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2020/5/20 18:30

何の目的で丸くなった? 旧石器時代の「丸い石」の謎がついに解明

人類が日常のさまざまな道具として石を使い始めた旧石器時代。その時代にあたる200万年以上前から、手のひらサイズの丸い石を使っていたことがわかっており、数々の遺跡からこの球体の石が発掘されています。意図的に丸い形にされていたと考えられますが、その用途についてはこれまで解明されていませんでした。しかしイスラエルの研究チームが、最近その目的をようやく突き止めたのです。

↑ケセム洞窟で見つかった丸い石とその表面 (c) 2020 Assaf et al.

 

イスラエルのテルアビブ大学の考古学者が率いる研究チームは、イスラエルのケセム洞窟で見つかり、40万年前から20万年前の人々が使っていた29個の球体を使い、その目的が何だったのかを調査しました(※)。それらは、この地域でよくみられる石灰岩またはドロマイト製で、直径が8~9センチほどの大きさ。彼らはそのうちの10個を使い、デジタル顕微鏡と金属顕微鏡で詳細に観察したところ、その球体には動物の骨を構成する海綿骨やコラーゲン繊維、動物の脂質などが付着していることがわかったのです。

 

球体はきれいな丸い形ではなくゴツゴツとしており、特に尖っている突起部分にはそれらの残留物が多く見られました。つまり、この石は動物の骨を割るときに使われていたのではないかという可能性が出てきたのです。

 

そこで研究チームは、様々な石や岩を使って同じようにレプリカの球体を作り、牛や羊の肉を使ってその球体をどのように使えるか実践して確認しました。その結果、この球体は手で持つのにちょうどよい大きさで、骨を割って、なかの骨髄を取り出すのに適していることが判明したのです。

↑丸い石のレプリカを使って骨を割ってみる (c) 2020 Assaf et al.

 

別の研究チームによる先行研究では、ケセム洞窟に暮らしていた古代人は動物の骨髄を大切な栄養源として摂取していたことがわかっています。骨髄は非常に栄養価が高く、動物にとって貴重な栄養源となります。どうやら古代の人々はそのことを知っていたようで、ケセム洞窟で暮らしていた古代人は動物の骨を最大9週間も洞窟のなかで保存していたのだそう。この球体の石の目的は、そんな彼らの食習慣とも合致するのです。

 

今回の理論は、あくまでもイスラエルのケセム洞窟で見つかった球体の石器が持っていた機能だけを説明することができます。この球体がケセム洞窟で見つかる以前や、ほかの地域で見つかった丸い石器については、その目的は依然として謎に包まれたまま。もしかしたら、この研究が別の遺跡で発掘された丸い石器の目的も明らかにするかもしれません。

 

※Assaf E, Caricola I, Gopher A, Rosell J, Blasco R, Bar O, et al. (2020) Shaped stone balls were used for bone marrow extraction at Lower Paleolithic Qesem Cave, Israel. PLoS ONE 15(4): e0230972. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0230972