ワールド
2019/10/31 18:23

“世界一美しい祭り”グアテマラのセマナサンタ(聖週間)

 

グアテマラ共和国は、メキシコの南側に接する中央アメリカの国。16世紀にスペインの植民地にされる前はマヤ文明の中心地として栄え、現在も多くの遺跡が残っていて、世界中からたくさんの観光客が訪れています。

 

そのグアテマラでもうひとつ観光客に大人気なのが、4月に行われるキリスト教の「イースター(復活祭)」に先立つ1週間=「セマナサンタ(聖週間)」です。この時期はカトリックを信仰する国々で盛大な宗教行事が行われますが、世界遺産にも登録されているグアテマラの古都「アンティグア」のセマナサンタは、「世界一美しい祭り」とも呼ばれ、毎年非常に盛り上がっています。

 

その美しさや人気の理由は何なのか。今年の10月までJICA(独立行政法人国際協力機構)の青年海外協力隊員としてグアテマラで活動していた上里佳那子さんに、現地で接した生の情報を教えてもらいました。

 

↑アンティグアは、スペインの植民地時代に建てられた多数の教会やバロック建築が残るグアテマラ高地の古都。1979年にはそれらの文化遺産が、ユネスコの世界遺産に登録された

 

市民の有志でキリストが通る美しい絨毯を

グアテマラのセマナサンタの期間中には、キリスト像やマリア像が乗せられた大きな神輿が街中を練り歩きながら大聖堂へ向かう「プロセシオン」という行事が行なわれます。

 

「プロセシオンは、色とりどりの木屑や花、パンなどで作られた絨毯『アルフォンブラ』の上を通ります。それは『キリストが絨毯の上を歩いた』という聖書の記述に基づいているそうで、市民が工夫を凝らして作った美しいアルフォンブラを見て回るだけでもすごく見応えがあります」(上里さん)

 

大勢のカトリック教徒に担がれた神輿が、色とりどりのアルフォンブラの上をゆっくりと左右に揺れながら進んでいく姿は、とても荘厳な雰囲気があり、訪れた観光客を魅了しています。

 

↑プロセシオンの神輿の上に乗るキリスト像。その行列は、イエス・キリストが十字架を背負いながらゴルゴダの丘に向かって歩いた姿を象徴している

 

↑遠目に見ると本物の高級絨毯のように見えるアルフォンブラ。多くの一般市民たちが協力しながら時間をかけて作り上げている

 

上里さんの言葉通り、毎年アンティグア市民が美しさを競い合って作るキリストの絨毯=アルフォンブラは、本当にカラフルでさまざまなデザインがあります。

 

「アルフォンブラは“これで作らなければいけない”ということは決まっていません。木屑、花、ウィピル(女性の伝統的衣装)、果物、パンなど様々なものを材料にして、有志が作っています。たとえば、アンティグアに住む家族やスペイン語学校の人たち、お店などが作るのですが、プロセシオンが通ったあとは掃除されてなくなってしまうという儚さもあります」(上里さん)

 

上里さんは、実際にアルフォンブラの準備を手伝った経験もあるそうです。「たまたまアンティグアを観光していたときに誘われて、友人の知り合いの家族にアルフォンブラ作りを手伝わせてもらいました。私が手伝った家族は、色付きの木屑をメインの材料にしていたんですが、アルフォンブラを敷きたい日の前々日に木屑に色を付ける作業を始め、前日の22時頃から15人程度でアルフォンブラ作りを始めました。作業は徹夜で行なわれて午前4時頃に終わり、その日の朝7時にプロセシオンが通りました」

 

↑上里さんが手伝った家族のアルフォンブラの製作の様子。着色した木屑や型を使って、非常に細かい装飾を施している

 

デザインは、その家族の場合は娘さんが決めていたそうです。「構想は彼女の頭の中にあって、木屑を流し込んで形を作る“型”がすでにあったので、それも利用しました。その型も、毎年更新するところもあれば、毎年同じものを使っているところもあるようです」(上里さん)

 

型を作り直す場合は、かなり前から準備をする必要があります。それだけ多くの手間をかけて作られたアルフォンブラも、キリスト像が通った後はきれいに掃除されて消えてしまうわけですが、それも年に一度のお祭りならではの魅力なのかもしれませんね。

 

↑数あるアルフォンブラの中には、こんな立体的な飾り付けをしたものも。しかもこれは「パン」だというから驚き!

