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2021/6/11 6:00

ミカンを使って透明になっただと!? 知らぬ間に「木材」が大進化していた

建築や家具、工作など幅広く使われる木材。この材料は私たちにとって身近な存在ですが、その中には、まだ広く知られていない種類もあります。アクリルのように向こう側が透けて見える木材はその一つかもしれません。驚くべきことにスウェーデンでは最近、ミカンを原料に使用した透明な木材が開発されたのです。一体どんなものなのでしょうか?

↑スウェーデン王立工科大学の研究チームが開発したミカン由来の透明木材。写真提供/Celine Montanari(※)

 

透明な木材の開発は真新しいことではありません。例えば、日本では木材から、透明で軽くて強度のある「セルロースナノファイバー」を作る研究が、10年以上前から行われてきました。

 

海外では、スウェーデン王立工科大学の研究チームが、2016年に透明の木材を開発しています。そのきっかけは窓ガラスだったそう。窓ガラスは光を通して建物の内部を明るくしますが、太陽光のエネルギーを蓄えることはありません。同研究チームは「ソーラーパネルみたいに、日中に吸収した熱を夜間に放出することで、部屋を温かくする材料はないだろうか?」と考え、透明な木材を作り始めました。

 

その工程で大切なのは、木材の主成分の一つであるリグニンを取り除くこと。リグニンは植物の体内で作られる成分で、空気中の酸素と反応して、黄色から茶色に変色する性質があります。そのため、白い高級紙を作るときなどは化学処理によって木材からリグニンが取り除かれますが、透明な木材を作る場合にも、同じようにリグニンを除去しなければなりません。しかしリグニンを取り除くと、小さな空洞が生じてしまいます。そこを埋めるためには、木材の強度を保ちつつ、光を透過させるものが必要です。

 

当初、同研究チームは化石由来のポリマーを使って、その問題を解決していました。しかし、より環境に配慮する必要があるため、彼らはミカンの皮から抽出したリモネン・アクリレートを使って、透明な木材の開発に取り組むようになり、最近その実験に成功したと発表したのです。

 

リモネン・アクリレートは、オレンジジュースの製造工程で廃棄されるミカンの皮などから抽出することができるため、石油由来の成分を使うよりも環境への負荷がとても少ないことが特徴。それを使った同研究チームの新しい木材は溶剤なしで作られており、使用している化学薬品はすべてバイオ由来のものと発表されています。

 

また、化石由来のポリマーを使用した木材では光の透過率が85%でしたが、ミカン由来の透明な木材では90%にアップ。強度も高いと同研究チームは述べています。

 

ミカンを取り入れることで環境面にこだわった透明な木材は、スマートウィンドウへの応用を含め、さまざまな可能性を秘めているとのこと。進化する木材から目が離せません。

 

【出典】Montanari, C., Ogawa, Y., Olsen, P(※)., Berglund, L. A., High Performance, Fully Bio-Based, and Optically Transparent Wood Biocomposites. Adv. Sci. 2021, 2100559. https://doi.org/10.1002/advs.202100559

 

(※)Celine MontanariとPeter Olsenのeは、アキュートアクセント付きが正式な表記です