身に着けるだけで重い荷物を軽々と持ち上げたり、運動能力をアップしたり……。着ている人の身体能力を拡大してくれるパワーアシストスーツ(パワードスーツ)は、一昔前までは映画や漫画のワンシーンにすぎませんでした。しかし、農作業や介護現場などでもその需要は高まり、様々なアシストスーツが開発されてきています。
そんななか、パンツを履くだけでウォーキングとランニングをアシストしてくれる最新のパワーアシストスーツが8月、ハーバード大学とネブラスカ大学オマハ校の共同研究で開発されました。
歩くと走るを1つのデバイスでサポート
ハーバード大学ワイズ研究所とネブラスカ大学オマハ校の研究者は、歩行と走行をサポートするパワードスーツを開発し、サイエンス誌で発表しました。
人が歩くとき、かかとが地面を蹴ると身体の重心は上方向へ移動し、歩行周期の中間で最も高い位置に達します。一方、走るときは走行周期の中間で重心が最も低く、蹴りだすときに高い位置になります。つまり歩行と走行では身体の重心の動きが逆になり、生体力学上異なるのです。そのため、歩行用のアシストスーツと走行アシストスーツはこれまで別々に開発されてきたのですが、歩行と走行を1つのデバイスでアシストするという点で、今回の開発は画期的な試みだったと言えるのです。
研究者たちは、歩行から走行、走行から歩行への遷移をきちんと検出するため、重心の変化を検知可能なアルゴリズムを開発。このアルゴリズムで制御されるモバイル作動システムを背中に、さらに腰と太ももに繊維性の生地で覆ったものを装着したものが今回開発されたパワーアシストスーツになります。デバイスは一式5kgと、ロボットスーツにしてはかなり軽量に作られていることも特徴の1つ。
ランニングマシンを使って行われたこの性能実験では、歩行時は平均9.3%、走行時は平均4%の代謝コスト(ある運動をした結果、消費されるエネルギーの量)を削減させることができたそうです。つまり、歩いたり走ったりするとき、より身体への負担を感じにくくなったというわけです。
将来的には、歩行障害がある方のほか、工場やレクリエーションといった幅広い分野で利用することができると見られています。
軽々と坂道を駆け上ったり、山道をハイキングしたり、運動の幅を広げてくれそうなこのパワードスーツ。現代人の身体は衰えているという指摘がありますが、パワーアシストスーツは失われた身体感覚を取り戻すのにも役立つのではないでしょうか? うまく使えば、私たちはこれでもっと健康的な生活を送ることができるかもしれませんね。