長年ライターをやっていると、どうしても自分の文章が凡庸に思えてくることがある。具体的なところでは、言い回しのバリエーションだ。
同じ意味のことを異なる言い方にすると、文章の雰囲気が変わるものだ。そのため、一時期は類語辞典などを片手に文章を書いていたこともある。しかし、ここ10年くらいはWebメディアでの執筆がメインになってきて、「難しい言葉を使っても伝わらないんじゃないか」という思いから、比較的優しい言葉を選んで使うようになった。
格調高い文章を書くための辞典
普段仕事をしているメディアでは、そういう原稿で問題ないのだが、たまに硬い文章を書く場合もある。そんなとき、いつものような柔らかめの文章ではちょっと心許ない。そこで手に取ったのが『美しい日本語選び辞典』(学研辞典編集部・編/学研プラス・刊)だ。
本書の前書きには以下のような記述がある。
本書は、格調高い文章を書きたい物書きのための辞典です。歴史物や近代文学の雰囲気を醸し出すのに使えることばを選んで収録しています。
『美しい日本語選び辞典』より引用
近代文学の雰囲気。いったいどんな言葉が並んでいるのだろうか。
文豪っぽいフレーズで文章の格式をアップ!
たとえば「タイミングを逃す」というフレーズ。これを文豪風に言い換えるとどうなるだろうか。本書で「遅い」という項目を見てみると、【機を失する】というフレーズが出てきた。確かに文豪っぽい。「黙る」というフレーズの言い回しには以下のようなものがある。
【暗黙裏】
【息の根を殺す】
【言わず語らず】
【言葉を詰まらせる】
【言葉を呑む】
もちろん、それぞれ微妙に意味は異なるので、文章によって使い分ける必要がある。しかし、「彼女は黙っていた」というより「彼女は言葉を呑んだ」と書いたほうが小説っぽくなる。日本語、深い。
本書を読んでいて気に入ったフレーズが、【慇懃(いんぎん)を通じる】というもの。意味は「男女がひそかに関係を結ぶ」だ。
「太郎と花子は、みんなに隠れて付き合っていた」と書くより「太郎と花子は慇懃を通じていた」と書くと、なんだか格式高い上に隠微な雰囲気もプラスされる。やはりボキャブラリーは重要だなと思う。
日常会話で使う場合は相手を選ぼう
仕事によっては小説っぽいテイストの原稿を書くことがある。そのときは、自分のボキャブラリーから小説っぽいフレーズを引っ張り出して書いたりしていたが、本書があればさらに文豪のような文章にすることができるかもしれない。
ただし、日常会話で使う場合は要注意。本書に出てくるフレーズは、基本的に文章、しかも小説などで使われるものなので、会話で使っても「?」と思われるだろう。言葉は、相手に通じなければ意味がない。相手がわかる言葉を選ぶというのも重要だ。
【書籍紹介】
美しい日本語選び辞典
著者:学研辞典編集部
発行:学研プラス
格調高い決まり文句を使いこなし、格好いい文章を書きたいときに開く本。近代以降の文学作品で用いられる慣用表現を精選し、用例を付した。小説,シナリオ,歌詞などの創作にもぴったり。薄い,軽い,小さいの三拍子で,いつでもどこでも使える。