2003年にコクヨから発売された消しゴム「カドケシ」は、小さな立方体がつながり合った特殊な形状で“カドがいっぱい(28個)あって消しやすい”というのがウケて、新聞の一面に取り上げられるなどの社会的なブームとなった。
そこまで注目を浴びたのはなぜか? その理由は人間には「消しゴムのカドで消したい」という強い欲求があったからに他ならない。

ただし実際に使ってみると、小さな立方体をひとつ消し潰して新しいカドを現出させるのは地味に難しく、結局のところ28個あるカドを使い切るのはまず不可能に近かった。
カドケシブームに乗って他社からもさまざまな形状の「カドがいっぱい消しゴム」が発売されたが、どれも同じような使い心地で、やはり消しにくいものばかり。そのうちカドブームは廃れて、消しゴムはいつもの使いやすい直方体に戻っていったのである。
しかしそれから20余年。2025年春に発売された消しゴムは、形状こそ普通ながら「何度でも復活するカド」を持っているのだった。
カドが蘇る不思議な消しゴム
消しゴムのカドはシャープだから細かい修正もやりやすい……というのは分かりやすい理屈だ。
ただ、一般的な直方体の消しゴムではそれが8個しかなく、一回使って丸まってしまうと、もうカドとしての価値は失われてしまう。それだけ儚く、貴重なものなのである。
しかし、その丸まって失われてしまったカドがまた何度でもシャープになって蘇るとしたら、それはもう消しゴムの価値観が大きく変わるぐらいに凄いことなのではないか?
SEED
275円(税込)
SEEDの「カドループ」は、まさにそんなカド復活機能を持つ、まったく新しい消しゴムである。
カドを蘇らせる特殊な仕様
とはいえ、パッケージこそさすがにちょっと仰々しいが、本体はあくまでもごく普通の見た目をした直方体の消しゴムとなっている。


しかし、ちょっと特殊なのが、折り目の付いた透明シート(カドモドシート)が付属していることと、消しゴムに巻かれた紙製のスリーブが何度も剥がして巻き直せる仕様になっているということだ。
この時点ではまだ「カドが蘇る」というのは実感できないので、まずはカドが丸まってしまうまで鉛筆の筆跡を消していこう。


上記の画像の通り、スリーブから露出している四つのカドが跡形なく消失し、すっかり先が丸まった状態となった。
カド復活の儀式
ここからシャープなカドを復活させるには、丸まった部分をスパッと切り落とすぐらいしか考えられないのだが、パッケージ裏の説明には「カド復活のためにはまずお湯を沸かせ」とある。なにか儀式でも始めるのか?
続いてスリーブを裏面の指示通りに剥がせば、復活の儀式の準備は完了だ。


先の丸まった部分を耐熱容器に注いだお湯に浸けて、20〜30秒待つ。
この「カドループ」、素材は公表されていないが、おそらく熱可塑性エラストマー(温めると柔らかく、冷えると固まるゴム性の樹脂)製だと思われる。
ただ、一般的に消しゴムで使用されるエラストマーの軟化点は80〜120℃だが、これはもっと低く、軟化点は実測で65℃ほど。つまり、普通にお湯に浸けて温めるだけでとろけるように柔らかくなってしまうのだ。
ちなみに、お湯を使わずドライヤーで温めても柔らかくすることができる。

押さえ付ける順番とお湯の温度
ということで、温められてすっかり柔らかくなった先端を透明のカドモドシートに押し付けると、クニャッという柔らかい手応えとともに潰れて平らになる。
さらにシートの折り目から包み込むようにして側面もギュッ、ギュッと押してやると、さっきまで丸かった消しゴムにきっちりとしたカドが復活するという仕組みだ。
このときのポイントは、押さえ付ける順番があるということ。まず先端、次いで細い方の側面、最後に広い方の側面を両側から均等かつ適度な圧を加えること。圧が強すぎるときれいなカドにならず、潰れたような形状で固まってしまう。

もう一つ重要なのは、お湯の温度が高すぎないこと。80℃以上だと柔らかくなりすぎて、カドモドシートの隙間から消しゴム生地がニュルッとはみ出すなどして形成不良となる。
体感としては、だいたい70℃前後が最もカドを作りやすかった。


消字力と消し味に困惑
ただ、消しゴム本来の性能=消字力に関しては、普通の消しゴムよりもわずかに弱い印象だ。
同じSEEDの代表作である「Radar消しゴム」と比べてみると、やはり紙にほんのりと消し残しが見て取れた。これはまず間違いなく、低温で柔らかくなるという特殊な生地に由来するものだと思う。
「とりあえず誤字をこすって修正できればそれでいい」というレベルの使い方ならさほど気にならないかもしれないが、「きれいに完ぺきに消したい!」というところまで求めるのは難しそうだ。

もう一つ、消す際の感触……いわゆる消し味もちょっと不思議な感じだ。
生地自体はやや硬めなのだが、消すために擦りつけると紙との接面が摩擦熱で柔らかくなるのか、突然モロッと崩れるような手応えがある。加えて、その崩れた分だけ、消しカスは普通よりも多めに発生するようだ。
これは単純に感触の好みの話なのだが、他ではあまり感じたことがないので、初めて使ったときは正直「え、なにこれ?」とちょっと戸惑った。

とはいえ、使い込んで丸まってしまった消しゴムが蘇る・何度でもカドで消せる、というのはシンプルにうれしいし、使いやすいと言える。
いちいちお湯に浸けて成形し直す、という手間は決して小さくはないが、それでも消しゴム生地が続く限り何度でもカドが生み出せるのは画期的だろう。
今までにカドケシやその他のカドがいっぱい消しゴムに興味を持って使ったことがある方なら、今度はカドを復活させる体験もしてみるべきだ。