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2023/4/20 6:30

洗練された「物を持たないスタイル」。キャッシュレスに使える「スマートリング」が英で大人気

財布を持たない人も増えているキャッシュレス大国の英国で昨今、スマートリングがじわじわとユーザーを増やしています。スタイリッシュな指輪をリーダー端末にかざすだけで、迅速に非接触で決済することができるこのデバイスは、近年日本でも注目されるようになりましたが、英国ではどのように見られているのでしょうか? 現地からレポートします。

↑英国でユーザーを増やすスマートリングのリングペイ

 

手軽、安心、エレガント

英国のマクレア社が開発した非接触型決済スマートリングの「RingPay(リングペイ)」。「物を持たずに豊かな暮らしをするためには、どうすれば良いのか?」をコンセプトに開発されました。

 

その背景には英国のキャッシュレス化があります。同国のキャッシュレス決済比率は2020年時点で約64%と世界4位です。コロナ禍をきっかけに、デビットカードやスマホを使った非接触型決済への移行が加速。現在では支払いのほとんどがキャッシュレスというデータもあり、普及率は日本の3倍近くと言われています。

 

ロンドンなど都市部に暮らす若い世代は財布を持たず、スマホとカード一枚で外出する人も多数存在。ほとんどのレストランやショップ、交通機関はキャッシュレスに対応しているため、手持ちの現金がなくて困るというケースはほぼありません。コンビニやカフェでは「現金NG」の店舗も増えており、完全キャッシュレス化による集計作業自動化や人件費削減を目指しています。街角のストリートミュージシャンや大道芸人さえも現金置き場と一緒にカード決済末端を並べて対応するなど、「投げ銭」でさえデジタルで行われるようになっています。

 

このように、現金や財布を持たないことが当たり前になった国で生まれたRingPayは、当初ドアロックキーや自動車キーとして開発されたものの、次第によりニーズの高いキャッシュレス決済リングへと進化していきました。Bluetoothでスマートフォンと接続し、連動するアプリで支出を確認することが可能なこのデバイスは、クレジットカードやデビットカードと同様に英国のほぼ全ての店舗や交通機関で利用することができます。

 

リングペイは幅広い層に人気ですが、なかでもフィンテックや最新ガジェットへの関心が高い都市部のビジネスパーソンの間で好評。そのメリットとしては、カードやスマホと異なり、リーダー端末に手をかざすだけで決済することができることや、スマートウォッチと比べて軽いことが挙げられます。防水設計なので入浴やシャワー、プールでも使用可能なうえ、医療現場で採用されているジルコニアセラミック製のため金属アレルギーの人も着用できます。

 

リーダー端末からの電波に反応するワイヤレス充電技術を利用しているため、自宅での充電は不要。常に身に着けておけるので、紛失や盗難、個人情報漏洩などの心配もありません。万が一紛失しても、アプリからワンタッチで利用を停止することができます。

 

このような機能性やセキュリティ性能に加え、カジュアルなデザインが多いスマートウォッチより一層洗練された印象を与えられることなどが、都会のビジネスパーソンたちを中心に支持されている理由のようです。スマートリングは2016年のリオ五輪開催中にTeam Visaのアスリートが利用したことで話題となり、その後も世界的有名イベントで展示されるなど、英国をはじめ各国でファンを増やしてきました。2022年には、決済テクノロジー分野で世界的に優れた企業を表彰するイベントのペイテック・アワードで「ベストイノベーション」を受賞しています。

 

物を所有しない生き方の象徴

↑「物を持たない」印?

 

リングペイはキャッシュレスの道具の一つですが、もう少し視野を広げると、スマートリングはヘルスケア分野にも応用されています。例えば、フィンランドのŌURA社の「Oura Ring(オーラリング)」は、睡眠、心拍、歩数などをセンサーで常に計測・分析し、健康管理のサポートに特化しています。継続使用することで分析能力が向上し、よりパーソナライズした健康状態の把握と改善に役立つそうで、スマートウォッチに続く次世代ウェアラブルとして注目が高まっています。

 

携帯電話が時代とともに多機能デバイスとして発展していったように、スマートリングも新たな多機能デバイスとして進化を遂げています。物を持たず、身軽に暮らすライフスタイルが先進国で浸透していく中、リングペイはその象徴になったようにも見えます。その優れたデザインで、リングペイは英国をさらにキャッシュレス化させるかもしれません。

 

執筆/ネモ・ロバーツ