将来の食料不足問題を見据えて、牛や豚といった動物以外の原料から肉を作るなど、さまざまな代替食品が生まれています。しかし最近、驚くべきものを使ってタンパク質を作ってしまった企業が現れました。その材料は空気。これを原料にして作られた世界初のタンパク質は「エアプロテイン」と呼ばれていますが、一体どうやって空気からタンパク質が生まれ、どのように利用されようとしているのでしょうか?
NASAが発見した微生物が鍵
業界のみならず世界中に大きなインパクトをもたらしたエアプロテイン。発表したのは、米カリフォルニア州ベイエリアに拠点を置くエアプロテイン社です。彼らが着目したのは、同じカリフォルニアの企業Kiverdi社が開発した二酸化炭素変換技術です。この技術は、1960年代にNASAが限られた宇宙空間と資源のなかで食料を生み出すために研究開発していた際、発見された微生物「ハイドロゲノトロフ」を利用しています。ハイドロゲノトロフは、二酸化炭素をタンパク質に換えることができるのです。
エアプロテイン社は研究を進めハイドロゲノトロフを利用して、9つの必須アミノ酸を含む粉末状のタンパク質を実現。できあがったタンパク質は、ビタミンやミネラルも豊富に含まれ、ビタミンBも含有しており、特に肉類に多く含まれるために菜食主義者には不足しやすいB12も含まれています。さらに含有アミノ酸は動物性タンパク質に匹敵するレベルで、大豆の2倍と栄養面でも申し分ありません。こうしてできあがった粉末状のエア・プロテインは、ハンバーガーのパテやパスタ、シリアルなどのメニューに利用できるそうです。
エアプロテインを含め、さまざまな代替食品が開発されている背景のひとつには、人口増加があります。現在77億人の世界人口が2050年には約100億人まで増加すると予想されていますが、専門家は、アマゾンの森林火災や温暖化による影響のため、土地はわずか5%程度しか増加しないのに、畜産農家は現在より70%以上食料生産量を増やさなければならない計算になると指摘しています。
だからこそ、入手しやすい材料が原料となり、大量に生産可能な代替食品が今後ますます必要とされているのです。また畜産業は、自動車や鉄道などよりも二酸化炭素の排出量が多いという点も、畜産分野にばかり頼れない一因。畜産や農業のように土地を必要とせず、天候に影響を受けることなく、どこにでも存在する空気を原料とするエア・プロテインは、画期的な将来の食料になる可能性を大いに秘めているのです。
エアプロテイン社と同じように水素と二酸化炭素からタンパク質を作る開発を進めている企業もあり、将来は「肉ではない肉」の市場がさらに熱くなっていくのかもしれません。