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2021/4/14 6:00

そして人類は月に辿り着いた……。「現代版ノアの方舟」に新計画が浮上!

もし地球が滅亡するとしたら、あなたはどうする? そんな話題は昔から事欠きません。「地球上に誕生した生命を絶やすことは避けたい」と考える人がいても不思議ではないでしょう。しかし、万が一の事態に備えて、地球上にある生物の種子を月の地下に保存しようという計画が、いまアメリカで持ち上がっています。

 

現代のグローバル保険

↑地球の生命を託されるかもしれない

 

人類滅亡をテーマにした古い物語に、旧約聖書に登場する「ノアの方舟(はこぶね)」があります。人の悪が増大したことに神が怒り、この世を滅ぼすために大洪水を起こしたのですが、ノアという人物だけは神の心にかなう人物で、神に言われたとおり箱形の舟を作ったため、人類も生物も生き残ったというストーリーです。

 

そんなノアの方舟にインスパイアされたのが、米アリゾナ大学の研究チーム。航空宇宙と機械工学が専門のJekan Thanga助教授率いる同チームは、このプロジェクトを「現代のグローバル保険」と称して、今年3月に発表しました。

 

この計画のポイントは月の地下空洞。2013年、月で溶岩チューブのような地下空洞が200も発見されましたが、この空洞は何十億年も前に、溶岩が地下の岩を溶かして形成していったものと考えられ、30~40億年もの間手つかずの状態だったと言われています。この地下空洞の気温はマイナス25℃~15℃で、水や空気はありませんが、研究チームはこの地下空洞が、太陽光や流星塵(宇宙空間から降ってくる微粒子)、地表温度の変化を避けながら種子を保存する場所として最適である、と提案しているのです。

 

月の方舟の概要は次のようになります。まず、月の表面にソーラーパネルを設置し、ここから電力を供給します。そして、地下につながるエレベーターを2機以上作り、1機は種子を超低温で保存する施設まで繋がり、別のエレベーターは建設資材運搬用として使い、月の方舟の施設を拡張します。

↑月の方舟の設計図

 

凍結保存の温度は種子ならマイナス180℃、幹細胞はマイナス196℃で保存する必要がありますが、そのような低温化では、地下の構造に使う金属が凍結したり、冷間圧接が起きる可能性が。しかし、その一方で、そんな超低温下だと、2つの物質が一定の距離を保ちながら浮遊する「量子浮揚」が起きます。月の方舟計画は、この量子浮揚を利用して、精子や卵子のシャーレを金属面から浮かせて貯蔵するのを描いているのです。なお、施設内でのシャーレの運搬などはロボットを使うとか。

 

月の方舟に保存するのは、地球上の生命670万種の精子、卵子、種子、胞子。これを各種50サンプル用意し、月に運びます。研究チームの試算によると、このためにはロケットを250回打ち上げる必要があるそう。

 

このプロジェクトには課題もあります。無重力状態で種子を保存すると、種子にどんな影響が生じるのか不明です。また、地球との通信についても、きちんと検討する必要があるそう。しかし、人類は以前にも似たようなノアの方舟計画の「スヴァールバル世界種子貯蔵庫」を実現させています。科学者が本気になったら、月の方舟計画も実現するかもしれません。