ビール類全体が減少しているなか、「クラフト系は伸びている」という話は酒好きなら知っている話題かもしれません。筆者もその動向を逐一チェックしているひとりで、今秋はいくつかの面白いトピックスが見られました。そこで本稿では、各社の新商品や取り組みを中心に共通点を探り、ビールの未来を考察していきたいと思います。
国内クラフト王者の進化と新作にはホップが大きく貢献!
まずは、国内クラフトビール界のトップランナー「ヤッホーブルーイング」の展開から。実は今秋、「よなよなエール」がリニューアルしたのです。日本で最も有名なクラフトビールといえる同商品ですが、1997年の発売以来初めてレシピが大幅刷新されました。
味わい面で大きく変わったのが、使用するホップです。よなよなエールの特徴である柑橘類を思わせる香りを最大限に引き出すため、「カスケード」と呼ばれるアロマホップを増量。さらに、これまで使用していたホップの品種を見直し、「カスケード」をより引き立てるためのホップブレンドに変更しました。
さらに、今秋のトピックスとしてヤッホーブルーイングからはもうひとつ、予想外の新商品が発表されました。カエルのイラストが印象的なあのブランドからのニューカマー、「僕ビール、君ビール。ミッドナイト星人」です。
もともと「僕ビール、君ビール。」は、普段ビールを飲まない20~30代の若い世代に新たな味の体験を提供することを目指した商品。味の特徴はズバリ「思わずハッとする個性的な味わいと香り」で、ここにきてさらに攻めた商品を投入したのです。ビアスタイルは「ホッピーアンバー」。鮮烈なホップの香りと桃を思わせるフルーティなフレーバー、そしてモルト由来のスウィートなキャラメル感が際立ちながらスムースで飲みやすい味わいです。
「フレーバーホップビール」という新カテゴリーが誕生!
つづいては、サッポロのグループ企業「ジャパンプレミアムブリュー」の新商品を紹介。同社はこれまで「Craft Label THAT’S HOP 伝説のSORACHI ACE(ソラチエース)」などの意欲作を発売しており、今回は「既成概念にとらわれない、ビール新カテゴリー創造への挑戦」と銘打った注目の内容でした。なんと、クラフトビールでもプレミアムビールでもない新ブランド「Innovative Brewer」が立ち上がったのです。
商品名そのままですが、第1弾のテーマは「ホップそのもの」。フレーバーホップビールという新カテゴリーで、ホップを主役にした観点で企画されています。それはつまり、「〇〇ビールの商品である」「クラフトである」「〇〇というビアスタイルである」といった既存の選び方ではなく、ビールの原材料であるホップの種類で選ぶという新提案。
実際にテイスティングしてみると、その個性がよりよくわかります。「ネルソンソーヴィンの真髄」は苦みが抑えられていて華やかかつ爽やか。クリアながらも上品なフルーティ感があって、飲み応えは十分といった印象です。一方の「絶妙のモザイク&シトラ」は、グレープフルーツなど柑橘系の清涼感が豊か。ただ、アメリカを中心に人気の明るく弾けるような柑橘フレーバーとは異なる繊細なニュアンスです。アルコール度数も4.5%で飲みやすく、確かに“絶妙”といえるおいしさですね。両商品とも日常的な料理に合わせやすく、個性派ビールの入門にもオススメです。
これまでの2社の新商品に共通するものーーそれはホップです。これはすなわち、ビールのいち原料として語られてきたホップにより注目が集まっているといえるでしょう。そして、ホップへの取り組みでいえば、キリンビールとその傘下のスプリングバレーブルワリー(SVB)にも注目です。前者は毎年「一番搾り とれたてホップ生ビール」を発売していますが、今年も10月24日から数量限定で岩手県遠野産ホップ「IBUKI」を使用した一番搾りを発売中。
そして後者でいえば、SVBが中心となって秋に「FRESH HOP FEST」という国産ホップの収穫イベントを開催しており、その規模は年を追うごとに拡大しています。
そして個人的には、サッポロビールの新ジャンル「麦とホップ」の存在も見逃せないと感じています。なぜなら、麦とホップは「魅惑のホップセッション」「夏空のホップセッション」「秋の薫り麦」「赤」「彩のモルトセッション」などなど、頻繁に季節限定商品を発売しているからです。価格のリーズナブルな新ジャンルで、ここまで意欲的に挑戦的な味をカジュアル層に提案しているブランドも珍しいでしょう。
クラフトビール同様にホップの一般的な浸透は道半ばですが、ビール業界全体でホップが有力視されていることは間違いありません。今後、よりホップを効果的に使った新商品の登場や取り組みの開催に期待したいと思います!