最先端技術大国としてスタートアップ企業への投資が活発なイスラエル。この国が持つ強みや魅力は「数学を基礎にした技術力」で、AIやIoTの軸となる機械学習技術や暗号理論に長けていることです。これらのスキルが起業にもつながっていますが、国内に市場がないため、リリースと同時に海外市場展開も視野に入れる必要があり、このような技術を渇望しているグローバル企業が活発な投資を行うという構造ができています。
本記事では、イスラエルで日本企業との橋渡しやコンサルティングを手がける(株)イスラテックの加藤清司氏に取材した内容をもとに、イスラエルの現状や注目されているテック分野、新たなテクノロジーを持つスタートアップ企業などについて3回にわたりレポート。2回目はイスラエルテックのなかでも特に注目されているAI分野をテーマに、その背景や注目企業について説明します。
次のGAFAを生み出す可能性あり! 「イスラエルテック」はなぜ大躍進するのか?
これまで世界では1950年代〜60年代、そして80年代に人工知能ブームが起きました。現在は第3次AIブームと言われており、イスラエルはその真っ只中にいます。同国のAI関連の投資額は伸びていて、例えば2014年と2018年を比べた場合、AI分野の投資額は約3倍に拡大。また、エグジット(株式譲渡利益)についても増加傾向にあります。
さらにAIは分野横断型であるため、関連するテクノロジー分野である「セキュリティ」や「モビリティ」も注目されています。その背景には、もともとイスラエルはこれら分野の基礎技術にも強みがあり、関連スキルが蓄積されていたことが挙げられます。当地では、アメリカ系イスラエル人のジュディア・パール氏が、1980年代後半から統計的・確率的な手法をAI研究に導入し、理論づけした基礎技術の積み重ねを行ってきました。先見性と確固たるバックグラウンドがあるなかで進めてきた取り組みが、テクノロジー環境が整った現在になってようやく花開くことになったのです。
また、セキュリティのもとになる技術理論に関しても、イスラエルは暗号学者のアディ・シャミア氏の頭文字が付けられた「RSA暗号」などを生み出しています。この暗号は世界で初めて開発・実用化された公開鍵暗号で、インターネットを使った情報交換が活発化した現在もさまざまな場面で活用されています。
イスラエルにおけるAI分野の特徴のひとつは、開発に対する考え方。例えば、新たなセキュリティ技術を開発するとしたら、日本企業は「自動車のセキュリティを開発しよう、スマートフォンのセキュリティを開発しよう」といったシンプルな考え方から着手するのが一般的かと思います。しかしイスラエルでは、「自分たちの未来社会はこうなるだろう。その際に必要となる技術は何か」という大局的な発想で技術開発に取り組むのです。