実業家の中には「世界を変えてやろう!」という野心を持っている人が少なくありません。ダッソー・システムズの年次イベント「3DEXPERIENCE World 2022」で登壇したMisty West社(MW社)のレイ・クリスティ(Leigh Christie)はその1人。クモ型ロボットの『モンドスパイダー(Mondo Spider)』を発明するなど、世界的な注目を集めています。どうやって世の中を変えようとしているのでしょうか?
まずはクリスティ氏を簡単に紹介しましょう。MW社の公式サイトによれば、彼のバックグラウンドは物理工学ですが、マサチューセッツ工科大学大学院で芸術・文化・テクノロジーの修士号を取得。肩書きは起業家・エンジニア・コミュニティービルダーとなっています。これだけでも面白そうな人物であることが伺えますが、彼はなぜ起業しようと思ったのでしょうか?
「私は工業デザイナーやエンジニア、発明家として、世の中に大きなインパクトを与えたいと思っていました。そこで起業を考えたとき、頭の中には2つの道がありました。1つは、地下室のガレージに一匹狼のようにこもり、世界を大きく変えられるようなすごい発明を自分ですること。もう1つは、会社を設立して、自分よりも頭のいい人材を雇うこと。意欲的で、情熱にあふれていて、テクノロジーによって世界を変えることに力を注げる人たちを集めることです」とクリスティ氏は言います。
同氏は2つ目の道を選び、優秀な人材を集めてMW社を立ち上げました。同社は、サステナブル社会の実現をもたらすテクノロジーの設計と開発を手がけており、その専門分野には光学やクラウドサービス、IoT、BluetoothやWi-Fiなどの通信デバイスが含まれています。「私たちは、国連のSDGsの達成に貢献することを重視しています。例えば、電気自動車メーカーのテスラのように、持続可能な経済への移行を加速させることをミッションにすれば、私たちだって世界最大規模の企業になれるはず。海洋や森林の生態系を守ったり、気候変動との闘いの力になるようなプロジェクトを実行していきます」とクリスティ氏は豪語します。
そんな彼を一躍有名にしたのが、モンドスパイダー。これは8本の鋼鉄脚を使って歩行運動をする機械です。「8年ほど前に作ったのですが、当初はボランティアチームによるアートプロジェクトとして始めました。自分たちができることをやっていたら、テレビやイベントなどで数多く紹介されることになり、『モンドスパイダー』はちょっとした名刺代わりになっていきました。カナダのバンクーバーやカルガリーの市長に会ったり、この製品を世界中に発送したり、モンドスパイダーによって私たちのビジネスが大きく変わりました」(クリスティ氏)
現在、MW社は面白い取り組みにもチャレンジしています。例えば、折りたたみ式スケートボードや任意の言語を瞬時に翻訳できる万能翻訳機、水中・水底の物体を探る水中音波探知装置など。この水中音波探知装置を使い、水中でホッキョクグマを追跡するなどのフィールドワークも行なっているとか。
子どもの歯磨きだって変えられる
その一方、近年、MW社はソフトウェアビジネスに注力しています。「当初、私たちの会社にはソフトウェアなどのエンジニアや電子設計者、次世代の電子製品設計用ソフトウェアを扱えるPCB(プリント基板)デザイナーなどがいませんでした。そのため、数年かけて技術開発スタッフを集め、現在ではソフトウェアはビジネスの重要部分を占めるようになりました」とクリスティ氏は述べます。
その背景にあるのは、当然ながらテクノロジーの進化。機械や道具などに情報処理機能を持たせ、コンピュータで最適な制御ができるようにする「インテリジェント化(スマート化)」が進み、それまでつながっていなかった物同士が連携できるようになりました。
「インテリジェント化が進めば、IoT端末などのデバイスや、近くに設置されたサーバーでデータ処理・分析を行うエッジコンピューティングの種類は増え、機械学習などはより高度になると言われています。これからのデバイスは私たちが何を望んでいるかを事前に察知し、製品開発を促進するための分析を行い、ユーザーがデバイスをどのように使用しているかを教えてくれることで、生活をよりスムーズにしてくれるのです」とクリスティ氏は言います。
インテリジェント化が世界を変える力になると信じているMW社。IoTなどのテクノロジーに懐疑的な人たちに対して、クリスティ氏は「例えば親の立場から言えば、子どもがきちんと歯を磨いているかどうかを教えてくれる子ども用スマート歯ブラシみたいな物はありがたいですよね?」と投げかけます。視点を変えれば、物事の見え方も変わりますが、何か大きなことを成し遂げようとするときは、彼のような柔軟性と信念が必要なのかもしれません。