渡米した日本人が直面する「米国あるある」の一つに、「お湯が突然出なくなる」があります。シャワーを浴びていたら急に冷水になって飛び上がった、という体験をする人は少なくありません。日本ではめったに起こらないアクシデントですが、なぜ先進国の米国でこのような現象がいまだに起こるのでしょうか? その理由と現状に迫ります。
原因は給湯器の違いにあった
瞬間給湯器でいつでも自由にお湯が使える日本と違い、米国の多くの戸建てではタンク式給湯器を採用しています。これはタンクの中にためた水を電気やガスで沸かし、そのまま保温しておくという方法。いわば巨大な保温機能付きポットを各家庭に設置しているようなもので、そこからお湯を供給しています。
タンクは容量が決まっているので、タンク内のお湯を使い切るととたんに水になってしまいます。いったん空っぽになったら、再びお湯が沸くまで数十分〜数時間待たなければなりません。「食洗器を回しながらシャワーを浴びていたら、急に冷水になった」というのは、多くの米国人が体験済みのようです。
このお湯切れ問題は、お風呂に浸かりたい日本人にとっては一大事です。お風呂は大量のお湯を一気に使うので、途中で冷水になってしまうことが少なくありません。米国のお風呂には追い炊き機能もありませんから、家族4人がお風呂に入るのに1日がかりになってしまうことすらあるのです。
日本式の瞬間給湯器が普及しないワケ
実は米国にも瞬間給湯器はあり、その利用者は少しずつ増えています。常に電気やガスで保温し続けるタンク式よりも維持費が安く、場所も取らないといったメリットがあります。それでも、米国の戸建てではいまだにタンク式給湯器が主流です。その背景には三つの理由があります。
一つ目は、費用の問題です。瞬間給湯器はいったん導入してしまえば維持費は安いのですが、本体のコストと設置手数料が高額なため、初期費用がかなりかかります。これら以外にも電気のアンペアを上げたり、接続部のパイプを変えたりと手間と時間がかかるので、どうしても費用が高額になるのです。
二つ目は、タンク式給湯器から瞬間給湯器に変更できる技術者が少ないことです。ちょっと信じがたい理由ですが、一つ目の理由で述べた通り、タンク式からの切り替えにはさまざまな手間と技術が求められます。そのため対応できる業者が限られており、自宅の近くにいなかったり、予約に何か月もかかったりして、なかなか普及が進みません。
そして三つ目の、ある意味最大の理由は、「米国人はお湯が出なくなってもさほど困らないから」です。米国人はお風呂に浸かる習慣がなく、朝出かける前にさっとシャワーで汗を流す程度です。髪を洗うのも2〜3日に一度が当たり前。途中で水になったらさっさと出ればいいだけですから、わざわざ高いお金をかけてまで瞬間給湯器にする必要性を感じないのです。
米国のお湯市場はまだまだタンク式給湯器優勢ですが、瞬間給湯器の便利さも少しずつ認知されてきています。中でも、ノーリツやリンナイなどの日本ブランドは人気が高く、そのクオリティの高さに定評があります。米国でも日本式の瞬間給湯器がもっと普及し、いつでもゆったりとお風呂につかれる日常が来るといいですね。
執筆/長谷川サツキ