〜〜WILLERが行った自動運転サービスの実験とは〜〜
自動運転機能の発展は目覚ましいかぎりだ。そうした技術力の向上に合わせるかのように、各地でさまざまな実証実験が行われるようになっている。今回は東京の東池袋で始まった、自動運転車両を利用した実証実験を見る機会を得た。
そこで目にしたのは、自動運転車両をさらに他のサービスに活かすという段階へレベルアップし始めていることだった。どのような実験内容なのか写真を中心に追ってみた。
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【はじめに】日進月歩で進歩する自動運転。さらに次のステップへ
本サイトでは、2年ほど前に路線バスの自動運転実験の様子をレポートした。そこでは路線バスの車体を使って、一定区間を往復するという実証実験が行われていた。通常に利用されるバスながら、自動運転に対応した機器を搭載し、予定ルートの情報をインプットすれば、そのプランに合わせて自動的に走るというものだった。とはいえ、ドライバーは運転席に座り、ハンドルは触らないものの、いざという時に備えた姿勢を取り続けていた。
さらに予期せぬことが起きた場合には自動運転を解除して、手動運転を行うものだった。あくまで自動運転のシステムの確認および、レベルアップを図るための実証実験でもあった。
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これまでの自動運転実験は、バスを動かすということにポイントが置かれていた。予定の道路をスムーズに走れるか、動かせるか、停止するかどうか、というための確認という意味が強かった。しかし、ここ数年でその領域は終わり、次のレベルに向上しつつある。自動運転車両をどのように社会や人々の暮らしに活かしていくか、という段階に入ってきている。
今回のWILLERが行う実証実験は、自動運転をさらに社会サービスに活かすことを目指すために行われたもの。同社のプランは東京都の「令和2年度自動運転技術を活用したビジネスモデル構築に関するプロジェクト」に選ばれた。つまり、自動運転車両を次のビジネスモデルへ活かすという領域を目指そうというプロジェクトなわけだ。
具体的には3月10日から16日にかけて1週間にわたる実証実験が、東京都豊島区の「としまみどりの防災公園(愛称:IKE・SUNPARK=詳細後述)」周辺の公道で行われた。地域の公共交通やサービスと連携した自動運転システムの構築に向けての実証実験となった。百聞は一見にしかず、具体的な実験の模様をレポートしたい。
【実証実験レポート①】実験が行われたIKE・SUNPARKとは?
さて、自動運転の実験が行われる東池袋の「としまみどりの防災公園」。池袋のランドマーク、サンシャインシティの東どなりに広がる公園だ。愛称は「IKE・SUNPARK」で、広々した芝生公園を中心に、デザイナーの水戸岡鋭治氏がプロデュースした「としまキッズパーク」や、カフェ、軽食のテイクアウトショップが点在する。訪れた日は気温が20度まであがり、絶好の公園びより。親子連れも多く見かけた。
同公園は、池袋駅から歩いて15分ほど、東京メトロ東池袋駅から徒歩5分ほどだ。ちなみに池袋駅からは「IKEBUS」というおしゃれな小型バスが走っている(乗車運賃:1乗車大人200円)。このIKEBUSを運行するのが、今回、実証実験を行うWILLERだ。IKEBUSは赤いバスで、水戸岡鋭治氏がデザインを担当している。10輪(片側5輪)の風変わりな形の小型バスで、屋根の上にはかわいらしい「イケちゃん」が乗っている。
WILLERという会社の概要を紹介しておこう。WILLERは「移動」をマーケティングし、テクノロジーを使って「移動」を変えていく会社とされる。実際にサービスとして提供しているのが、全国に高速バス網を展開している「WILLER EXPRESS」や、東京都内では「IKEBUS」という“まちなか交流バス”を、さらに、京都府北部と兵庫県北東部を走る「京都丹後鉄道」で列車の運行も行っている。
移動をマーケティングする会社だから、自動運転を走らせるだけでなく、走るエリアのニーズや目的に合わせた新たな移動サービスの提供をすべく、その有効性を検証しようという、今回の実験となった。
【実証実験レポート②】実験に使われた小型バスNAVYA ARMA
IKE・SUNPARKの公園内に停まる白い小型のバス。今回、実証実験に使われるNAVYA ARMA(ナビヤ・アルマ)と呼ばれる車両だ。NAVYAは2014年創業のフランスの会社で、すでに自動運転シャトルバスや、空港で使う自動運転トーイングトラクターの生産を行っている。自動運転シャトルバスは20か国で使われていて、日本国内でも同社の自動運転車両が、すでに導入され活用されている例もある。
どのような車両なのか、車体の外観は、前述の写真を見ていただくとして、ここでは細部を写真で追ってみよう。
自動運転機能の専門的な説明は、ここでは省略するが、最新のバスらしくおもしろい話しを聞くことができた。
天井部に通信用のアンテナがついている。このアンテナでは、随時、情報が取り入れられ、データなどのアップデートが行われているというのだ。シャトルバスなのだが、パソコンと同じで、随時、最新のデータに更新され、走行に活かされているというのである。アンテナは将来的に遠隔操作にも活用できるという。これまでの交通機関とは異なる新しさが、自動運転車両には隠されているわけだ。
ちなみに今回の自動運転レベルは、レベル2と言われるもの。レベル1の運転支援(自動ブレーキ、前のクルマに付いて走る、車線からはみ出さない)よりもワンランク上で、ドライバーによる監視が必要なシステムながら、特定条件下での運転機能までは認められている。レベル2の高機能化された運転機能とは、車線を維持しながら前のクルマに付いて走る、遅いクルマがいれば自動で追い越す、高速道路の分合流を自動で行うなどだ。
【実証実験レポート③】車内は広い! だがハンドルはない!
