本の帯にはかなりの購買促進効果があると常々思っていたが、今回購入した本は、ほぼ帯のみで選んだと言っても過言ではない。作品名は、『1ミリの後悔もない、はずがない』(一木けい・著/新潮社・刊)。
同学年ながらも神だと崇める椎名林檎さんが、推薦コメントを書いていたのだ。
私が50分の円盤や90分の舞台で描きたかった全てが入っている。
(『1ミリの後悔もない、はずがない』帯より引用)
あの椎名林檎からこんな絶賛を受けた作品を、見過ごせる、はずがない。
忘れかけていた感情が蘇る
『1ミリの後悔もない、はずがない』は、2016年「女による女のためのR-18文学賞」読者賞受賞作である『西国疾走少女』を含む、全5篇の短編集だ。一話完結でありながら、各話が少しずつ絡み合って構成されている。
R-18文学賞というだけあって、性的な描写が少なくない。ともすると嫌悪感を抱きかねないこの類の小説は、私の中で好き・嫌いがハッキリするため、どちらに出るだろうかと探りながら読み進めた。
そして、読了後に思ったのが、「この小説は、本棚に大切に保管しておこう」であり、「作者の他の作品も探してみよう」だった。
つまり、私は一木けいという作家に、とても興味を持ったのだ。
本書の魅力を一言であらわすことは難しい。強いて言うならば、若いころの、無知で、自分勝手で、広いと思っていた世界は実はとても狭くて、今考えると恥ずかしくてたまらないような日々。恋することに一生懸命だったあのころ−−そんな時代のむき出しの感情を、ありありと描いているところだ。
おそらく、もっともしっくりくる形容詞は「ひりひり」だろう。それでいて、「みずみずしい」。主人公・由井と、由井が好きになった相手・桐原の関係を、二人の湿度が肌で感じ取れるほど近くで覗き見ているような、そんな錯覚に陥った。
次回作を読みたくない、はずがない。
きっと誰もが、これまで生きてきた人生の中で「あの日決断したことが本当に正しかったのか」「もうひとつの道を選択していたらどうなっていたか」を思い返した経験があるだろう。それが恋愛であれ、はたまた別のなにかであったとしても。
あの日の選択に後悔がなかったと、100%は言い切れないかもしれない。でも、私たちは今日を生きている。
『1ミリの後悔もない、はずがない』は、圧倒的に女性に受ける物語だろうと思う。とりわけ、ある程度酸いも甘いも噛み分けてきた年齢の女性に。
よくよく調べてみると、一木けいさんも私と同じ1979年生まれだった。この人も、いろいろなことを背負って、経験して、生きてきたのだ。
主人公の由井のフルネームが、何度読み返してもわからなかったこと。一番読みたい人の目線での話が収められていないこと。きっとどれもが、作者の思惑通りなのだろう。
こんなにもひりひりして、みずみずしい物語が描ける一木けいさんの作品を、今後も読みたくない、はずがない。ぜひ、男性の感想も聞いてみたい一冊だ。
【書籍紹介】
1ミリの後悔もない、はずがない
著者:一木けい
発行:新潮社
「俺いま、すごくやましい気持」。ふとした瞬間にフラッシュバックしたのは、あの頃の恋。できたての喉仏が美しい桐原との時間は、わたしにとって生きる実感そのものだった。逃げだせない家庭、理不尽な学校、非力な子どもの自分。誰にも言えない絶望を乗り越えられたのは、あの日々があったから。桐原、今、あなたはどうしてる? ──忘れられない恋が閃光のように突き抜ける、究極の恋愛小説。