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2020/3/30 18:30

国として初めて「公共交通機関」を無償化したルクセンブルク。国民が冷めているのはなぜ?

ドイツ、フランス、ベルギーに国境を接する欧州の小国ルクセンブルクが、3月1日より国内公共交通機関の無償化に踏み切りました。国としてこのような取り組みを行うのは同国が初めて。もともとルクセンブルクでは電車やバスといった公共交通機関が一律料金で、2時間で2ユーロ、1日どれだけ乗っても4ユーロと比較的良心的な運賃でしたが、どのような理由があったのでしょうか? 環境問題対策としての側面に焦点を当てながら、その効果や可能性について現地からレポートします。

 

大渋滞と大気汚染

↑風景はきれいだけど、空気はそうでもないルクセンブルク

 

今回の施策が導入された背景には、ルクセンブルクが抱える貧困率の上昇、そして何よりも交通量の増加があります。ルクセンブルクは周辺国に比べても給与水準が高く、2019年の国民一人当たりのGDPは世界一。しかし一方で、近年では住宅価格の上昇による貧困率の拡大が問題となっていました。

 

さらに、通勤時における自動車の渋滞問題もあります。人口約60万人のルクセンブルクにおいて越境労働者は約20万人にものぼり、夕方4時を過ぎると至るところで渋滞が見られます。この問題に関しては、排ガスによる大気汚染の観点から、近年EUからも幾度となく是正を促されてきました。こうした問題の解決策の一つとして、公共交通機関の無償化が導入されたのです。

 

では、なぜルクセンブルクでは国内すべての公共交通機関を無償にすることができたのでしょうか?

 

実はもともと、利用者が支払う運賃は実際にかかる運営コストの約10%のみで、残りは国の負担で運営されていました。そして今回の無償化に際して、この10%を埋め合わせるために、ある制度の変更もしくは廃止が議論されているのです。

 

ルクセンブルクでは自動車で通勤する場合、確定申告をすると通勤距離に応じた金額が還付されるという制度があります。この制度を変更もしくは廃止し、ここに使われていた財源を公共交通機関の提供に充当しようという考えなのです。今回の無償化制度が、いかに自動車利用の抑制に焦点を当てたものなのかわかります。

 

耳障りはいいけど、実際は……

↑無料で使えるようになったけど、サービスの質はどうなの?

 

公共交通機関が無料で利用できるようになり、自動車通勤時の税還付制度も変更・廃止が検討されているため、費用面で考えれば公共交通機関を利用するほうが圧倒的にメリットは大きいように思えます。実際はどうなのでしょうか?

 

現状ではまだ多くの人が自動車を使った通勤を続けており、渋滞が大きく緩和された様子は見受けられません。というのも、ルクセンブルクは公共交通機関を利用した移動がかなり不便で、そもそも本数が少ないことに加えて遅延は日常茶飯事。それゆえ、多くの人々が公共交通機関を利用することをためらっているのが現状です。

 

公共交通機関の不便さを知っているため、無料だからといって自動車の倍の時間をかけて電車に乗ろうとはなかなか思わないですよね。残念ながら、今回の施策における渋滞緩和への効果を期待する国民の声もあまり聞こえてきません。

 

この点に関しては政府も認めていて、今後数年をかけてより利便性の高い交通サービスを提供していくことが必要と発言しています。今回の施策が渋滞緩和にどれほどの効果があるのか、もう少し長い目で見守っていくことが必要になりそうです。

 

都市単位でみると、欧州を中心に約100の都市で同様の施策が既に導入されています。例えば、すでに公共交通機関の全面無償化に踏み切ったフランス北部の都市ダンケルクやエストニアの首都タリンにおいては、実際に利用者数の増加など一定の効果が表れています。

 

一方で、試験的に取り入れてみたものの望む効果が得られず、導入を断念した都市があるのも事実。公共交通機関無償化の効果は、その都市の規模や地形、またどのような交通サービスを提供できるのかなどによって大きく変わってくるといえます。とはいえ、公共交通機関無償化が、大気汚染など環境問題に対する解決策となりうる可能性を持っていることもまた事実といえるでしょう。

 

最近は異常気象など地球温暖化の影響が目に見える形で現れ、私たちの生活を脅かしています。迅速な対策が急務となっていますが、欧州各都市やルクセンブルクは環境保護という大義のもとでこういった政策を導入しており、その点は評価に値するといえるでしょう。公共交通機関の利用を促すという意味で、ルクセンブルクの施策はまだまだ改善すべき点も多いものの、今後の行方に注目していきたいと思います。

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