Google Mapsなどの便利なマップ機能がまだない時代は、初めて出かける場所には地図を見て歩いたし、頭のなかで道順を覚えていったものです。しかし、スマートフォンやクルマのナビゲーションシステムが普及すると、「道を覚える力」を使う必要性がなくなってきているでしょう。そんなナビゲーションスキルの衰えは、特に都市部で育ってきた人に顕著であることが最新の研究でわかりました。
フランスのナント大学とイギリスのロンドン大学の研究チームは、「シーヒーロークエスト(Sea Hero Quest)」というゲームを使っている400万人のプレーヤーのデータから、ナビゲーションのスキルについて分析しました。このモバイルゲームはプレーヤーが船を操縦していくストーリーで、アルツハイマーの研究を目的に2016年にイギリスで開発され、プレイヤーの記憶力や空間認知力などを図ることができます。プレーヤーの年齢や性別、出身国、どの都市で育ったかなどの基本データはすでにわかっており、このチームはこのなかから一定のレベルまで達した38か国44万2000人のプレーヤ―のデータを抽出し、解析を行いました。
田舎育ちは逆に強い
その結果、年齢が高いほどゲームのスコアは低くなることがわかりました。年齢とともに認知機能は低下すると言われていますが、今回の発見はそれと一致。しかし、都市よりも田舎で育った人のほうが道を覚える能力に長けていることがわかり、それは年齢によるスコアの低下も補うこともわかったのです。例えば、田舎で育った70歳の人のナビゲーションスキルは、平均的な60歳のスキルと同等になるという具合です。都市部で育った人と田舎で育った人のナビゲーションスキルにもっとも大きな差がついた国は、アメリカでした。
研究チームは世界の都市で、道路がどのように街のなかに配置されているか分析も実施。すると碁盤の目のように道が整然とわかりやすく作られた都市で育った人は、道路が複雑に作られてできている都市で育った人に比べて、ナビゲーションスキルが低いことも判明しました。アメリカの都市では碁盤の目状に作られた都市が多いため、田舎で育った人とのナビゲーションスキルに大きな差が出る結果を生み出したのだと考えられます。
都市部で育った人の方がなぜ道を覚えるスキルが低くなるのか、その理由は今回の研究では明らかになっていません。しかしこの研究チームは、道を覚えやすい環境にあるとナビゲーションスキルが弱くなってしまう可能性を指摘しています。例えば、田舎ではどこも似たような景色が続くため、道を覚えるためにはより明確な目印を探す必要がありますが、都市部であれば番地の表示など、道を覚えやすい情報が多くあふれているものです。脳神経学上でも、より複雑な環境で生活していると、脳の機能や構造に影響を与えることがでもわかっており、難しい環境にいるほど道を覚える能力が発達していくものなのかもしれません。
私たちも、ときには便利なテクノロジーの機能をオフにして、自分で道を覚えたり探し出したりする力を鍛える必要があるのかもしれないですね。