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2022/4/25 19:30

圧倒的に少ないCO2排出量! 国産「切り花」の逆襲を狙うイギリス

イギリスでは、花屋やスーパーマーケットで販売されている切り花のほとんどが輸入品です。しかし近年、同国内のスーパーマーケットが国産の切り花の取り扱いを増やしていくと宣言。イギリス王室でも国産が使われるなど、そのシェアが徐々に増えています。イギリスの取り組みは日本にとって参考になるかもしれません。

↑イギリスの花屋などで売られる花の多くが輸入品

 

イギリスでは、年間約8億6500万ポンド(約1430億円※)の売り上げがある切り花のほとんどが輸入品で、そのうち70%を占めるのがオランダ産。オランダは、国内にサッカー場規模の温室スペースを約500か所抱えています。

※1ポンド=約165円で換算(2022年4月15日現在)

 

それらの温室には栽培から販売、出荷まで自動化システムが導入されていますが、エネルギー集約型の加熱温室で栽培された切り花は、多くの二酸化炭素を排出します。

 

また、イギリスの切り花の約6%はケニア、約4%がコロンビアから輸入されていますが、このような暖かい国々での栽培は温室ほどエネルギーを使わないないものの、イギリスへの輸送の際に大量の二酸化炭素を排出します。さらに、どの国でも栽培から輸送の過程でプラスチックを使用するため、環境に負荷を与えているのです。

 

さらに、規制が比較的軽い国では、化学肥料や農薬を使う花農家も少なくありません。残留農薬は栽培から梱包、販売などに関わるすべての人に悪影響を及ぼし、土壌を汚染すると言われています。

 

イギリスも、こうした輸入花を取り巻く状況を無視しているわけではありません。労働環境や生物多様性保護などを考慮して作られたり、フェアトレード取引されたりした花束にはラベルが貼られ、購入する際にわかるような取り組みがされています。

 

気候変動を阻止するなら……

イギリスのランカスター大学では、イギリスをはじめオランダやケニアでさまざまな条件(屋外または温室)で栽培された7種類の切り花について、栽培と輸送に関連する二酸化炭素排出量を比較しました。その結果、茎あたりの排出量はオランダのユリが最も高く、ケニアのカスミソウバエ、オランダのバラ、ケニアのバラと続きました。

 

一方、イギリスの花の生産者が栽培したユリ、キンギョソウ、アルストロメリアの3種類は、二酸化炭素排出量がとても低いことが判明。輸送距離が短いという優位性もあるでしょうが、国内産の花束の二酸化炭素排出量は輸入花で作られた花束の10分の1となっています。

 

30年前、イギリス国内で栽培された花のシェアは45%でしたが、その後は大きく減少。しかし2016年には12%、2019年には14%と徐々に回復の傾向にあります。その背景には、国を挙げた環境への取り組みや国民のサステナブル意識の向上がありますが、最近ではコスト面での影響もある模様。

 

例えば、20224月からイギリスにはプラスチック包装税が導入されました。エネルギーや輸送コストの上昇もあり、輸入を取り巻く環境は日々厳しくなっていることも、輸入花の減少要因と考えられるでしょう。

↑ミツバチも国産の花や植物が大好きみたい

 

また、イギリスではスーパーマーケットで切り花を購入する人が多く、国内における全売上高の半分強を占めています。そこでは国内産切り花を奨励する動きが見られ始め、購入者も増えている様子。

スーパーマーケットの「コープ」と「アルディ」を例として挙げると、国内産の植物や花の割合を増やすことを目的とした国立農民組合の「植物と花の誓約」にそれぞれ署名し、消費者に国産の花をアピール。国産の花束にはユニオンジャックのラベルが貼られているため、店内ですぐに見つけることができます。

 

また、別のスーパーである「ウェイトローズ」によると、イギリス産のピオニー(牡丹)の2019年の売り上げが前年に比べて48%上昇したとのこと。国産ピオニーは近年、王室の結婚式で使われており、それが人気の原動力になっているようです。

 

イギリスの教訓

サステナビリティや生態系の維持、花農家へのサポートなど、国産の切り花の生産量が増えることには、さまざまなメリットがありますが、日本に目を転じれば、切り花の輸入の割合は2010年以降、数量ベースで20%台を推移(農林水産省「花きの現状について」令和元年12月)。国産に比べて燃料費や光熱費、人件費などのコストを抑制できるため、コロンビアなどからの輸入が増えています。イギリスの経験から学ぶとすれば、輸入花が増加傾向にあるときだからこそ、日本も国産の美点を忘れるべきではないでしょう。