サニーデイ・サービス 田中 貴のラーメン狂走曲 佐高 [新宿御苑前]
かつては東京にも手打ちの麺を出す店がいくつかあった。芳来、高揚、そして満来。今回は、満来で十数年修行したのちに独立した茂木佐高さんが、寡黙に腕を磨き続け作り上げた至高の一杯を紹介。
田中 貴
2008年に再結成を果たし、以来ライブを中心にマイペースながらも精力的に活動を続けるサニーデイ・サービスのベーシスト。ストリーミング配信のみで発表した「PopcornBallads」を、12/25にCDおよびアナログ盤として発売。配信時の収録内容から大幅に改訂され、全25曲100分超の壮大なアルバムになっている。
機械では絶対に作れない、喉越し最高の絶品麺
清潔で素っ気ないくらいにシンプルな店内。白いシャツに短く整えられた髪型の店主が、麺をやさしく両手で包みこみ、大きな鍋にパラリと入れる。チャーシューは切り置きせず、その都度、包丁で切り分ける。ひしゃくでスープをすくい、濃さを細かく調整しながら丼に注ぐ。麺の茹で上がりを確認するのにタイマーは使わない。ベストな茹で具合は、その日の気温や湿度、麺の状態によって変わるから、決まった時間では的確な調理はできないのだろう。
たっぷりのお湯の中を泳ぐ麺を鋭い眼光で見つめ、その頃合いを見極めると、素早く一気に平ザルですくい上げる。チャッチャッと湯切りする音だけが静かな店内に鳴り響く。スピーディでまったく無駄のない動き。派手なパフォーマンスはない、熟練した職人の完璧な所作に惚れ惚れしながら「いただきます」とカウンター越しにラーメンを受け取る。僕が「佐高」に通うようになって十数年。店主さんは、いつもひたすらにラーメンを作り続けているので、一度も会話をしたことがない。それどころか笑顔すら見せない、無愛想なくらいの寡黙さ。緊張しながら取材にうかがうと、「昔から来ていただいてますね」と初めて見る笑顔で迎えてくれた。
知者不言、言者不知——本物はここにある
佐高の最大の特長は艶やかな自家製麺。毎朝3時から、茂木店主がひとりで数時間かけて打つ。ほぼ手作業で打たれ、手切りされる麺には、製麺機では絶対に再現できないみずみずしさがある。この見事な喉越しを楽しめる麺は、佐高でしか味わえない。
茂木店主の師匠にあたるのは、「満来」の創業者である高野光男氏。高野氏が引退したいま、満来と満来出身者が営む店で手打ち麺を出す店はなく、全て製麺所の機械打ちの麺を使用している。「自分がおいしいと思うものを作り続けているだけです」細部にまで信じられないほどのこだわりを持ち、進化し続ける味。麺作りの大変さをアピールすることもなく、派手な看板も出さない店で黙々とラーメンを作り続ける。違いのわかる者だけが集う店。僕は一生通い続けるだろう。
<これも味わいたい!>
<この一杯からはこんな音色が聴こえてきた!>
BOBBY CHARLES「BOBBY CHARLES」
音楽を愛する男が作り出す曲たち。飾りっ気のない、必要な音だけがそこにある。本当にいい音楽は、本当に音楽が好きな人のところへ届く。一生聴き続ける最高の一枚。
【店舗情報】
佐高
住所:東京都新宿区新宿1-17-9
営業時間:[月~金]11:30~21:00、 [土]11:30~15:00
定休日:日曜日・祝日
取材・文/田中 貴 撮影/黒飛光樹(TK.c)