ビールや炭酸飲料の缶を開けたら、中身がプシュッと勢いよく出てきてこぼれてしまった…という経験はきっと誰でも一度はしたことがあるでしょう。そんな炭酸飲料の噴きこぼれ防止に効くと巷で噂されているのが、缶を開ける前にトントン叩くという方法。そんな俗説を1031本もの缶ビールを使ってまじめに検証した科学者たちがいます。彼らが導きだした結論とは?
缶をたたくと気泡が上部に集まるから噴きこぼれない?
ビールや炭酸ジュースなどの炭酸飲料には炭酸ガス(二酸化炭素)が溶かし込まれていて、それが小さな気泡となり、独特の爽快感をもたらします。でも缶を落としてしまったり間違えてよく振ったりしてしまうと、缶のなかで気泡が増えて、缶を開けたときにその気泡の勢いによって中身まで噴き出てしまいます。
そこで、それを防ぐと言われているのが、「開ける前に缶をトントン叩く」方法。叩くことで缶についていた気泡が離れて缶の上部に集まり、缶を開けたときにまず気泡だけが缶の外に出ていくので、中身が噴きこぼれることが少なくなるという理論です。
そして、この俗説の効果を科学的に検証しようと挑んだのが、南デンマーク大学で公衆衛生学などを研究している研究者たち。このチームは330mlの缶ビール1031本を用意し、缶を振ったり叩いたりしてどんな変化が見られるか確認しました。俗説の叩く方法では、1本の指を使って缶の1方向から3回叩き、缶を振るときは2分間振り続けました。1031本を、「缶を振って叩く」グループと、「缶を振らずに叩く」グループ、「缶を振って叩かない」グループ、「振りも叩きもしない」グループの、合計4つのグループに分類。それぞれを開封して、噴き出したビールの量と開封後の缶の重さを比較して分析しました。
その結果、缶を叩いたときと叩かなかったときを比較すると、こぼれたビールの量は平均0.159gとほとんど差がなく、振らなかった缶だけについて見てみても叩いたときと叩かなかったときで、まったく差がないことがわかりました。したがって、「缶を叩くと噴き出しにくい」という俗説には効果が見られなかったという結論になるんです。
ネット上には、「缶を叩いたら中身がこぼれなかった」という経験者の声がちらほら見られますが、1031本もの缶を使った検証からその方法は科学的には根拠がないと言われてしまうのかもしれません。炭酸が噴き出るのを防ぐには、気泡が落ち着くまで待つしかないんですね。
ちなみにこの検証実験で用意された1000本以上のビールは、デンマークのビール会社「カールスバーグ」から提供を受けており(同社はこの実験に介入していないとのこと)、実験後は研究チームのメンバーや学生たちで飲んだそうですが、気が抜けたビールがおいしかったかどうかは不明です。