日本のなかで、最も変化や進化が激しい街といえば渋谷だろう。駅周辺を中心に様々な商業施設が生まれ、イノベーティブなレストランも次々とオープンしている。だがその一方、不変であり普遍的な名店が輝き続けているのも事実だ。ジャンルは多様にあり、街中華でも言わずもがな。今回は渋谷センター街と道玄坂の2店舗で君臨する老舗「兆楽」を紹介したい。
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「ルース」が具材と米とをつなぐ芳醇なまとまり
その魅力は、なんといってもふところの広さにある。堂々としたサイズのオリジナル餃子が6個で税込220円(今夏までは200円だった)など、チェーン店をあざ笑うかのような良心的メニューの数々。テイクアウトOK。定休日なし。中休みもなく深夜3時まで営業(かつては4時。「道玄坂店」は24時までだが、朝7時から営業)。アクセス至便でわかりやすい立地。ファストフード顔負けの超高速提供。とにかく、いろんな意味でやさしいのだ。
そして、ここだけでしか味わえない名物「ルースチャーハン」の存在も見逃せない。この「ルース」とは、「チンジャオロース=青椒肉絲」の「肉絲」のこと。「青椒=チンジャオ」がピーマンなどの青野菜のことで、つまりはそれを省いてチャーハンに添えた一皿が「ルースチャーハン」である。改めて、その調理法を観察してみた。
混雑具合にもよるだろうが、「ルースチャーハン」は2人の料理人のコンビネーションによって生み出されていた。オーダーが入ると一方はルースの調理をスタートし、もう一方はチャーハンをあおりはじめる。
肉とタケノコからなるルースはきわめてシンプルだが、チャーハンも同様。というのも、チャーハンはネギすら入らないガチな卵チャーハンなのだ。そのため、ルックスも地味。渋谷エリアにあふれかえる、フォトジェニックな料理とは比べ物にならない。しかしそのウマさには、圧倒的な説得力がみなぎっている。
あんは清湯(チンタン)スープをベースにした醤油味で、秘伝の調味料と砂糖で甘じょっぱいテイストに。とろみはやや強めになっているのもポイント。チャーハンがラードでコーティングされたパラパラ系のライトタッチなので、この乳化具合が最適なのだ。こうすることで具材と米粒とがつかず離れずで絡み合い、至福のおいしさを生み出すのである。
ちなみに筆者はこれまで、シラフで「ルースチャーハン」を食べたことがなかった。それもあって、なんとなくウマいと錯覚しているのではないかと思っていた。そして今回改めて冷静な脳と舌で味わってみることに。そして瞬時に「錯覚しているのでは」と思った自分を恥じた。やっぱりこれ、ウマいよ!