日本で離乳食や幼児食といえば市販のベビーフードなども多くありますが、世界の乳幼児は何を食べているのでしょうか? とりわけ開発途上国では、私たちが知らない離乳食&幼児食がたくさんあるようです。今回は「各大陸の開発途上国で、乳幼児たちはどんな離乳食&幼児食を食べているのか?」というテーマで、世界の開発途上国で活躍中している「JICA海外協力隊員」から、現地の写真と情報を集めました。それぞれのお国柄を反映した興味深いリポートを、早速お届けしましょう。
ザンビア
主食の「シマ」がベース
最初に紹介するのは、アフリカ南部の内陸国、ザンビアの離乳食。ザンビアは、イギリス連邦加盟国のひとつで、面積は日本の約2倍。世界三大瀑布のひとつ、ヴィクトリアの滝があることでも知られています。田中穂乃佳さんと宮田紗希さんが詳細な情報を送ってくました。
ザンビアの主食は、「メイズ」と呼ばれる白トウモロコシの粉などをお湯で練って作った「シマ」という少し弾力のあるペースト状の食べ物です。
「シマの主な材料は、メイズとキャッサバ(熱帯地域でよく栽培されている芋で、タピオカの原料)で、メイズ100%のシマ、キャッサバ100%のシマ、2つを混ぜたシマがあります。混ぜる割合は家庭によってさまざまで、メイズのほうがキャッサバよりも高価なため、経済事情によっても変わるようです。また、お米を育てている農家では、おかゆを食べることもありますし、ソルガムと呼ばれる穀物の粉からできたシマを食べる地域もあるそうです」と宮田さんは説明してくれました。
シマは元々幼児でも食べやすい食材なので、ザンビアでは離乳食もシマがベースになっているそうです。
「私が知る農家では基本的に離乳食を特別に作っているわけではなく、大人と同じ食事のタイミングで同じものを少しづつ食べさせているようです。母親が口に入れて柔らかくしたもの、細かくしたものを子どもに与えているという形でした」(宮田さん)
田中さんがじゃがいも主体の離乳食を作っている写真を送ってくれたので、以下で紹介します。ここではシマは使っていませんが、家庭によってさまざまなバリエーションがあるようです。
【ザンビア離乳食ひとくちメモ】
田中さんが、朝食、昼食などによる違いを整理してくれました。
〈朝食〉
・メイズの粉をお湯で溶いたもの+砂糖、塩が基本で、現地では「ポレジ」と呼ばれる
・副菜として、卵(黄身)、ピーナッツ、大豆、ピーナッツバター、牛乳などをポレジに混ぜる
・米を使う場合:炊いたお米に牛乳や砂糖をまぜたもの(米はメイズよりも高いため、地域によって使われる頻度・量は異なる)
〈昼食・夕食〉
・多くはシマがメインで、乾燥した魚、チキン、カボチャの葉、カレンブラ(ザンビアの野菜)、チャイニーズリーフ(ほうれん草のような見た目の野菜)などと一緒に食べる
・子どもには、母親が噛んで柔らかくしたものを与える
〈間食〉
・ザンビアでとれる果物がメイン。グアバ、スイカ、リンゴ、バナナなど
【教えてくれた人】
田中穂乃佳さん
2018年7月からザンビア中央の街・カブエに、JICA海外協力隊員として赴任。北海道出身で、専門分野は公衆衛生。現地のヘルスセンターを拠点に、乳幼児検診や妊産婦検診、環境衛生士などへのサポートおよび改善の提案をはじめ、生活習慣病の予防活動を立ち上げ、PCスキルも含めた業務効率の改善など幅広い分野で支援活動に励んでいる。
宮田紗希さん
2019年3月からザンビア北部のサンフィアに、JICA海外協力隊員として赴任。東京都出身で、専門分野は家畜飼育。サンフィア郡水産畜産事務所を拠点に、ヤギ、鶏、牛を飼育している農家を訪問し、アドバイスや改善点を提案。新規で家畜を飼育したい農家への情報提供や、マーケット拡大のために畜産物の加工や調理法の提案も行なっている。
モンゴル
肉のスープに米や小麦粉を入れて
次に紹介するのは、日本人にも相撲などで馴染み深いアジアのモンゴル。米山郁さんが情報を教えてくれました。
モンゴルでは主食として米や小麦も食べますが、牛や羊その他の肉も主食並みに多くの量を食べるそうです。それに加えて乳製品もよく使われています。そのため離乳食に関しても「離乳食は何種類かあるようですが、羊骨、牛骨スープをベースに作られているものが多いです」(米山さん)とのこと。
ここでは最も一般的だと言われている2種の離乳食を米山さんが紹介してくれました。味つけはどちらも薄味で、肉や野菜の旨みをベースにした素材の味になっているそうです。
【モンゴル離乳食ひとくちメモ】
〈おかゆ系〉
・肉(羊か牛)、小麦粉、人参、玉葱、塩、サラダ油などを材料に、お粥状に煮込んだもの
・現地での呼び名は「濃縮したお粥」(直訳)
〈シチュー系〉
・牛乳(ホエイ、カッテージチーズのような乳製品)、セモリナ粉(小麦)、片栗粉、砂糖、バターかサラダ油などを材料に、シチュー状に煮込んだもの
