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2021/11/11 6:00

コロナ禍の米国で不可欠になった「緊急事態向け通信ネットワーク」とは?

アメリカでは在宅勤務の拡大により、通信速度の遅れや緊急電話がつながらないという事例が頻繁に発生しています。そんな中で重要性を増しているのが、警察や消防士といったファーストレスポンダー(第一応答者)向けの通信ネットワーク「FirstNet」。2021年からFBIも使用しており、通信速度が速く機密性も高いサービスとして定着しつつあります。どのような通信ネットワークなのでしょうか?

↑警察や消防士、救急医といったファーストレスポンダーにとって通信トラブルは致命的になり得る

 

FirstNetは、主に治安や人命救助に関わるファーストレスポンダーのために設計されたネットワークシステムです。緊急時におけるファーストレスポンダーの通信ネットワークを最速化かつ最適化するために、米国商務省内の独立機関であるFirst Responder Network Authority と大手通信会社のAT&Tが、全米規模の通信ネットワークとして2017年から整備を始めました。

 

警察や救急隊員のコミュニケーションは緊急性を要することが多いですが、自然災害やテロ攻撃に見舞われた場合、携帯電話の通信はすぐにアクセス過多の状態になり、ファーストレスポンダーの行動や判断に悪影響を及ぼします。また、コロナ禍でリモートワークが広がった結果、通信速度の遅れやトラブルが増加。このような状況から、ファーストレスポンダー向けの通信システムの構築が求められていました。

 

FirstNetの特徴のひとつは、主な周波数が700MHz帯であること。2012年、米国議会はスペクトル法を可決しましたが、この法律は「バンド14」と呼ばれる700MHzの周波数帯の中で特に良いとされる20MHzを緊急通信専用に確保・使用することを目的としています。700MHzの最大の利点は、壁などを通過できる低帯域の電波を利用することにより、場所や障害物に関係なく、どこでも通信できるということ。電波障害を最小限に抑えられ、災害時においても閉ざされた環境でスムーズな通信が可能です。現時点でFirstNetはバンド14の基準を満たす唯一の通信サービスとして、世界中のどの次世代高速通信回線よりも優れていると言われています。

 

また、FirstNetのもうひとつの特徴として「Z-Axis」が挙げられます。これは従来の2次元のGPS位置情報に加えて、「垂直軸」の3次元位置情報を見ることを可能にした機能です。例えば、ビル火災などで助けを求める人が911をした場合、従来のGPS機能では、2次元の地図情報だけを頼りに通報者を追跡していました。しかし、Z-Axisを使えば3次元の位置情報により、ビルの場所に加えて、通報者がビルの何階にいるのかまでを把握することができるようになりました。また、ファーストレスポンダーの二次災害リスクの軽減にもつながるでしょう。2021年10月現在、Z-Axisはシカゴ、ダラス、デトロイト、ロサンゼルス、フィラデルフィア、サンフランシスコなど、米国内の105以上の都市で利用可能です。

 

そんなZ-Axisを搭載したFirstNetは、連邦政府や州政府、地方自治体など1万7000以上の機関が導入していますが、そのサービス速度や機密性の高さから、2020年12月にはFBI(アメリカ連邦捜査局)が5年間で合計9200万ドル(約104億円※)の契約をFirstNetと結び、2021年から使っています。

※1ドル=約113円で換算(2021年11月8日時点)

 

さらにアメリカ空軍は2021年10月より、15基地において今後21年間、同サービスを利用することを決定。これにより、空軍基地では音声やデータ、ストリーミングビデオ通信、既存無線設備の相互運用が実施されることになるうえ、基地内のファーストレスポンダーと地域の公共安全機関の間で交わす通信も、より安全かつ高速で行えるようになります。

 

ファーストレスポンダーが有事の際、機敏に対応できる専用ネットワークの確立は、リモートワークが普及した現代社会に不可欠です。日本でもFirstNetのようなネットワークは議論されており、今後の通信インフラ整備において重要性を増していくかもしれません。

 

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