数多くの商品を扱うホームセンターでありながら、その1割強は自社開発のオリジナル商品を展開するカインズ。ホームセンターと言うと、DIYのイメージからか、やや泥臭い先入観もありますが、近年カインズではオリジナル商品の評価が高く、これまでに「グッドデザイン賞」も複数受賞するほどのデザイン性と、機能に優れたものが増えています。
果たして、カインズではオリジナル商品の開発に、どういったコンセプト、思いで取り組んでいるのかーー。カインズ広報室の鈴木ゆう子さんに話を聞きました。
「暮らしの不満」「暮らしの不便」を解消するための商品
ーーホームセンターオリジナルの商品は、各ブランドとも熱心に展開されていますが、カインズもそうですね。
鈴木ゆう子さん(以下、鈴木) はい。カインズでは約1万3000アイテムを展開しています。各店舗の規模にもよりますが、大型店の場合、全体の取り扱い商品数が9~10万点。そのうちの約1万3000点がオリジナルになるので、そんなに多くはないです。
また、全商品を全てオリジナル化できるように目指しているかと言うと、メーカーさんの商品含め、お客様が欲しいものを取り揃えておりますのでそんなことはないです。オリジナル商品は暮らしの中で、快適さ、便利さ、楽しさを追求するために、まだ世の中にないモノ、足りないモノをオリジナル商品として開発し補う……といったものが大半です。それが、他社さんとの差別化になっていると思います。
ーー量販店だと、あらゆるメーカーの売れ筋とかも把握しています。「これが売れているのなら、うちもオリジナルで出そう!」というケースがよくありますが、そういうことではないんですね。
鈴木 はい。市場ニーズに合わせることも必要ですが、それがメインではないです。既存の商品をオリジナル開発の出発点にしないようにはしています。逆に「奇をてらった物を作ろう」ということとも違うのですけどね。あくまでも暮らしの中で、「本当に役立つモノ」「本当に欲されるモノ」を考えて開発しています。この「暮らしが中心である」という考えをもとにオリジナル商品を開発することが大半です。
ーーつまり、「痒いところに手が届くような商品」ですよね。でも、これはどういったフローで開発されているのですか?
鈴木 まずお客さまや、社内のスタッフからの声を聞く。「こういう商品があるけど、ここが使いにくい」「これが不便だ」「これが不満だ」といったところが出発点であることが多いですね。そこからトライアル・アンド・エラーを繰り返して、やっとオリジナル商品として発売される……といったものが多いです。
安さは大前提に。コストパフォーマンスを重視
ーー商品の機能性を、そのまま商品名にしたものが印象的ですが、ネーミング手法には何か特別な理由はあるのでしょうか?
鈴木 商品のネーミングのわかりやすさは、すごく意識しています。前述の、暮らしの中における「不便」「不満」を解消するような商品が大半なので、その特徴をそのまま商品名にして、お客さまに伝えるよう心がけています。
ーー例えば、あるメーカーの商品に対し、ひと工夫を加えたカインズオリジナル商品があった場合、価格帯での差別化はいかがですか?
鈴木 カインズのオリジナル商品は、そもそも「比較対象がない」ものが多いのですが、基本的に「お求めやすい価格」は大前提です。ただし、どうしても機能を追求したオリジナル商品の場合は、同様の商品よりも価格が上がってしまう場合もあります。
あくまでも「不便」「不満」を補うために、どんな商品ができるか、価格はどれくらいに抑えられるか……というように、コストパフォーマンスの良さも意識して価格設定をしています。
「世界を、日常から変える。」ーーでも、あくまでも「暮らしに寄り添う」
ーーカインズのオリジナル商品は、それらによって「新しい生活様式を提案する」といった考え方でしょうか?
鈴木 カインズが「新しい生活様式を提案する」というよりは、お客さまの暮らしの中での「不便」「不満」を補っていく。そこにプラスαするようなオリジナル商品が多いですね。あくまでも中心は「すでにある暮らし」。ですので、「暮らしに新しいを提案する」のではなく、「暮らしに寄り添う」というような。これはカインズのビジョンでもあるのですが、「世界を、日常から変える。」ということを目指しています。
「人々の暮らしや日常を、少しだけでも快適になることを考えよう」「それを広げていって、結果的に世界が変わっていたら良いな」というものです。ですからカインズの考える中心は、あくまでも「暮らし」ということですね。ただ“DIY”など、まだ文化として根付いていない分野は、新しい暮らしの在り方として、潜在ニーズを切り広げていきたいという想いもあります。
「使いやすさ」プラス「見られること」にも重きを置いたインテリア
ーーデザイン面でもシンプルな商品が多いですが、これもやはり「暮らしをより良くする」方針によるものでしょうか?
鈴木 はい。顕著な例を挙げるとすると、「絡まりにくい傘立て」が良いかもしれません。傘立てって、通常玄関に置くモノで、家の中にまでは入らない来訪者でも目にしうるインテリアの一つですよね。なので、できるだけシンプルで綺麗なものにしたい。しかし、複数の傘を差してみると、どうしても持ち手が重なったりして取り出しにくく不便だし、ゴチャゴチャ見えてイヤだというのが「暮らしの不満」です。
それを解消させるためには、どうしたら良いかと考え、傘立ての底の部分をすり鉢状にすることで、傘を差しても綺麗に広がっていくように工夫しました。筒部分もシンプルな白のスチールにし、「見られること」にも重きを置いたインテリアですが、3月の発売に先立って「2019年度 グッドデザイン賞」を受賞し、高評価をいただいている商品です。
「人々の暮らし」には不変のものと、そうでないものがある
ーー特に2020年は、時代の変わり目のように感じられ、人々の「暮らし」も急激に変わっていっているように思います。近い将来、何か新しい展開はお考えですか?
鈴木 これまでに話した基本的な考えは、もちろんこれからも変わりません。ただ、確かにその「暮らし」が急激に変わっていっていることは私たちも感じています。一番大きなところは「暮らしの多様化」「暮らしのデジタルIT化」ですね。これは今、カインズが特に意識していることです。
例えば、これまでは「女性が買いやすいように」扱われていた家事商品も暮らし多様化によって、必ずしも女性に限定するものではなくなっています。こういった「暮らしの多様化」にも、さらに細やかに寄り添うオリジナル商品が増えていくと思います。
また、「人々の暮らし」って不変のものと、そうでないものがあると思うのですが、特に変わっていくものとして、これからはデジタル化、IT化が進んでいくはずです。この新しい「暮らし」の中でもカインズでは「痒いところに手が届くような」オリジナル商品を開発して、少しでも快適に過ごしていただけるようなことをしていきたいと考えています。もちろん、こういった商品を買う際の利便性も含めて、着々と進めているところです。
ホームセンターという「暮らし」に身近な業態である分、そのオリジナル商品は特に「暮らしに密着」した、まさに「痒いところに手が届く」ものが多いことが鈴木さんのお話でよくわかりました。キャッチコピー「くらしに、ららら。」を探しに、カインズに行ってみてください。「生活が楽しくなる」商品が見つかるかもしれませんよ。
【フォトギャラリー(GetNavi webにてご覧になれます)】