 

マヤ文明由来のサウナ文化も

グアテマラには、セマナサンタ以外にも多くの見どころがあります。たとえば、マヤ文化を色濃く残した習慣のひとつに「テマスカル」と呼ばれる伝統的なサウナの文化があります。

 

↑テマスカルに使うサウナ部屋は、土で作られたかまくら型のドーム。加熱方法は地域によって異なるが、上里さんが訪問した地域では写真のように外で火を焚いて内部を温めていた

 

テマスカルは、写真のような土のドームを1~2時間前から外で火を焚いて温め、内部まで温まったら、中に入って水またはお湯を浴び、身体を洗うそうです。「産後のお母さんは、1週間毎日入って身体を温めると聞きました。テマスカルは水が慢性的に不足している山の中に多く、汗をかいて洗い流すことで身体の清潔さを保っているのかもしれません」(上里さん)

 

JICA青年海外協力隊の助産師として活動した上里さんは、先住民の住むコミュニティで伝統的産婆や妊婦、青少年を対象に妊婦教室や性教育を実施していたので、山間地域の文化に触れる機会も多かったそうです。

 

↑テマスカル内部の様子。山間地では水が貴重なので、汗を流しながら最小限の水やお湯で身体を洗っている

 

コーヒー以外にも多くの魅力が

グアテマラは火山国なので、日本と同様に温泉やお湯が流れる川があります。ただ、「グアテマラでは短パンとTシャツで入るのが一般的で、日本では裸で入るという話をすると驚かれました。男湯、女湯という考え方も聞いたことがないと言っていて、面白い文化の違いだなと感じました」と上里さんは言います。

 

また、グアテマラには各県、各市ごとに異なる民族衣装があります。「ある有名ブランドで発表された服が、じつはグアテマラの先住民の伝統的衣装だったことがあって、自分たちの文化を無断で使われて先住民が怒っているというニュースを読んだことがあります。最新ブランドで取り上げられるくらい、グアテマラの民族衣装は多種多様で魅力的で、おばあちゃんたちもとってもおしゃれです」(上里さん)

 

日本で最新の髪型も、グアテマラのどこかの民族の伝統的な髪形がルーツだったりするかもしれませんね。

 

↑グアテマラの民族衣装の一例。本当にバリエーションが多く、現代のファッションデザイナーにも刺激を与えている

 

「グアテマラと聞くとコーヒーの産地ということしか思い浮かばない人も多いかもしれませんが、伝統的な技術や文化、たくさんの自然が残る素敵な国です」と、青年海外協力隊の活動を経てすっかりグアテマラが大好きになったという上里さん。その言葉の端々から、日本の人たちにもっとグアテマラの魅力を知ってもらい、興味を持ってほしいという気持ちが伝わってきました。

 

【協力してくれた人:上里佳那子さん】

滋賀県出身の助産師。青年海外協力隊員として2017年からニカラグア、2018年からはグアテマラでJICAの協力事業に参加。グアテマラではキチェ県ホヤバフ市の保健センターを拠点に、先住民の住むコミュニティを訪れ、伝統的な産婆や妊婦、青少年を対象に妊婦教室や性教育を施し、出産に関わる啓発活動に尽力した。

 

JICA(独立行政法人国際協力機構)のHPはコチラ

 

【関連記事】

タイで人気の「バーンケーオ」、こんなに可愛いのに中身は「ドーベルマン」!?

加熱式ではなく「水たばこ」がブームのヨルダン・アンマンの不思議

もしかして日本以上にキャッシュレス化!? ミャンマー独自のお金事情とは

“知られざる美食の国”ペルーでブームの「日系料理」って?

京都の市バス、ラオスのビエンチャンを走る!