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2020/12/23 18:00

新車、引退、コロナ−−2020年「鉄道」の注目10テーマを追う【前編】

 〜〜2020年 鉄道のさまざまな話題を網羅その1〜〜

 

2020年、早くも年が暮れようとしている。新車の登場、そして慣れ親しんだ車両の引退、新駅開業といった鉄道の話題も盛りだくさんの一年だった。

 

一方で世の中を揺るがした新型感染症の流行は、鉄道にも大きな影響を与えた。そんな1年、鉄道をめぐる10のテーマに注目してみた。まずは【前編】の5つの話題から。

 

【注目!2020年①】鉄道も新型感染症で振り回された一年に

まずは一つめ。やはり新型感染症は避けて通れない話題だろう。まさか1年前に、こうした新しいウィルスの出現によって、世の中がここまで一変させてしまうことがあるとは、誰が想像しただろうか。コロナウィルスによって人々の暮らしが大きく変ってしまった。そして鉄道も大きな打撃を受けた。

 

人を運ぶことが、鉄道の大きな使命でもある。人が移動を制限するようになれば、利用者が減る。減れば電車や列車は空くが、減収を免れない。特に一部都道府県に緊急事態宣言が出された4月7日(16日には全都道府県に拡大)から宣言解除された5月25日(一部区域を除き段階的に解除)までの1か月半は、どの電車や列車も“がらあき状態”が続いた。

 

いくら空いていても電車や列車を動かさなければいけないのが、公共交通機関のつらいところ。とはいえそのままの状態で走らせるわけにも行かず、長距離を走る新幹線や特急列車の減便が目立った。さらに大半の観光列車が運行を取りやめた。筆者はちょうど取材もあり、やむを得ず渋谷へ出かけたことがあった。下の写真は緊急事態の前とその後の渋谷駅ハチ公前広場の様子である。緊急事態宣言下の渋谷駅前は、まるでホラー映画のワンシーンを見るかのようにひっそりし、日中でも人がほとんどいない状況となっていた。

↑3月27日の渋谷駅ハチ公前広場にはまだ人がいたが、4月14日には人がいない状況に。ちなみに広場の東急5000系は8月3日に移設された

 

一方で、鉄道貨物輸送は緊急事態宣言の最中も、絶えることなく続けられていた。鉄道貨物やトラック輸送を使った物流が絶えなかったことで、多くの人の暮らしが守られたことを付け加えておきたい。

 

コロナ禍で変ったのは車内の様子だろう。暑い季節はもちろん、外気がひんやりする季節になってからも、窓明けが行われるようになっている。窓が固定されている車両の場合には、必ず、「○分ごとにこの車両は強制的に換気されております」という車内アナウンスを聞くようになった。

↑通勤電車の車内の窓明けが推進された。左上のような「車内窓開けのお願い」という吊り広告も車内で多く見かけるようになった

 

本格的な冬の季節に入った日本列島。Go Toトラベルキャンペーンの一時中断などで、移動の自粛が進みそうだ。そのまま年を越しそうな気配だが、来年こそは、ワクチンの接種や特効薬の開発で、何とか終息を願いたい。

 

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【注目!2020年②】話題となった新型車両の続々とデビュー!

さて、嫌な話題から明るい話題にテーマを切り替えよう。今年は数多くの新型車両がデビューした。話題の車両も多く新型車両という一面では非常に華やかだった一年となった。ここでは2020年に登場した代表的な新型車両をピックアップしたい。

 

◆JR東海N700S(2020年7月1日運用開始)

↑東海道新幹線の新型N700S。先頭部分が個性的な形状をしている。運行時間は発表されておらず現在はTwitter情報などに頼るしかない

 

東海道・山陽新幹線の主力車両のN700系。この改良タイプのN700Aの登場からちょうど7年を迎えた2020年に運行開始したのがN700Sだ。N700系に比べて、先頭の左右部分が、膨らみを増した形が特徴で、「デュアル・スプリーム・ウィング形」と名付けられる。この構造はトンネルに突入する時の騒音を減らし、また走行抵抗も減少させる効果があるとされる。

 

形式名のN700Sの「S」は、“最高の”を示すSupreme(スプリーム)。その頭文字を付けた。今の時代に合わせて、各席に電源コンセントを設けているのも特徴だ。まだ本数は少なめで、乗れたらラッキーといえるだろう。

 

◆近畿日本鉄道80000系 ひのとり(2020年3月14日運用開始)

