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2019/12/11 19:00

「柑橘系シルク」が世界を変える! H&Mも採用したエコ繊維「オレンジファイバー」とは?

画像提供: Orange Fiber

 

世界的な大手ファストファッションのH&Mは、10年ほど前から「リサイクル原料を使用した製品を良心的な価格で提供する」というコンセプトのハイエンドライン「コンシャス・エクスクルーシブ」を展開しています。毎年、世界最先端のサステナブル素材を使用したアイテムを発表していますが、2019年春夏のコレクションでは、ユニークな繊維が採用されて注目を集めました。それが「オレンジファイバー」。その名の通り、オレンジの皮から生成した繊維なのです。

 

オレンジの皮が繊維になるというのは一体どのようなことなのでしょうか? 本稿では、このオレンジファイバーの概要や開発の背景についてご紹介します。

 

シルクの代用品に

画像提供: Orange Fiber

 

なめらかな触り心地が特徴のシルク(絹)。フォーマルウェアや普段着、インテリア用品など、様々な用途で昔から世界中の人々に愛用されてきました。しかしサステナビリティという観点でシルクを考えると違った一面があり、天然素材として昔から重宝されてきた一方、自然環境へのインパクトが大きいと指摘されているんですね。これは絹糸を生成する段階で繭をボイルする必要があり、大量の水が使用されて二酸化炭素が発生すると考えられているためです。

 

これまでシルクの代替品としてはレーヨンなどの化学繊維が使われてきましたが、最近ではエコなオレンジファイバーがシルクの代用になりうるということで期待を集めているのです。

 

オレンジファイバーの開発と販売を手掛けているのは、イタリアのシチリア島にある企業です。

 

フレッシュオレンジジュースでよく使用される、シチリア・オレンジの産地の1つであるカターニア。オレンジジュースの製造の過程で年間70万トン~100万トンの大量の皮が出ることはこれまで大きな問題となっていました。

画像提供: Orange Fiber

 

オレンジファイバー開発の発起人であるアドリアーナ・サンタノチートさんとエンリカ・アレーナさんはシチリア島出身。サンタノチートさんがミラノのファッションデザイン学校で素材について学んでいたとき、廃棄物で問題となっていたオレンジの皮を、繊維として加工できないかと考えたことがきっかけになりました。

 

ミラノの工業大学と共同で繊維の開発に乗り出した両者は、オレンジの皮からセルロースを抽出して繊維にする技術を開発しました。まずカターニアにある工場でセルロースを抽出し、それをスペインのパートナー企業に持って行って繊維化。そして、それをイタリアに再度持ち込み、絹織物の伝統がある北イタリアのコモの繊維加工業者で製品化してもらうというプロセスをとっているそうです。

 

ここまでのものに育てるには、当然ながら幾多の困難を乗り越えてのこと。オレンジファイバーを産業化する過程で、まずはミラノ工業大学との共同研究でやれるのかどうかが議論となり、計画を商業ベースに乗せるための設備投資に必要な資金繰りにも苦労したとのこと。主にクラウドファンティングで資金を募り、最終的にはシチリアの投資家の参入と資金貸付補助の制度を活用したとのことです。

画像提供: Orange Fiber

 

オレンジファイバー社のデジタル広報担当のマリア・エレーナ・ニコトラさんは「私たちが使用するオレンジの皮は、オレンジジュースの生成の過程で出る大量の産業生ゴミです。その処理と環境保全のためにかかる費用は問題となっていました。そこで私たちは特許技術によって柑橘類の皮からセルロースを抽出し、廃棄される皮の”潜在能力”を引き出すことに成功したのです。産業の副産物を、サステナビリティ性と服飾繊維のイノベーションに対する要求に応えられる素材へと変えることができました。こうして、外見の美しさだけでなく社会道徳にも気を払う消費者のニーズに応えられる製品となっているのです」と言います。

 

オレンジファイバーは、環境インパクトを非常に少なくする形で生成された繊維。それでいて手触りはまさにシルクのようななめらかさで、シルクの代替品として十分使用できるとファッション関係者から高く評価されています。

 

「綿や石油製品の価格が変動しやすいため、市場ではセルロース性製品の需要が高まっていますが、再利用の効かなかった産業副産物を利用する我々の手法はそのソリューションとなるもの。またオレンジファイバーは既存の手工業セルロース性繊維と比較し、オレンジファイバーは天然資源や殺虫剤の使用抑制にもつながります」(ニコトラさん)

 

完成した繊維は、他の繊維と同様に染色も可能。産業伝統的な服飾に用いることもできます。

 

ニューラグジュアリー3.0

画像提供: Orange Fiber

 

シルクに似た品質も保証するオレンジファイバーは2015年に製造・販売を開始し、高く評価され続けています。16年にはH&M基金の主宰で、地球環境に配慮するプロダクトを制作したファッション関係事業に贈られる「グローバル・チェンジ・アワード」を、112か国約2700製品のなかから受賞しました。それが世界的なラグジュアリーブランドの1つであるフェラガモの目に留まり、同ブランドで17年からオレンジファイバーを使用したラインが販売されるようになりました。19年4月から、フィレンツェにあるサルバトーレ・フェラガモ博物館でも、この繊維がサステナビリティ性を強く訴えるプロダクトとして展示されています。

 

オレンジファイバー社は公式サイトのなかで、この繊維の展開を「ニューラグジュアリー3.0」と呼んでいます。資源を極力再利用することでファッション業界に革命を起こし、かつての伝統的な繊維業のビジネスモデルが 持っていた限界を超えることが目標。「道徳心とサステナビリティを重視し、社会的なステータスを超越して地球の将来を考える」という新しい価値観を創出する意気込みが表れています。

 

現在は365人の投資家により65万ユーロの資金がクラウドファンティングを通して集まっており、これを利用して年間に60トンのセルロースを生産できる設備を整え、ファッションブランドからの依頼に応えられるような体制を目指しているとのこと。これまで大量に廃棄されてきたオレンジの皮が繊維に生まれ変わり利用されることは、私たち消費者にとっても地球にとっても喜ばしく、画期的なことであるだけに、オレンジファイバーの今後の発展に注目していきたいですね。

 

サステナビリティ時代の新たなラグジュアリー。イタリアから広まる「森の高級マンション」

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