ネパールの田舎を旅すると、道路のすぐ横がジャングルで驚くかもしれません。場所によっては国立公園の中を道路が通っていますが、ネパールの人たちにとってジャングルは生活と切っても切り離せない身近で大切な存在。ジャングルと融合したネパールの暮らしをお届けします。
恵みの宝庫
ネパールの道路でよく見かけるのは、ヤギや牛、水牛の群れ。長距離バスや自動車、バイクの通行が妨げられるのも日常茶飯事です。放牧者が動物たちを引き連れ、道路からジャングルの中に入っていきますが、ジャングルの中で草や葉っぱを食べさせるのが目的です。
それ以外にも手ぶらで、もしくは袋や道具を手にして、ジャングルの中に入っていく人がたくさんいます。そして、ジャングルから出てくる時には、もれなくたくさんの荷物を持っているのです。
定番の収穫は薪です。女性たちは頭の上に何本もの薪を乗せて、バランスを取りながら歩いています。今でもネパールの田舎では土で塗り固めたかまどで調理をするので、薪はその燃料となります。
家畜の餌となる葉っぱはジャングルの木に登って切り落とし、人間が見えなくなるほど大量に背負って出てきます。袋にどっさり入っているのは、青菜のように調理して食べる葉っぱや、木の実、いろいろな種類のきのこなど。ジャングルはおいしいものの宝庫でもあります。
雨期には特にきのこが大人気。その日に食べる分だけでなく、乾燥させて日持ちさせたり、ジャングルに取りに行けない人に売ったりと、貴重な食料であり収入源です。
また、何人かの女性たちが誘い合って採りに行くのが、宴会などで使うお皿を作るための葉っぱや、ほうきの材料になる植物、家を塗るための土などです。このように、ジャングルの恵みは生活に欠かせないものなのです。
均衡を保つ難しさ
ところが、最近のネパールは不便な山から交通の便のよい平野地方に引っ越してくる人が多く、平野地方のジャングルに人がどんどん集中するようになりました。そのため、この貴重なジャングルの恵みも乱獲の危機にあります。
特に薪は無謀な森林伐採にもつながりかねません。そこで、ジャングルを守るための組織やルールがつくられ、薪を採りに行ってよい日を決めたり、薪や家畜の餌となる葉っぱを採集するための料金を徴収したりしています。ジャングルの管理人にルール違反が見つかると、罰金が科されます。
ジャングルとの距離が近く、その恵みが生活に不可欠なネパールでさえもジャングルを守ることは簡単でなく、このような取り組みがなされているのです。
現地の人にとっては不便で面倒ですが、将来にわたりその恵みを受け続けるには欠かせない手段といえるでしょう。ジャングルがもたらしてくれる豊かさと、人と共存していく難しさについて、改めて考えさせられます。
執筆・撮影/Yui.N