ワールド
2020/3/23 18:30

危機に直面する「創造性」を救え! 共同設立者が語る「Kickstarter」の本当の目的とは?

クラウドファンディングの始祖といえるKickstarterは、アーティストのペリー・チェン、音楽・映画ジャーナリストのヤンシー・ストリックラー、エンジニアデザイナーのチャールズ・アドラー氏が2009年に設立。自主製作映画から音楽、ゲーム、ハードウェアプロダクト製作、音楽、ジャーナリズム、食関連まで多種多様なプロジェクトの資金調達が行われていますが、これまでに17万9364のプロジェクトが成功し、合計48億ドル(約5200億円)以上もの資金調達がなされています(2020年3月19日時点)。

 

そんなKickstarterは、どのようにして始まったのでしょうか? その答えは一攫千金でも、スタートアップ風に業界をディスラプト(破壊)したいというわけでもなく、現在のクリエイティブのあり方に対してアドラー氏がある「危機感」を抱いたが故だったのです。

 

人と人をつなげる媒体

↑ 3DEXPERIENCE WORLD 2020で講演するチャールズ・アドラー(Photo courtesy of Dassault Systèmes)

 

もともとアドラー氏は大学で機械工学を専攻していました。その当時、マーク・アンドリーセンがウェブブラウザ「ネットスケープ」を開発。アドラー氏もインターネットに興味を持つようになり、大学を中退してプログラミングの世界に飛び込みました。顧客のWebサイトを制作しながらクリエイターたちを支援していたアドラー氏はペリー氏に出会うと、Kickstarter創業に向けて動き出しました。

 

「ペリーのアイデアがKickstarterの端緒を開きました。2000年、ニューオーリンズでミュージシャンをしていたペリーはコンサートを開催したかったのですが、どれだけ人が来るかもわからず、リスクが高過ぎて開催できずに終わったのです」とアドラー氏。

 

「私は自分にも同じような経験があるとペリーに話しました。何らかのアイデアを実現し、ほかの人と共有したい人がいます。そしてそのアイデアを支援したい友達や、もしくはこの世界にはどこかに支援したい人(知らない人でも)がいるでしょう。でもその両者をつなげる触媒の様なメカニズムがなかったのです」

 

彼らはそれを形にしました。アイデアを実現したい人がプロジェクトを立てて、そのアイデアを支援したい人はそのプロジェクトをお金で支援できるモデルを構築したのです。

 

そこにある危機

↑ 人間の創造性に嵐が……

 

Kickstarterの根底には、クリエイティビティ(創造性)に対する危機感があります。「クリエティビティすらも産業化されてしまいました。工業的なマインドセットがすべてを包み込んでいます」とアドラー氏。

 

「私は一時期映画業界にいました。ブルース・ウィルスのダイハードを見てください。一体どれだけ続編が出ましたか? もちろん私もダイハード好きですよ。でも多過ぎですよね。背景には続編を出そうと決めた人がいたわけです」

 

「ボストンからスターが生まれました。ボーンアイデンティティのマッド・デイモンです。これもたくさん続編が出ましたよね。過去のデータを見ると巨額の興行収入が見込めるからシリーズ化されるのです。良い作品は『収益化が見込めること』。産業化されると経済性が優先され、同じようなものばかり生み出されるようになるのですが、この状態は何か大切なものを見失っています」

 

このように、経済性のみが優先されて似たようなものしか出てこない状態に強い危機感を持つアドラー氏。多くのクリエイターから一体どのようにして世間に自分の作品を認知してもらうのかという悩みも繰り返し聞き、どうすればこのような問題をうまく解決できるか考えたそうです。

 

そこでアドラー氏たちは、Kickstarterを単に資金調達を行うプラットフォームとして存在させるのではなく、「クリエイティブなアイデアを実現する」ためのプラットフォームとして維持するためのルールを設けることにしました。クリエイターたちがプロジェクトを立てる際にはそのルールに従う必要があり、「人と共有できるもの」を創り上げるプロジェクトであることが大前提。そして、クリエイターとサポートする人がプロジェクトを通してつながり、一緒にプロジェクトを育てていくことが、その理想的なあり方なのです。

 

では、これまで「クリエイティブなアイデアを実現する」Kickstarterにおいて、どのようなプロジェクトが立ち上げられてきたのでしょうか? アドラー氏はKickstarterで成功したプロジェクトをいくつか紹介してくれました。

 

①Kickstarterで最初に資金調達に成功した「DRAWING FOR DOLLARS」(2009年)

プロジェクト設立者のDarkPonyは趣味で絵描きをしていました。どうせなら誰かのために絵を描いてみようと考え、支援してくれた人が希望する絵を描くプロジェクトを開始。資金調達目標額はわずか20ドル。3人から35ドルを調達してプロジェクトは成立しました。思いつきに近い形のプロジェクトではありますがKickstarterを活用することで、ほかの人にアイデアを認知してもらえるうえ、資金まで調達できるクラウドファンディングのポテンシャルを示したケースでしょう。

 

②無名ミュージシャンがアルバムをリリースした「Allison Weiss makes a full-length record!」(2009年)

プロジェクト設立者のAllison Weiss氏は無名のミュージシャンでしたが、アルバムをリリースするためにキャンペーンに挑戦。資金調達目標額は2000ドルでしたが、最終的には7000ドルの支援金が集まっただけでなく、New York TimesやWiredなどの大手メディアにも取り上げられ、ミュージシャンとして一躍有名になりました。無名のクリエイターであっても、Kickstarterを通して自分のアイデアや作品を多くの人に認知してもらえるのです。

 

③高校生がフライトシュミレーターを自作した「The Viper: Full-motion flight simulator」(2012年)

高校生5人が、使わなくなったセスナ機の機体を使用してフライトシミュレーターを制作したプロジェクト。目標金額は2500ドル。最終的には1万1500ドルの資金を調達しました。このプロジェクトには「私にも子どもがいます。このプロジェクトの5人の子どもたちを支援するのはまるで自分の子どもを支援するようなものですね」というコメントが寄せられたそうです。

↑ Kickstarterのミッションは明確に設定されている

 

アドラー氏はKickstarterの社会的価値について次のように言います。

 

「私たちのプラットフォームは人と人とをつなげるものです。プロジェクトを支援する支援金というのはお金自体よりも、もっと価値のあるもの。その価値とはLoveであり、消費主義よりももっと人間的な何かなのです」

 

音楽、映画などのクリエイティブにおいてもとかく経済性が優先されがちだったところに風穴を開けたKickstarter。従来とは異なるお金の流れが生まれたことは確かでしょう。

 

アドラー氏は2013年にKickstarterを離れ、新たに会員制コミュニティ「Lost Arts(ロスト・アーツ)」を立ち上げています。Kickstarterよりもさらに「人にフォーカスした」クローズドなコミュニティで、まだ一般には公開されていませんが、これから徐々に公開していく計画とのこと。アドラー氏の今後の動きに注目です。