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2021/5/31 10:00

大人用紙おむつは10年で1.5倍増。ユニ・チャームが取り組む「紙おむつのリサイクル」という難題

オゾン処理でバージンパルプと同等の品質に~ユニ・チャーム株式会社

ゴミの分別やリサイクルが当たり前の時代に、新たな一石を投じようとしているのが、紙おむつや生理用品、マスクなどの衛生用品でお馴染みのユニ・チャーム。使用済み紙おむつのリサイクル事業に取り組んでいます。

 

独自のオゾン処理で再資源化

紙おむつは、子育てや介護をしている家庭では欠かせないアイテムの一つです。現在は使用後にゴミとして焼却処理されるのが一般的ですが、「使い捨てだった紙おむつを、循環型の商品に変えようとしています」と話すのは、ESG本部Recycle事業準備室の織田大詩さん。同社では2015年に使用済み紙おむつのリサイクル技術を発表。2016年5月から鹿児島県志布志市と共同で実証実験を行っています。

↑ESG本部 Recycle事業準備室 3G Managerの織田大詩さん

 

「紙おむつは、パルプとSAP(高分子吸収材) 、そのほかプラスチック素材から作られています。この事業では、使用済紙おむつを回収し、洗浄、分離後にパルプとSAPを取り出します。パルプは独自のオゾン処理を施し、初めから木材を材料にしたバージンパルプと同等の上質パルプとして再資源化します。」(織田さん)

↑使用済み紙おむつの循環型モデル

 

↑オゾン処理前のパルプ(左)とオゾン処理後のパルプ(右)

 

大人用紙おむつの使用量が年々増加

同社がこの事業に取り組むきっかけのひとつには、高齢化による大人用紙おむつの消費量増加がありました。

 

「高齢化社会が進むなか、大人用の紙おむつの生産量が年々増加しています。それに伴い、ゴミの焼却によるCO₂排出量の増加、パルプの原料である森林資源の消費など、環境にかかる負担が増えることにもつながります。そういったリスクを軽減させるために、2011年頃から課題解決に向けて試行錯誤を繰り返し、2015年、紙おむつのリサイクルの開発にたどり着きました」(織田さん)

↑大人用紙おむつの生産量の推移(一般社団法人 日本衛生材料工業連合会の資料)

 

発表の翌年、2016年5月から鹿児島県志布志市との実証実験をスタート。同市は一般廃棄物のリサイクル率が市レベルでは、全国の自治体トップで、「リサイクル先進都市」としても有名です。また、2020年度は東京都で分別回収の実証実験を実施。高齢者施設や保育園など特定の施設から使用済み紙おむつを回収し、それを志布志市の隣の鹿児島県大崎町にあるそおリサイクルセンターまで運搬し、そこでリサイクル処理をしました。

 

立ちはだかるいくつもの課題

使用済み紙おむつのリサイクルは、海外においても事例は複数確認できます。しかし同社のように、上質パルプと同等の品質に何度も再生できる、いうなれば「リサイクルのループ」を実現したのは世界初。ただ、そこにたどり着くまでには多くの労力が費やされ、しかも事業化にはまだまだいくつもの課題があるそうです。

 

「技術的な面では、パルプから排泄物等の異物を完全に取り除くことは、非常に難しいものです。そのため、オゾンによる弊社独自の処理技術を開発しました。それにより、分離後の低質パルプを紙おむつの製造に利用可能なレベルにまで再生できるようにしました。同様にSAPも再生化処理し、再資源化できるようにすすめています。

 

そして事業化における主な課題として、『回収』と『処理場の確保』があります。リサイクルの難しさを“混ぜればゴミ、分ければ資源”と表現することがありますが、自治体の理解と協力がなければこの事業は実現できません。昨年、全国の自治体向けのガイドラインを環境省に作っていただいたこともあり、関心を示す自治体も増えました。説明会を開催したり、個別にミーティングを行ったりしていますが、分別回収をどうするか。自治体ごとにゴミの回収方法や状況が異なるので、同じルールを全自治体に適用するわけにもいきません。また、使用済み紙おむつはすべての家庭から出るわけではなく、衛生面などの問題もあるため、一般住民の方の理解も必要です。

↑志布志市の使用済み紙おむつ回収に関するチラシ

 

さらにリサイクル処理場をどうするかという問題もあります。新しい施設となると住民の理解が必要ですし、既存の処理場内にリサイクル施設を設置する方法が現実的ですが、どちらにしても、スペースとコスト面を考えていかなくてはなりません」(織田さん)

 

リサイクル処理技術を開発するだけでなく、紙おむつの回収方法や処理施設の問題、一般の方々の理解などをクリアしたうえで、リサイクルのシステムを確立しなければならないのです。

 

実証実験で温室効果ガスが87%減

実際に使用済み紙おむつのリサイクルシステムが確立されたら、環境への効果はどの程度期待できるのでしょうか。

 

