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2022/4/6 6:00

自分に全集中! 元NASAの宇宙科学教育リーダーが語る「自己実現論」

環境問題、コロナ禍、ウクライナ情勢と、現代社会は混沌の様相を呈しています。人によって生き方や考え方は異なりますが、「少しでも自分を高めたい」とか「夢や目標を実現したい」と思っている人は、こんな時代にどうすれば良いのでしょうか? ダッソー・システムズの年次イベント「3DEXPERIENCE World 2022」で処世術や自己啓発について語ったハキーム・オルセイ(Hakeem Oluseyi)氏のアドバイスが参考になるかもしれません。

↑自分に専念すれば世界は変わる

 

オルセイ氏はアメリカの天体物理学者です。フロリダ工科大学の物理学と宇宙科学科の教員を経て、NASA本部の科学ミッション本部で宇宙科学教育マネージャーを務めたこともあります。最近ではディスカバリーチャンネルの宇宙関連番組やNetflixのバラエティ番組など、メディアへの出演機会も増えており、北米を中心に認知度を広げています。

 

オルセイ氏の考え方の1つに、「人生にはインスピレーションが必要で、自分の話し方1つで相手にインスピレーションを与える側になれる」があります。つまり、自分の言葉には、生涯を通じて相手——特に若者——の心に響き、自分が思っている以上に大きな影響を与える可能性があるということ。

 

オルセイ氏は若かったころ、学校の先生や周りの大人たちから、さまざまな機会や正しい助言を与えてもらい、自分が活躍できる場に推薦してもらったそう。「同じようなことを自分も若者にすることで恩返しをしたい」という思いが彼にはあります。「世の中には信じられないほどの才能を持った人たちがいて、同じレベルの教育を受けながら社会に出る準備をしています。そういった人たちの才能や努力をつぶす権利は誰にもなく、そういった才能が花開くように応援することが社会貢献である」と考えるオルセイ氏。そのような信念で彼は自分の考えを世の中に伝えています。

↑3DEXPERIENCE Worldにオンラインで参加したハキーム・オルセイ氏

 

そんなオルセイ氏にとってコミュニケーションは重要です。コミュニケーションは話し手と聞き手がメッセージを交換する営みであり、両者によって大切なことが異なります。「話し手にとって重要なのは、聞き手が自分より若かったり、部下だったり、専門分野が異なる人だったりしても、相手と自分を対等に扱い、相手の反応を素直に受け入れることです。逆に、聞き手にとって大切なのは、話し手の言葉が自分にとって納得できるものであるかを考え、そうであれば取り入れること。つまり、聞き手は『自分が進歩するために意味のある内容かどうか』を聞き分けることが肝心です」(オルセイ氏)

 

この考え方はタイミングとも関係しています。歌手のセリーヌ・ディオンは夫から「すべての時間をオンにしておく必要はない。『自分がいまだ!』と思ったときにオンにすることが大事なのだ」というアドバイスを受けたそう。この話を例として挙げながら、オルセイ氏はコミュニケーションでもビジネスでも、メリハリを付けることが大切であると述べています。もっと言えば、それは余計なことに気を散乱させず、いますべきことに精神を集中するということでしょう。

 

オルセイ氏自身がそのように生きてきたそうです。彼は決して恵まれた環境で育ったわけではなく、有名高校を卒業したわけでもありませんが、卑屈にならず、常に情熱的な姿勢で人生を切り開いてきました。「幼いころ、私はミシシッピの森の中のトレーラーハウスに住み、高校を卒業しただけの両親に育てられましたが、小さいときから『僕は物理学者になるんだ』と話していました。どのような逆境に置かれていても、ほかの境遇の人たちと自分を比べるのではなく、自分のことだけに集中して努力する。ただ、それを実行してきただけです」と言うオルセイ氏。

 

「『完ぺきでありたい』『必ずヒットさせたい』『何をやってもうまくいかない』——。そんな思いがあるから物事が難しく見えるのです。何か1つのことに的を絞り、それを達成することに時間を費やしてください。誰もが自分だけのアイデアを持っており、それを評価してくれる人が必ずいるはずです」

 

やるべきことに専念すれば、道は開ける。これは日本人の「お天道様が見ている」という考え方に通じるところがありますが、洋の東西を問わず、大事なことであるようです。「自分の目標が何であれ、どういった分野であれ、何か1つのことをやり遂げるためには、時間をかけてじっくりと取り組むことが必要です。自分が選んだことを全力でやり遂げる、という気持ちを大事にしてください」とオルセイ氏は力を込めて言います。元NASAの宇宙科学教育マネージャーが言うだけに、これは宇宙の真理なのかもしれませんね。

 

執筆者/和多田 恵