↑近鉄80000系ひのとり。先頭車はハイデッカー構造のプレミアム車両で、前面車窓や景色が存分に楽しめる

 

近畿日本鉄道(以下「近鉄」と略)の路線には多く特急列車が走っている。中でも近鉄の“看板特急”とも言えるのが、大阪難波駅と近鉄名古屋駅間を結ぶ特急列車で、名阪特急の名前で親しまれてきた。80000系はこの名阪特急用に誕生した車両で、愛称は「ひのとり」と名付けられた。

 

6両編成、もしくは8両編成で途中駅の停車が少ない名阪甲特急、もしくは大阪難波駅〜近鉄奈良駅間を結ぶ阪奈特急として走る。多くの特徴を備えるが、最大の魅力は座席だろう。3列のプレミアム車両の座席はもちろん、4列のレギュラー車両の座席まで、バックシェルを備えた構造となっている。バックシェルとは、座席の背を倒した時に、シェル内のみで座席が動く仕組み。つまり、後ろの席スペースまで座席が侵食するような動きが無い。座席を倒す時に後ろの人に配慮する必要がない造りのわけだ。さらに足元もゆったりとしていているのがこの特急電車の魅力となっている。

 

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◆JR東日本E261系 サフィール踊り子(2020年3月14日運用開始)

↑東海道線を走行するE261系。全車グリーン車の豪華な造りで、特に伊豆急下田駅側の先頭1号車はプレミアムグリーンとなっている

 

3月14日から運行開始したのがE261系特急「サフィール踊り子」で、東京駅(新宿駅)〜伊豆急下田駅間を結ぶ。

 

この特急の大きな特徴は8両全車両がグリーン席という贅沢な編成であること。さらに伊豆急下田駅側に連結される1号車は「プレミアムグリーン」となっていて、横に2席×10列というこれまで車両に無いゆったりした造りとなっている。グリーン車(5号〜8号車)でも3席が横にならぶ形で、こちらも十分にゆったりしている。さらに2・3号車は「グリーン個室」で、よりプライベートな個室空間での旅が楽しめる。

 

さらにユニークなのは4号車の1両すべてがカフェテリア車両ということ。形式名は「サシE261」で、久々に食堂車を示す「シ」の形式称号が使われている。この車両では一流料理人が監修したヌードルメニューが味わえる。

 

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◆JR九州YC1系(2020年3月14日運用開始)

↑大村湾を眺めて走るYC1系気動車。前面がなかなかユニークな形をしている。写真は大村線の岩松駅付近

 

特急列車以外の一般用車両も多くの新型車両が導入された。ここでは、その中で目立つJR九州の新型車両に触れてみたい。

 

JR九州が春に導入した車両の形式名はYC1系。同社初のハイブリッド気動車で、ディーゼルエンジンの駆動で生み出された電気を元に走り、また蓄電池に貯めた電気をアシスト役として利用する。

 

面白いのは数字の前に「YC」という文字が付くこと。さてYCとは? YCとは「やさしくて力持ち」のことだそうで、この言葉をローマ字で書くと「Yasashikute Chikaramochi」となる。この頭文字をとってYCとつけた。正面の形もかなりユニーク。ぐるりとライトで縁取りされ、花柄模様のような形の前照灯が付いている。後ろとなる時は、縁取り部分のライトが赤く光り、かなり目立つ。

 

走るのは長崎県内の長崎駅と佐世保駅の間。この区間の中で大村線を走る頻度が高い。YC1系が走る区間は、国鉄形のキハ66・67形が残っている。YC1系は続々と車両数が増やしつつあり、残念ながらキハ66・67形は近いうちに引退ということになりそうだ。

 

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【注目!2020年③】改造車とはいえ個性的な観光列車が表れる

今年も新しい観光列車が登場してきている。ここでは、これまでの観光列車と趣が異なる2列車を紹介しよう。なかなかユニークな鉄道旅行が楽しめる列車とあって、早くも人気となっている。

 

◆JR西日本WEST EXPRESS 銀河(2020年9月11日運行開始)

↑瑠璃紺色というカラーで塗られた「WEST EXPRESS銀河」。車内に自由に過ごせるフリースペースがある凝った造りとなっている

 

JR西日本といえば豪華な観光用寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風(みずかぜ)」が名高い。この瑞風に比べ、もっと「気軽に鉄道の旅が楽しめる列車」として登場したのが「WEST EXPRESS銀河」だ。関西圏を走る新快速列車用に造られた117系を改造して造られた。編成は6両で、外観が瑠璃紺色でまとめられる。

