気の置けない仲間との会食が何よりの楽しみという人にとって、長引くこのコロナ禍は辛いと思う。が、こういう時こそ発想の転換が必要だ。「ひとりで外食したって、寂しく味気ないだけ……」そう呟いている方に是非読んでほしい一冊を紹介しよう。
『dancyu食いしん坊編集長の極上ひとりメシ』(植野広生・著/ポプラ社・刊)がそれ。dancyu(ダンチュウ)は、おいしい食べ歩きや料理づくりなど食を楽しみたい人のための月刊誌。その編集長の植野氏は食いしん坊として一番楽しいのは「ひとりメシ」だと断言しているのだ。
人生にもっと”ひとりメシ”を
植野流ひとりメシの極意を紹介した本書だが、まずは、どうして一人がいいのかを記しておこう。
一人なら、好きなものを好きなように、好きなペースで食べられます。
一人なら、料理や酒の組み立てが自由自在です。
一人なら、店の人が気をつかってくれます。
一人なら、カウンターで料理人としっかり話ができます。
一人なら、常連とすぐに仲良くなれます。
一人なら、厨房で料理をつくっている様子を眺めることができます。
一人なら、隣の人より美味しくなる食べ方を実践できます。
一人なら、料理やサービスや設えなど細かい点に気付きやすくなります。
一人なら、ちょっとだけわがままも言えます。
一人なら、料理の感想や気付いた点などを店に伝えやすくなります。
一人なら、好きなときに帰れます。
(『dancyu食いしん坊編集長の極上ひとりメシ』から引用)
誰に気兼ねすることなく、ひたすら食を楽しんでみたい。そう思ったら、さぁ勇気を出して一人で外食に出掛けてみよう!
隣の人より美味しく食べる方法とは?
植野氏は常に「隣の人より美味しく食べたい!」と考えているそうだ。同じ料理でも食べ方によって味わいはまったく違ってくるともいう。
1 舌を意識する
2 犬歯を喜ばせる
3 間接風味づけ
4 温度差をつくる
5 フィニッシュを決めておく
(『dancyu食いしん坊編集長の極上ひとりメシ』から引用)
この5大ルールを守れば、今まで食べていた料理がもっともっと美味しく感じるそうだ。では、その具体例をいくつかあげてみよう。
かつカレーは「右から2番目」から食べる
いつも食べているかつカレーをより美味しく食べるには、右から2番目のパーツから左へと食べ進めるのがいいという。多くのかつカレーはとんかつの手前の半分くらいにカレーがかかっている。ロースかつの場合は、奥側が脂身、手前が肉になるよう置かれていて、カレーは肉部分にかかってるスタイルがほとんど。
これが単体のとんかつなら、肉と脂身のバランスが最適な右から3番目から食べるのが王道だそうだが、かつカレーの場合はこの部分は旨味が濃厚で、最初のひと口としてはインパクトが強すぎるのだそうだ。
脂身の少ない右側から脂身の多い左側へと食べ進むことで「淡→濃」という味わいのグラデーションを楽しむのです。なぜ、「右から2番目」なのか。「一番右側」は衣に覆われていて(店によってはほぼ衣状態)、とんかつとしてはバランスが悪いので、最初にカレーをかけて皿の端に置いておき、最後に食べます。
(『dancyu食いしん坊編集長の極上ひとりメシ』から引用)
この端によけた衣たっぷりのカレーづけを、最後に食べることでかつカレーの本格的な旨さを堪能できるという。隣の人と同じかつカレーをもっと美味しく味わいたい方は、さっそくお試しを!
立ち食いそばをもっと美味しく
植野氏は立ち食いそば屋でかき揚げそばを注文するとき、「たてかけ」でお願いするそうだ。かき揚げを丼の縁にたてかけるように置いてもらう。こうすると、つゆがしみていない上側はサクサクのまま食べられ、徐々につゆがしみてくる下に向かって食べ進めば、つゆに浸っていく食感と味わいをグラデーションで楽しめるというわけだ。まず、かき揚げをサクッとかじり、そばをすする。次につゆがしみてきたあたりのかき揚げをかじって、また、そばをすする。最後につゆでふやけたかき揚げとそばを一緒に食べる。これが正しい食べ方だそうだ。
ラーメンは麺から食べる
植野氏の調査によるとラーメン屋では98%の人が最初にスープを飲んでいるとのこと。しかし、この食べ方だと麺の味がわからなくなってしまうという。
僕はラーメンが運ばれてくると、まず麺を食べます。麺を噛み締めてふわりと広がる小麦の香り(麺の香りではなく軽やかな粉の香り)を感じたり、食感や喉越しなどを味わいます。それからスープを飲む。これで、麺とスープの両方の味をしっかり楽しむことができるのです。
(『dancyu食いしん坊編集長の極上ひとりメシ』から引用)
さらに、最初から胡椒をふることもしないそうだ。食べている途中で味や香りの変化をしたくなったら、レンゲに胡椒をふって、そこにスープや麺を入れて味わう。酢やラー油を入れる場合も同様に。こうすれば一口ごとの味わいの変化を楽しめるのだ。
この他にも、いつも皆が食べている、スパゲティナポリタン、牛丼、餃子、寿司、うな重などのおいしい食べ方も紹介されている。
さらに、いいお店の選び方や注文の仕方など、300円の立ち食いから、3万円のフレンチまで、詳しくレクチャーしている。「孤食」ではなく「ひとりメシ」の醍醐味を今こそ知っておきたい。
【書籍紹介】
dancyu食いしん坊編集長の極上ひとりメシ
著者:植野広生
発行:ポプラ社
ランチでも酒を飲むときでも、ひとりメシの醍醐味は誰にも気をつかわず、思う存分食を楽しめること。美味しさの基準は、星の数や行列・予約待ちの程度ではない。あなた自身がいかに居心地よく、楽しむことができるかだ。雑誌『dancyu』編集長が驚きの食べ方、店との付き合い方を惜しみなく伝授。