・現地での呼び名は「栄養のあるシチュー」(直訳)
【教えてくれた人】
米山郁さん
2018年1月からモンゴルのダルハン・オール県に、JICA海外協力隊員として赴任。東京都出身で、専門分野は栄養士。県の保健局公衆衛生課に属し、現地の栄養士とともに生活習慣病患者への栄養、食事指導を行なっている。また、糖尿病や肥満の患者に適した献立や料理の方法を、地域の人々や医療関係者に紹介している。
ルワンダ
料理用バナナも使って
次は、東アフリカのルワンダ。赤道のほんの少し南側の国ですが、標高が平均で1500m前後と高いため、気候は年間を通して温暖で過ごしやすく、面積は四国の約1.4倍。アフリカでもっとも人口密度が高い国だそうです。そんなルワンダの情報を教えてくれたのは、豊川絢子さんです。
ルワンダの主食は「プランテーン」(料理用バナナ)、米、じゃがいもなどいくつかありますが、離乳食もそれらがベースになっています。豊川さんが調べてくれた主な食材は以下の通りです。
【ルワンダ離乳食ひとくちメモ】
〈離乳食の材料〉
・プランテーン 、または米、じゃがいもなど
・野菜(トマト、玉ねぎ、人参、ドードー〈アフリカ野菜〉など)
・豆(グリーンピース 、金時豆、ピーナッツパウダーなど)
・小魚(パウダー)
・塩少々、油少々、水
これらを火にかけて混ぜ、つぶしたものを離乳食として子どもに食べさせているそうです。味のほうは「味付けは塩のみなので、野菜そのものの味がします。小魚の風味がアクセントになっていると思います」と豊川さんは教えてくれました。
【教えてくれた人】
豊川絢子さん
2018年8月からルワンダの東部県ルワマガナ郡に、JICA海外協力隊員として赴任。仙台市出身で、専門分野は公衆衛生。ルワマガナ郡庁保健課で、地域の保健衛生全般(水衛生、母子保健、マラリア対策、栄養改善、HIV対策等)や病院、ヘルスセンターの統括を担当中。疾病や栄養失調の多い村のデータを分析し、原因究明や啓発活動にも努めている。
コロンビア
スーパーで購入できるものも
最後に紹介するのは、南アメリカ大陸の北端に位置するコロンビア。面積は日本の約3倍で、ラテンアメリカ圏ではブラジル、メキシコに次いで3番目に人口が多い国です。淺井康博さんが情報を教えてくれました。
コロンビアの主食は、米、芋(じゃがいもやキャッサバ等)、とうもろこしなど各種あって、米+おかずという日本と似たスタイルで食べることも多いそうです。
ただ、離乳食はそれとは別に作ることが多く、下記のような一般的な材料と水をベースに乳幼児でも食べやすい状態に調理しているとのこと。「味つけは、とくに調味料などを使用するわけではなく、食材+水のみなので素材そのものの味のようです」と浅井さんは教えてくれました。
【コロンビア離乳食ひとくちメモ】
〈朝食〉フルーツ
〈昼食〉豆+人参、鶏肉+豆、米+ほうれん草など
〈夕食〉果物+シリアル、パン+ミルクなど
また、日本と同様にスーパーで各種のベビーフードを売っているので(写真下)、それを買ってきて食べさせている家庭も多いようです。
【教えてくれた人】
淺井康博さん
2018年9月からコロンビアのキンディオ県アルメニア市に、JICA海外協力隊員として赴任。富山県出身で、専門分野は料理。現地の国立職業訓練校において、多様なニーズに対応できる人材の育成と、現地の食材を生かしたオリジナルレシピの創作、日本食の紹介などに尽力している。
離乳食の開始時期は世界共通!?
以上見てきたように、国によって食材は違っていて、改善の余地のあるケースもありますが、どの国でも栄養、消化などに留意しながら子どもたちに愛情たっぷりの離乳食を食べさせていることに変わりはないですね。
離乳食を始める時期は、どの国も日本と同様に生後6か月前後とのこと。国によっては、「ザンビアでは離乳食の開始は6か月と定められています。また生後~6か月未満は母乳で育てるように指導が徹底されていて、24か月までは母乳を与えるようにも言われています」(田中さん)と、行政から明確に指導されているところもあるようです(※)。
JICA(独立行政法人国際協力機構)は開発途上国の栄養改善にも力を入れていて、今回情報を提供してくれたスタッフの中にも現地の村々へ精力的に赴いて栄養指導を行なっている日本人が多くいます。経済的な事情もあって子どもたちに十分な栄養を与えられない国も多い中で、1人でも多くの子どもたちが元気に育ってくれるように、彼らは日々奮闘を続けています。
※生後6か月までの完全母乳育児はWHO(世界保健機関)も推奨しています。
JICA(独立行政法人国際協力機構)のHPはコチラ
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