「さまざまな観点から検証したところ、温室効果ガスの排出量においては、焼却して新たな紙おむつをバージンパルプから作る場合と比べて、CO₂が87%減る見込みとなりました。また、パルプに必要な木材も大人用紙おむつを100人が1年間リサイクル品にすると、ゴミ収集車(2t)約23台分が減り、100本分の木を切らなくて済むことがわかりました」(織田さん)

↑温室効果ガス排出量の焼却との比較

 

2022年4月までに志布志市での事業化を目指す

地球環境への貢献にも大きな期待が持てるだけに、事業化への期待は高まります。まだテスト段階ですが、リサイクルから作られた紙おむつを高齢者施設で使用してもらったところ、好意的な意見も多かったそうです。

 

「処理技術と回収というリサイクルの仕組みを成立させ、まずは志布志市において2022年4月を目標に事業化できるよう進めています。そして2030年には10カ所以上にリサイクル施設を展開できればと考えています。また、衛生用品なので、バージンパルプ同等にいくら綺麗にしたからといっても、特にお子さん用の場合は抵抗のある方も少なくないと考えています。リサイクルパルプに対するネガティブな要因を払拭していく必要があるため、今後、自治体だけでなく、一般の方たちへの啓発活動も積極的に進めていきたいと思います」(織田さん)

 

ペットボトルや空き缶のように、使用済み紙おむつも資源ごみとして回収される日が来ることを期待するばかりです。

 

事業を通じて社会的な責任を果たす

今回のように、使用済み紙おむつのリサイクル事業に取り組むことになった背景には、消費者や投資家の「ESG」への関心の高まりも影響しているそうです。「事業を通じて社会的な責任を果たすことが企業の正しい在り方だと考えています」と話すのは、ESG本部の上田健次さん。そもそも同社は以前から事業を通じて社会貢献を意識して取り組んできました。

 

↑ESG本部 ESG本部長代理 兼 ESG推進部長 兼 企業倫理室長・上田健次さん

 

「事業活動とは別なものとして社会貢献活動があるのではなく、事業活動そのもので環境問題や社会課題の解決に貢献することを目指してきました。例えば生理や生理用品について、気兼ねなく語れる世の中の実現を願い、『ソフィ「#NoBagForMe」プロジェクト』を2019年6月からスタートしています。今までは生理用品を買うと、透けて見えないように紙袋に入れられてきました。そこで購入時に紙袋で包む必要性を感じさせないパッケージデザインを開発。生理用品を買うことは当たり前で紙袋に入れる必要がない、選択肢を与えるという考え方を普及させたいと考えました。 

↑『ソフィ#NoBagForMe』限定デザイン

 

また、企業向けに生理に関する勉強会も行っています。日本はまだまだ男性の管理職が多く、生理について正しく理解をしていなかったりします。ですが生理は女性が普通に暮らしていく中で身近にあるもので、それに対して、体調が芳しくないなどオープンに話ができて、それを男性も理解をしてお互いに気遣いができるようにと。また、発展途上国など一部の国や地域では、生理中の女性の行動を制限する古い慣習が残っているところもあります。その国の社会や文化的な背景を考慮し、様々な生理に関する啓発プログラムを展開するなど、当社ができることは何かと考え、提供しています」(上田さん)

 

SDGsの登場により加点式から減点式へ

事業活動そのもので社会的な責任を果たすというのが同社のスタンスでしたが、SDGsの登場はその取り組み方にも影響を及ぼしました。

 

「いわゆる『SDGsネイティブ』というような若い世代の人たちの動きを意識せざる得なくなりました。そしてSDGsは、社会貢献に取り組んでいるかどうかを企業に問いやすくしたと思います。というのも、社会的な責任の果たし方についてそれまでは加点方式でした。他社が行っていないことを行うことでプラス評価されたのです。ところが、今は社会貢献活動が当たり前で、減点方式になっています。『SDGsに取り組んでいないなら減点』だと。この変化により、周囲からどう評価されるか、今まで以上に意識しなければならなくなりました。そのため事業収益を重視しつつ、SDGsに対して貢献できるビジネスモデルを行わないと企業経営そのものの持続可能性が確保できない。その考えはステークホルダー全員で共有されたと思います」(上田さん)

 

目指すは全社員でESG経営を実践すること

「2020年1月にCSR本部をESG本部へと改組しました。CSR本部時代の最大の反省点は、『社会貢献活動はCSR本部だけが行えばよい』という雰囲気を社内に作ってしまっていたことでした。そこでESG本部に改組したときに、目標を『ESG本部を早くなくすこと』としたのです。要するに、社員一人ひとりがESG経営を意識し、SDGsへの貢献を考えながら事業を進めるのが当たり前、という考え方を浸透させる。そうすればESG本部は必要ないわけです。まだまだ道半ばではありますが、できるだけ早くそうなることを目指し活動していきたいですね」(上田さん)

 

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