掘削技術が進展し、1890年を皮切りに大深度を走る地下鉄路線が開業していった(余談だがこれらで使用されていた車両はトンネルの断面に合わせた筒形となっており、ロンドン地下鉄の愛称である「チューブ」の元となった)。

 

大深度路線は電車で運行されていたので換気がそれほど重要ではなくなり、新規路線の開業に伴い駅のデザインも変わっていった。なかでも一際目を引くのは建築家レズリー・グリーンがデザインした駅。「オックスブラッド(雄牛の血の意)」と呼ばれる赤茶色のタイルが使用され、ガラス張りのアーチが組み込まれている。

↑赤茶色のタイルのファサードが特徴的なレズリー・グリーン式の地下鉄駅。写真は代表的なRussel Square駅

 

<1920~30年代のチャールズ・ホールデン式>

ノーザン線:Balham、Tooting Bec、Clapham South駅等

ピカデリー線:Sudbury Town、Southgate、Arnos Grove、Cockfosters駅等

1920年頃からロンドン地下鉄の路線の一部は郊外へ延伸され、この際に新しく開業する駅の一部を建築家チャールズ・ホールデンが手掛けた。

 

ノーザン線の南部の駅では白いポートランド石とガラス張りのスタイルが起用された一方、ピカデリー線の末端区間の駅ではコンクリートやレンガとガラス窓を織り交ぜたものとなった。天井が高く開放的な空間を生み出し、以前のシックな風潮の地下鉄駅と比べて一線を画すデザインとなった。

↑ノーザン線のMorden支線の駅に見られるホールデン式建築を使ったTooting Bec駅

 

↑ピカデリー線のActon Town~Rayners Lane間の駅に見られるホールデン式建築。写真はSudbury Town駅

 

↑Southgate駅は宇宙船のような円形で地下鉄駅のなかでも独特な様式となっている

 

<1990年代のジュビリー線延伸区間>

Westminster、Southwark、Canary Wharf駅等

1960年代以降新しい地下鉄駅はほとんど建てられなかったが、1999年にジュビリー線が都市部に位置するGreen Park駅から再開発が進む東のStratfordまで延伸された。この延伸区間の駅は大深度を通り、空間をダイナミックに使った造りとなっている。特にWestminster駅は鉄筋コンクリートが交差し、上からジュビリー線コンコースを見下ろすと壮観だ。

↑ロンドンの金融街の中心部に位置するCanary Wharf駅

 

↑Westminster駅は既存のディストリクトとサークル線ホームのさらに地下にジュビリー線を通したため高低差が大きく、ダイナミックな空間が生まれた
  1. 1
  2. 2
  3. 3
全文表示