この数年間、世界中で多くの子どもたちが、学校に行きたくても行けないという経験をしました。コロナ禍のハワイでは、他の国や地域と同じように、小・中学校や高校、大学の卒業式が変化。2020年にはオンラインによる「バーチャル卒業式」が行われました。しかし翌年、この儀式は独特の変化を見せ、アメリカらしい「ドライブスルー卒業式」が誕生。最近では子どもたちが学校に戻るようになりましたが、ドライブスルー卒業式はハワイに浸透した模様。子どもたちの悔しさを晴らしたこの卒業式は、どのようなものなのでしょうか?
クルマなら安全に卒業式ができる!
ハワイの卒業式シーズンは5月で、大きなライフイベントの1つとして盛大にお祝いをします。伝統的なレイ(花輪)を顔が見えなくなるまで重ねる卒業生の写真は有名です。高校、大学の卒業式では、ダンスパーティーやアワードセレモニー(学生たちのさまざまな功績を表彰する式)など、多くの関連イベントも行われます。
コロナにより厳しい規制が始まった2020年5月は、学生の卒業式は中止になるか、またはオンラインで開催。卒業関連のイベントはほぼ全て中止を余儀なくされました。
そして翌年5月もコロナの状況は悪化していましたが、1年前と違って、感染予防をしながら行うというスタイルの導入に踏み切る学校が現れます。規制しながら実施するイベントが増えていた中、「ドライブスルー卒業式」が登場。2022年の卒業式でも多くの学校が前年と同じくドライブスルー式で行い、コロナが完全には収束していないハワイの卒業式の定番スタイルとなりました。
ドライブスルー卒業式は、デコレーションしたクルマに卒業生が1人ずつ乗って学校やその周辺を走り、学校の先生たちや近所の人たちにお祝いしてもらうというスタイルです。
そのスタイルは学校によって異なりますが、例えば、フェイスシールドをした校長先生たちが待つ校門までドライブをし、校長先生から卒業証書を受け取るという祝い方があります。また、学校の校庭に卒業生が乗るクルマを一斉に入れて、その中で先生のお祝いの言葉を聞くというスタイルも。
しかし、ドライブスルー卒業式の大きな特徴は、なるべく目立つようにクルマをデコレーションするということ。デコレーションしたクルマとすれ違うと、対向車がクラクションを鳴らしてくれたり、「おめでとう」と声を掛けてくれたりします。
クルマをデコレーションする方法としては、窓に専用のペンでペイントしたり文字を書いたりするのが一般的。水で簡単に消すことができるので、卒業式が終わればサッと拭いて帰宅できますが、そのままドライブして、帰り道で見知らぬ人に祝ってもらう人も少なくありません。先生に向けて「MAHALO」(ありがとうのハワイ語)と窓に書いているクルマも多く見かけます。
誕生日などでよく使われる文字のバルーンもよく使われており、「2022」や「CONGRATS」(おめでとう)といった卒業関連のバルーンがこの時期は多く出回ります。また、ハワイの各学校には必ず独自の「スクールカラー」があるので、その色でデコレーションするのも人気です。卒業式の時期は大型ディスカウントストアなどが「卒業コーナー」を設け、このようなグッズを販売しています。
ドライブスルー文化の派生
コロナ禍で開催できなかったイベントは卒業式以外にも多くありましたが、近頃は誕生日やベビーシャワーなどを卒業式と同じようなドライブスルースタイルで祝う人が増えました。
もともとアメリカには、巨大な駐車場に大きなスクリーンを配置してクルマに乗ったまま映画を鑑賞するドライブインシアターがあります。コロナ禍でも、このドライブインシアターはハワイのいたるところで開催されていました。窓を開けて夜風を感じながら見る映画は、閉ざされたコロナ禍の中で非日常的な空気を感じることができるため、人気が高まったようです。感染防止目的で始まったドライブスルー卒業式や誕生祝いは、ドライブインシアターのような文化があるハワイだからこそ比較的浸透しやすかったのかもしれません。
たくさんのレイを首にかけてお祝いし、家族や親戚、友達が大勢集まって祝うハワイの伝統的な卒業式スタイルは、コロナ禍が落ち着く頃にはまた復活すると思われます。ただし、コロナ禍により生み出された新しいスタイルのドライブスルー卒業式は、さまざまな規制を強いられた多くの学生たちにとって、一生忘れられない卒業式となることでしょう。