 

ユニークなのは2号車に女性専用の車両とされたこと。また1号車はグリーン車指定席(ファーストシート)、6号車はグリーン個室が付く。他に4号車はまるまる「フリースペース『遊星』」になっている。加えて3号車・6号車にフリースペースがあり、列車内で自由に過ごせる空間が複数設けられているところが面白い。

 

当初は5月8日からの運行予定だったが、コロナ禍のより運行開始を延期。9月11日から、まずは山陰方面へ夜行特急として走った。次いで12月12日から2021年3月11日までは、山陽本線を走る昼行特急として走っている。乗車には運賃の他、特急料金(現行の特急料金と同額)、またはグリーン車を利用の際にはグリ―ン料金、グリーン個室料金が必要となる。特製弁当の販売や、地元産品の車内販売もあり、長時間乗っても飽きることなく楽しめる“珍しい列車”に仕上げられている。

 

なお、同列車が走る区間は期間ごとに変更の予定で、2021年の春からは京都・大阪〜出雲市を夜行列車として走る予定。さらに2021年の夏〜秋は京都駅発、新宮駅行き夜行列車として、帰りは新宮駅発、京都駅行きの昼行列車として走る予定となっている。

 

◆JR九州36ぷらす3(2020年10月16日運行開始)

↑36ぷらす3の月曜日コースは博多駅〜長崎駅間を往復するプラン。途中、肥前浜駅で1時間停車。地元の人たちの歓迎を受けて走る

 

「36ぷらす3」というユニークな列車名。JR九州の観光列車は「D&S(デザイン&ストーリー)列車」と名付けられているが、その第12弾の列車となる。「36ぷらす3」の意味は、列車が走る九州が世界で36番目に大きい島とされていること。さらに列車が走る5行程に九州を楽しむ35のエピソードを詰め込まれ、最後の36番目のエピソードは乗車した人に語ってもらいたいという思いが込められたこと。さらに「お客さま、地域の皆さま、私たち」でひとつになって(+3の)39(サンキュー!)=感謝の輪を広げていきたい、という意味を込めて名付けられたとされる。

 

車両は特急形電車の787系を改造、デザインは水戸岡鋭治さんがてがけた。6両編成で全車がグリーン席、1〜3号車はグリーン個室、5〜6号車はグリーン席、さらに中間の4号車はマルチカーと名付けられたパブリックスペースで、さまざまな体験を楽しむ催しやイベントなどに利用される。

 

運行は曜日によって異なり、木曜日に博多駅を発車、南下して鹿児島中央駅へ。金曜日には宮崎駅へ。土曜日は大分駅・別府駅へ。日曜日は大分駅から博多駅へ。日曜日は博多駅から長崎駅との往復、という九州をほぼ一回りするコースをたどる。コンセプトといい、コースといい、かなりユニーク。ランチ付プラン、グリーン席のみのプランなど、1日単位の利用も可能で、選択肢がふんだんにあり楽しめる列車に仕上げられている。

 

【注目!2020年④】今年も一世を風靡した車両が消えていった

新しい車両や観光列車が登場する一方で、静かに第一線を去っていった車両も目立った。引退していった車両の面影をたどってみよう。

 

◆東海道新幹線700系(2020年3月13日定期運用終了)

↑山陽新幹線を走る700系C編成。16両の700系はほぼ引退となったが8両編成の700系ひかりレールスターは現在も定期運行している

 

東海道新幹線・山陽新幹線の700系が登場したのは1999年3月13日のこと。当時の主力300系が最高時速270kmを出して走ったものの、振動や騒音が問題となり、乗り心地が芳しくなかった。そこで270kmのトップスピードを維持しつつ、居住性や乗り心地の改善が図られ登場したのが700系だった。登場時は、初代の0系や100系が走っていたこともあり、まずは初期の2タイプの置き替え用として造られている。

 

2006年までに1328両が製造され、主力として活躍してきた。新幹線の車両は在来線の車両に比べると、高速で走り続けることもあり、耐用年数が短いとされる。ちょうど20年あまり、2019年の暮れにまずは0番台にあたるC編成が定期運用の終了、続いて3000番台にあたるB編成の定期運用が2020年3月13日に運行を終了している。

 

その後もJR西日本には山陽新幹線を走る団体向け臨時列車用に、B編成16両が2本ほど残された。しかし、コロナ禍で定期便の本数自体が減っている状況もあって、運用されたという情報は流れていない。

 

