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2019/12/1 20:00

「さよなら」ではなく「またね!」ーー生産終了の「VW・新世代ビートル」のラストを画像多めで濃厚インプレ

「ニュービートル」の時代までカウントすれば、およそ21年間におよぶ新世代ビートルの歴史にピリオドが打たれました。現行モデルの「ザ・ビートル」を生産してきたメキシコでは、今年7月に最後の1台がラインオフ。日本でも、9月に陸揚げされたものが新車で買えるビートルの“最終枠”となります。このフォルクスワーゲンのルーツとなった名車の名を冠した現代のビートルとは、果たしてどんな存在であったのか? ここでは、最終型の試乗を通じて改めて考察してみました。

 

↑ビジュアル面における歴代ビートルの魅力は、どんな場所に置いてもサマになるところでしょうか。爽やかな伊勢志摩路にて

 

日本でも連綿と受け継がれる「元祖ビートル」の存在感

日本における最後の「ザ・ビートル」が陸揚げされたおよそ1か月後、VGJ(フォルクスワーゲン・グループ・ジャパン)の豊橋インポートセンターではフォルクスワーゲンの恒例イベントである「第13回ストリート・フォルクスワーゲン・ジャンボリー(13th Annual Street VWs Jamboree)が開催されました。

 

↑この1965年式タイプ1はVGJが所有する個体。当日、イベントのオープニングには社長のティル・シェア氏がステアリングを握って登場しました

 

ここ数年は東京のお台場で開催されてきた同イベントですが、今年はイベントを共催するVGJが会場を提供。当日は600台の展示車両や2000台の参加車両、約5000人のフォルクスワーゲン好きが集結して、その魅力を共有しました。

 

↑毎回、このイベントでVGJが参加者から選出している「VGJアワード」。今年は1967年型のタイプ1を維持しているオーナーが選ばれました

 

“ストリート”といいつつ、イベントの主役はやはり新世代ビートルのモチーフとなった元祖ビートル(正式名は「タイプ1」)など、空冷リアエンジン時代のクラシック・フォルクスワーゲン。特にタイプ1は、“超”が付く長寿車(実に58年)にしてライフスタイルツールとしても長年世界的な支持を集めた存在だけに、展示車のバリエーションは多彩そのもの。下記のギャラリーでイベントで展示されていた車両の(ごく)一部をピックアップしています。

【ギャラリーはGetNavi webのサイトで閲覧できます】

当日の会場には新世代ビートルの姿も見られましたが、タイプ1(と、その派生モデル)の存在感はやはり圧倒的。すでに1年以上前から今年がラストイヤーであることがアナウンスされていたこともあってか、ことさらにザ・ビートルをフィーチャーする空気もありませんでした。

 

実際、タイプ1と新世代ビートルではファンの嗜好やクルマ自体の位置づけも異なるだけに当然といえば当然の話なのですが、門外漢の“よろずクルマ好き”としてはむしろアッサリとした扱いが多少意外でもありました。

 

新世代ビートルは名車の風味を現代のセンスで愉しむファン・カー

そう、フォルクスワーゲン(国民車)の第一号であり正真正銘のベーシックカーとして生を受けた元祖ビートルと比較すると、「ニュービートル」やザ・ビートルはスタイリングを筆頭とする元祖の愛されキャラを現代的センスで愉しむ“ファン・カー”という大きな立ち位置の違いがあります。

 

ライフスタイルツールとしての視点なら2001年に登場した新世代MINI、あるいは2007年デビューの現行フィアット500あたりが新世代ビートルに近い存在といえるでしょう。どちらもデザイン上のモチーフとなったモデルはベーシックカーでしたが、特にMINIは新世代になってバリエ―ションを大幅に拡大。

 

同時にコンパクトでも上質、という作りをアピールしてプレミアムスモールというカテゴリーを確立しました(モデルによっては、もはや全然小さくありませんが)。バリエーション拡大、という点ではフィアット500も500Lという5ドアモデル(日本未導入)やSUV仕立ての500Xを投入。MINIほど高価ではないこともあって、現地ではベーシックカーとしても安定した支持を集めています。

 

元祖ビートルがモチーフであるがゆえの限界?

そんな両車と比較すると、1998年に登場したニュービートルはもとより2012年に上陸したザ・ビートルもボディバリエーションはオープンモデルのカブリオレ程度。実用車としてならいまや不可欠な4(5)ドアが作られることは結局ありませんでした。

 

まあ、それも当然といえば当然の話です。乱暴にいえばアイコニックなフロント回りの見た目さえ継承すれば“それっぽく”見えるMINIやフィアット500に対し、外観的なビートルらしさとは文字通りカブトムシを彷彿とさせる丸いルーフライン、あるいは四隅が独立したフェンダーといった全体のカタチで表現されるものですから別形態のボディで独自のキャラクターを保つのは至難のワザ。

 

また、フォルクスワーゲンにとっての新世代ビートルはタイプ1からの血統をアピールするイメージリーダーではあっても、決して自動車メーカーとしての主力ではありません。いまや「世界のビッグスリー」という地位を築くフォルクスワーゲンですら、次世代車の技術開発に莫大な投資が強いられる時代ですから、MINIのような車両の高額化路線でも採らない限りワイドバリエーション化など不可能という事情もあったでしょう。

 

その意味では、累計で実に100万台以上を生産したニュービートルはビジネスとして出来すぎだったわけで、おそらくそれが常識的なファン・カーの生産レベルにとどまっていたらザ・ビートルが生まれることはなかったでしょう。つまり、残酷な言い方をしてしまうなら新世代ビートルとは元々“先がある”クルマではなかったのです。

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