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2020/1/16 20:38

世界が注目する「大エジプト博物館」、2020年開館に向けて建設や保存修復プロジェクトが進行中【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回はエジプトにおける取り組みを紹介します。

 

エジプトでは今、2020年10月のオープンを目指し、「大エジプト博物館」(GEM)建設が急ピッチで進められています。JICAは、単一文明を扱う博物館としては世界最大となるこの大エジプト博物館の建設事業に加え、収蔵するツタンカーメン王の至宝を含む数々の古代エジプトの重要遺物の調査分析・保存修復、関連する人材育成、組織体制や運営計画支援など、多岐にわたるプロジェクトで多面的な協力を行っています。

↑エジプト・ギザの三大ピラミッド近くに建設中の大エジプト博物館(Grand Egyptian Museum/GEM)。遺物の修復保存作業は博物館に隣接する大エジプト博物館保存修復センターで行われています(写真提供:GEM/EHAF Consulting Engineers)

 

日本の最先端科学で古代エジプトの謎の解明が進む

「今から97年前(1922年)、英国人考古学者ハワード・カーターにより、エジプト・ルクソールの王家の谷で発見されたツタンカーメン王墓。その副葬品は約5000点ですが、約7割はこれまできちんと科学的な分析調査がなされてきませんでした」。こう明かすのは、長年にわたり同博物館の関連プロジェクトに携わる専門家の金沢大学・新学術創成研究機構の河合望教授です。

 

JICAは2008年から2016年まで、エジプト政府が創設した大エジプト博物館保存修復センターの人材育成を主目的としたプロジェクトを実施してきました。このセンターは大エジプト博物館に収蔵予定の遺物だけでなく、将来的にはエジプト全域の文化財保存修復と継続的な人材育成を担う、国際的な拠点となることを目指す施設です。

 

当初は精巧なレプリカを用い、現地スタッフに対して予防保存や保存修復などの研修を実施。これまで派遣した専門家は180名を超え、研修者は延べ2250名に上り、今ではエジプト人研修経験者による国際学会や学術専門誌への発表なども活発化しています。

 

2016年からは本物の遺物を対象として、新たに「大エジプト博物館合同保存修復プロジェクト」(GEM-JCプロジェクト)がスタート。日本国際協力センター(JICE)と東京藝術大学が専門家を派遣し、エジプトと日本が一緒にツタンカーメン王をはじめとする重要遺物の保存修復作業に当たっています。

↑大エジプト博物館保存修復センターでの修復作業。高解像度デジタル顕微鏡を用いた壁画の非破壊診断分析は、保存状態の把握だけでなく、新しい考古学的知識を得る研究にも貢献しています(写真提供:GEM/JICA)

 

人材育成から修復まで随所に生きる日本のノウハウ

大エジプト博物館合同保存修復プロジェクトには遺物の状況調査から、応急処置、さらに保存修復センターへの梱包・移送、センターでの保存修復作業など全ての過程が含まれています。

 

膨大な候補の中から博物館オープン時に必須と思われる遺物に絞り込み、「壁画・石材」「染織品」「木製品」の3ジャンル72点の遺物をセレクト。それらを日本とエジプトの専門家が共同で作業するリード遺物10点と、エジプトの専門家が主となり進めるフォロー遺物62点とに分けました。

 

保存修復センターへの移送は、振動などで木製品の金箔が剥がれ落ちないように日本の伝統的な和紙で保護した上で、美術品・文化財の運搬に実績ある日本通運(株)の協力により行われ、センターでの各種分析では、最先端機器による日本の仏像の非破壊検査などの技術や経験も駆使されるなど、さまざまな日本のノウハウが生かされています。

↑「ツタンカーメン王のベッド」の梱包・移送作業。美術品輸送にノウハウのある日本通運(株)の協力により実施されました(写真提供:GEM/JICA)

 

↑木製品ラボの作業風景。JICAが提供するマルチスペクトル技術とポータブルXRF分光計などを活用してツタンカーメン王のベッドの非破壊分析を行っています(写真提供:GEM/JICA)

 

こうしたなか、9月に京都、10月には東京で最近のプロジェクト進捗報告を兼ねたシンポジウム「ファラオの至宝をまもる」が開催され、東京会場では250人を超える考古学ファンが熱心に耳を傾けました。

 

東京のシンポジウムでは河合望教授の基調講演に続き、各分野を担当する専門家3名が、最近の作業で明らかになりつつある新事実をダイジェストでレポート。ツタンカーメン王墓から発掘された染織物は劣化が激しく、そうした悪条件でも高精細デジタル顕微鏡や紫外線撮影などによる分析調査の結果、腰巻(ふんどし)のような肌着類ほどキメ細かで上質な織りで作られていることや、2輪馬車(チャリオット)の主要部品に当時エジプトに生えていないニレ属の木材が使われていることなど、次々と興味深い新事実が判明していることが紹介されました。

↑10月に東京で開かれたシンポジウム。会場には多くのエジプト考古学ファンが詰めかけました

 

開館に向けてラストスパート

シンポジウムの最後に登壇した大エジプト博物館合同保存修復プロジェクト総括の中村三樹男チーフ・アドバイザーは「これから展示方法の提案やたくさんの遺物の搬入など、まだまだ課題は山積みですが、スタッフ一同、一丸となって取り組んでいきたい」と開館に向けての意気込みを熱く語りました。

 

大エジプト博物館には、ツタンカーメン・コレクションを含む10万点を超える文化遺産が収蔵され、そのうち約5万点が展示される見込みです。ツタンカーメン展示エリアなどでは、日本の貢献協力にちなみ、アラビア語と英語に加えて日本語による説明文も記載されます。

↑2020年10月開館予定の大エジプト博物館完成予想CG(外観)。文化、観光、雇用など、エジプトの発展に大きな貢献が期待されています(写真提供:GEM/EHAF Consulting Engineers)

 

現在、大エジプト博物館合同保存修復プロジェクトと並行して、同博物館に展示予定の「第二の太陽の船」の復元にかかわる支援や、首都カイロから同博物館近くまでをつなぐ「カイロ地下鉄四号線」の整備事業も進められています。JICAは、今後も古代エジプト文化の保護・発信に協力することで、エジプト独自の豊かさやアイデンティティーの確立を支援し、重要産業である観光を中心とした経済発展に協力を続けていきます。

 

【JICA(独立行政法人国際協力機構)のHPはコチラ

 

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