アップルは、6月7日(現地時間)に開発者向けイベント「WWDC2021」を開催した。コロナ禍で2回目のオンライン開催となるWWDCだが、発表された各OSを見ると、“新しい生活様式”を意識した新機能が多かった印象を受ける。コロナ禍の始まりから1年以上が経ち、各OSがライフスタイルの変化を取り入れつつあると言えるだろう。特に強化されたのは、オンラインでのコミュニケーション機能やヘルスケアに関する機能だ。
オンライン会議の需要の高まりに応じたFaceTime
その象徴とも言えるのが、「FaceTime」の新機能だ。新たに、ほかのユーザーを招待するためのリンク作成に対応。カレンダーに登録したり、メールで送ったりすることで、FaceTimeを始められるようになった。しかも、FaceTimeがWebブラウザーに対応し、AndroidのスマートフォンやWindows PCからもアクセス可能になる。
これまではアップル製デバイス同士のコミュニケーションツールだったFaceTimeが、より開かれたミーティングツールに進化するというわけだ。さらには、画面共有も可能になり、資料を見せ合いながらの打ち合わせなどにも使えるようになる。
この新機能の背景にあるのは、オンライン会議の需要の高まりだろう。コロナ禍でZoomやMicrosoft Teams、Google MeetといったWeb会議ツールが伸張したのは周知のとおり。一方で、FaceTimeはグループ通話こそできたものの、あくまでビデオ電話の延長線にある機能だった。それが、新機能によってあらかじめコミュニケーションの“場”を作れるようになり、他社製品のユーザーにまで対象を拡大したことで、FaceTimeの用途が大きく広がりそうだ。
離れた場所にいながら、一緒にコンテンツを楽しめるSharePlay
昨今は、ビジネスツールとしてだけでなく、プライベートのコミュニケーションもオンライン化が進んでいる。海外のように厳格なロックダウンが実施されているわけではないが、友人と顔を合わせる機会は激減したはずだ。こうした状況を踏まえ、プライベートのコミュニケーションを促進するような機能にも対応した。「SharePlay」がそれだ。
この機能を使うと、FaceTimeでやり取りしている友人に、自分が再生している音楽を聴かせたり、動画を見せたりといったことができる。サブスクリプション契約が必要なサービスは、お互いに加入していなければならないなどの制約もあるが、同じコンテンツを複数人で同時に楽しむことができるのがメリットだ。
動画を停止したり、再生位置を変更したりすると、相手にもそれが反映される。離れた場所にいながら、一緒にコンテンツを楽しむ手段になるのが、この機能の魅力と言えるだろう。
プライベートとビジネスのモードを強制的に切り替えてくれるFocus
iOSやiPadOSに搭載される「Focus」も、コロナ禍で対応が求められている生活の変化に応える機能の一つだ。Focusは、通知や着信の音を鳴らさなくなる「おやすみモード」の利用シーンを拡張したもので、ユーザーが設定した“仕事”や“プライベート”といったステータスに応じて、通知や着信を制限することができる。
例えば、“仕事”に設定したときには、友人からの電話やメッセージを制限したり、ゲームなどのアプリから送られてきた通知をブロックしたりできる。逆に、“プライベート”のときには、仕事に関連した連絡を目にしないようにすることが可能だ。
どのアプリからの通知を許可するかは、ユーザー自身で選択できるほか、機械学習を通じての提案も受けられる。また、アプリだけでなく、ウィジェットの配置もシーンに合わせて変更できる。
コロナ禍でリモートワークが広がる中、プライベートとビジネスが地続きになってしまい、ライフワークバランスが崩れてしまうケースも報じられるようになった。こうした状況を踏まえ、新機能のFocusは、ある種強制的にユーザー自身のモードを切り替えるために生まれた機能と言えそうだ。
新OSのコンセプトはライフスタイルに寄り添った使い勝手の向上
メンタルの健康を保つという観点では、watchOS 8に搭載される新機能の「マインドフルネス」も発想は近い。
Apple Watchには、「呼吸」と呼ばれるアプリが搭載されていたが、マインドフルネスはこれを拡張した機能。呼吸アプリのように、単に深呼吸を促すだけでなく、ユーザーに対して「最近で落ち着きを感じた時間を思い出してください。その感覚をこの瞬間に感じてみてください」といったメッセージがApple Watchに表示される。また、睡眠時の呼吸の状態を、Apple Watchで計測できるようになる。
さらに、家族の健康状態を離れた場所から確認できたり、自分の健康状態を長期的に見られる「トレンド」が追加されたりと、ヘルスケアに注力した機能も発表されている。
このように、新機能でコロナ禍の新しい生活様式に応えたアップルだが、それだけがすべてではない。
機械学習を使って写真に写っている文字を認識したり、インターネットに接続することなくデバイス上でSiriの音声認識が可能になったりするなど、従来から同社が注力していた分野の機能には、さらに磨きがかかっている。
macOS Montereyでは、「ユニバーサルコントロール」に対応。iPadを近づけるだけでMacにシームレスに連携し、Mac上からiPadを直接操作できるようになる。iPadで作成したデータを、ドラッグ&ドロップでMac側に移動できるなど、連携のスムーズさはアップルならでは。さらに、MacをiPadの外部ディスプレイとして使う「AirPlay to Mac」も新機能として追加された。
誤解を恐れず言えば、iOSが初めてホーム画面に直接配置できるウィジェットに対応したり、macOSのユーザーインターフェイスが刷新されたりした2020年と比べ、見た目の変化は少ない。裏を返せば、そのぶん、1年という時間をかけ、細かな部分がブラッシュアップされているということだ。
見た目の派手さより、コロナ禍で大きく変わったユーザーのライフスタイルに寄り添い、使い勝手を向上させることを重視したのが、新OSに共通するコンセプトと言えそうだ。
【フォトギャラリー(画像をタップするとご覧いただけます)】