さて、乗降ドアが開き中を見せてもらう。ガラス窓が広く明るい。車内では鉄の太い棒・ロールバーが前後左右にあり、いかにも頑丈そうだ。さて車内を見渡すと運転スペースには……。
あれーぇ? ハンドルがない。これまで自動運転バスを見たことがあるが、どのバスも“一応は”ハンドルが付いていた。この自動運転車両にはハンドルがないのだ。
ハンドルの代わりにコントローラーが用意されていた。筆者はゲームには詳しくはないものの、ゲーム機のコントローラーが使われているそうだ。ハンドルというどのクルマにもある“常識”が自動運転車両には、あてはまらないわけである。
【実証実験レポート④】自動運転のバスに乗車してみると……
今回の実験ではIKE・SUNPARK周辺の公道を含む1周半約1.4km(約15分間)のコースと、1周約600m(約8分)のコースを走る。報道陣への公開では1周を走るコースの乗車を体験することができた。最高時速19kmと低速ながら、都内の混みがちな道路であり、また工事箇所もあり、自動運転の実験には逆に役立ちそうだと感じた。
最初に外から走る様子を見たところ、2〜3歳児のよちよち歩き的な印象はあった。しかし、実際に乗ってみると、まったく異なりスムーズさが感じられた。時速は19km以下と抑えられていたが、加速感、減速感が感じられる。
公道をひとまわり、公園に入る段差の前で、運転手(同車両ではセーフティオペレーターと呼ぶのだそう)が、コントローラーを微妙に動かしていた様子がうかがえた。運転終了後に聞いたところ、これは、歩道を歩く歩行者がいたので、一応、自動運転を解除して、手動にして走ったのだそうだ。
センサーが歩行者を感知し、急ブレーキがかかることがあると言う。なるほどと思った。とっさの時には通常のバスでも急ブレーキが使われることがある。自動運転バスでもそれは同じで、機械がそれを感じたら急ブレーキがかかる。今回は、報道陣への公開ということで運転手が気をきかして、穏やかな運転で走るように、そうした操作していたのだった。
【実証実験レポート⑤】テイクアウトを運ぶツールとして利用を
自動運転車両の実験では、どうしても自動運転のバス自体に目がいきがちになる。だが、今回の実験は、他のサービスに関してのウェイトが高い。その一つは自動運転車両を使っての「デリバリーサービス」だ。どのようなサービスなのか、概要を見せてもらった。
まずはアプリを使い店舗に食事をオーダーする。オーダーが店のスタッフのタブレット端末に表示される。その表示に合わせて、テイクアウトメニューを用意する。それがどのようにオーダーした人に渡るのだろうか。
店のスタッフは自動運転のバスが到着するまでにメニューを用意。そのバスが到着したら、そのバス内にあるデリバリー専用ボックスにメニューを積み込む。積まれたバスは自動運転して走り、オーダーした人が指定した受け取り場所まで運び自動停車。オーダーした人は、止ったバスに乗り込み、デリバリー専用ボックス内に載せたメニュー(商品)を受け取る。東池袋ではこうした内容のサービスを想定した実験が行われる。
このシステムならばアプリをインストールしておけば、発注した人が外にいても受け取れる仕組みで便利だ。さらに将来、活用範囲が広がれば、より便利になりそうだシステムと感じた。
【実証実験レポート⑥】ルート検索して自動バスから路線バスへ
デリバリーサービス以外に、自動運転車両と公共交通機関の乗り継ぎがスムーズに行えるように実験が行われている。
WILLERのアプリを入れて試してみた。IKE・SUNPARKの外れにいたとして、池袋駅まで行く場合。アプリには地図画面があって、持ち主の場所がまず表示される。そして駅を行先としてインプットする。自動運転バスが同地点に向って乗客を乗せて、乗り継ぎ地点へ。ここでIKEBUSに乗換えればゴールの池袋駅へ到着するというわけだ。
アプリにはこのルートを利用すれば、○時○分に到着するという情報も検索される。到達時間も出てくるので便利だ。
公共交通機関の自動運転技術は、ドライバー不足などの理由から研究され、進歩しつつある。将来的には、バスの運行センターなどの施設で、オペレーターが管理運行することにより自動運転の車両が多く走ることになるのだろう。このことにより、都市部のバスはもちろん、利用者が少なくなった路線や、過疎化が進む地方の路線も、廃止されることなく、バスの運行なども持続が可能になっていく。
さらに、今回実証実験を行うサービスなどに拡大され導入されていけば、自動運転車両が走る沿道ならば、デリバリーが容易に利用できるようになる。また乗り継ぎ情報も同じことだろう。こうした自動運転システムを使ったサービスは他にも多様な広がりを持ちそうである。どのような世界に広がっていくのか期待が膨らむ。