一方、JR西日本の700系の8両E編成はひかりレールスターとして、主に山陽新幹線の「こだま」として運用されている。デザインが大きく異なるものの、700系の一部は残されたわけだ。

 

◆JR東日本251系(2020年3月13日運用終了)

↑相模灘や伊豆七島を見ながら走った251系「スーパ―ビュー踊り子」。伊豆半島でおなじみだったその姿ももはや過去のものとなった

 

JR東日本の251系特急形電車は、東京の都心と伊豆急行線を結ぶ特急「スーパ―ビュー踊り子」用に造られた。国鉄からJRとなって間も無い1990(平成2)年4月28日から運行を始めている。JRに変ったことを前面に打ち出し、例えば、景色が良く見えるようにと、ハイデッカー構造に、さらに2階建てのダブルデッカー構造の車両も用意するなど、乗って楽しめる造りとされた。

 

走り始めてからちょうど30年。海岸沿いを走る路線を長年、走り続けてきたこともあり、外から見ても塗装含め、傷みが感じられた。伊豆半島へ向かう看板特急として走り続けてきた251系。JRが誕生した当時に生まれた初期の車両も、引退する時代になったこと実感させた。

 

◆東京メトロ03系(2020年2月28日運用終了)

↑東武鉄道内を走る東京メトロ03系。日比谷線のほか東武鉄道伊勢崎線などを30年以上にわたり走り続けた

 

あと一車両、2020年に引退した車両に関して触れておこう。東京メトロ日比谷線用の03系。2020年の2月28日に最後に運用を終えた。

 

03系は1988(昭和63)7月1日に運行を始めた。日比谷線以外にも東武鉄道伊勢崎線などへ乗り入れて走った。より早く乗り降りが完了できるようにと、5扉車まで登場した。全長が18mと短めなのに5扉車というのは、今、改めて見てみるとかなり極端な造りの車両だった。これも時代の要求だったのだろう。首都圏の通勤電車は、30年が引退の一つの目安とされているようで、後任となる13000系が2017年に登場し、次第に置き換えられていき、徐々に車両数が減っていった。

 

首都圏を走る電車の中で長さ18mの車両は珍しく、線路幅も在来線と同じ1067mm、さらにアルミ合金製の車体に傷みが少ないこともあり、引退後には地方私鉄数社へ譲渡されていった。長野電鉄、北陸鉄道、熊本電気鉄道と各地の私鉄で、短い編成となったものの、早くも走り始めている。

 

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【注目!2020年⑤】変る渋谷駅では2路線が大きく変貌した

東京の中で大きく変貌し続ける街といえば渋谷。常に新しいビルが建ち続け、街は姿を大きく変えている。その変貌とともに2020年は渋谷駅も姿を大きく変えた。

 

まずは東京メトロ銀座線の渋谷駅。これまでホームの狭さ、古さもあり、決して使いやすい駅とは言えなかった。渋谷区が進める渋谷駅街区基盤整備に合わせて2009年から工事が徐々に進められ、新駅への大移動が2019年の12月27日の夜から2020年の1月3日早朝にかけて行われた。この移設のために、銀座線の一部区間を運休させてまで実施した大掛かりなものだった。1月3日に終了とまさに渋谷駅の2020年は銀座線の移動工事で明けた1年の始まりとなった。

 

明治通り上空に誕生した銀座線渋谷駅の新駅はM型アーチ状の屋根が覆う近未来的な造りが特徴。ホーム幅も6mから12mと広々した造りとなり、より快適になっている。

↑従来の駅よりも東側に大きく移動した銀座線の渋谷駅。明治通り沿いには新改札口も設けられた

 

銀座線の渋谷駅とともに大きく変ったのがJR埼京線のホームだ。これまで埼京線の渋谷駅を利用する時には、ホームが大きく恵比寿駅側にずれていたために、かなり歩かなければならず不便だった。この埼京線のホームを、山手線のホームとほぼ平行する位置まで約350m移動させる工事が行われた。こちらは2015年から始まったJR渋谷駅の改良工事の最大の難関の工事でもあった。

 

埼京線のホームの移動は5月29日の夜22時から6月1日の早朝4時にかけて行われた。丸2日、電車をストップさせた大工事となった。その後に工事の模様がドキュメント番組として報道されたが、コロナ禍のさなか、かなりの難工事だったことが、その番組からも読み取ることができた。

 

この数日で、すべての工事が完了したわけでなく、その後も元ホームの撤去などの工事が進められている。渋谷駅はまだ完成途上なのである。

 

【⑥からは後編へ続く】