〜〜3都県で進む7社局14路線の新鉄道ネットワーク〜〜
「相鉄新横浜線・東急新横浜線」の開業が2023(令和5)年3月の予定と発表された。1年前にあたる3月31日に、同路線を走る予定の車両が東急電鉄の元住吉運転区(神奈川県川崎市)に勢ぞろいし、報道陣に向けて「鉄道7社局の車両撮影会」が開かれた。
日ごろ入ることができない車両基地に、7編成の車両がきれいに並んだ。その並べ方といい、車両の選択といい、なかなか興味深い催しだった。これらの車両が走ることになったら、さぞや新線は賑やかな路線になるだろう。
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「相鉄・東急新横浜線」の開業で新横浜駅が便利に
2023(令和5)年3月に開業予定の路線は相鉄新横浜線・東急新横浜線(以下「相鉄・東急新横浜線」と略)で、新たに「相鉄新横浜線」の羽沢横浜国大駅〜新横浜駅間の約4.2kmと、「東急新横浜線」の新横浜駅〜日吉駅の約5.8kmが開業する。中間に位置する新横浜駅が、相模鉄道(以下「相鉄」と略)と東急電鉄の境界駅となる。
新線開業まで20年以上にわたる長い道のりだった。「相鉄・東急新横浜線」の路線計画の元となる「神奈川東部方面線」の計画が立てられたのが、2000(平成12)年のことだった。国土交通省の工事施行認可を受けたのが2009(平成21)年で、工事は鉄道・運輸機構が担当、まず相鉄・JR直通線の起工式が2010(平成22)年3月25日に行われた。同線は工事に9年の歳月がかかり、2019(令和元)年11月30日に開業している。さらに工事はその後も続けられ、1年後に開通する「相鉄・東急新横浜線」となる。
新横浜線のルート&工事進行状況は
「相鉄新横浜線」西谷駅〜羽沢横浜国大駅間の約2.1kmは、相鉄・JR直通線の一部として開業し、すでにJR埼京線との相互乗り入れが行われている。現在、工事が進められているのは羽沢横浜国大駅〜日吉駅の約10km区間だ。
工事の進捗状況だが、開業の1年前ということでかなり進んでいる。羽沢横浜国大駅付近のJR連絡線との分岐ポイント付近は、ほぼ工事が終了。その先の地下駅として新設される新横浜駅、新綱島駅、そして東急東横線の日吉駅まで羽沢トンネル、新横浜トンネル、綱島トンネルの工事が進められている。
開業後の運行頻度は羽沢横浜国大駅〜新横浜駅間が朝のラッシュ時が10本/時、その他の時間帯が4本/時、新横浜駅〜日吉駅間が朝のラッシュ時14本/時、その他の時間帯が6本/時となる。これは現時点の予定で、変わる可能性があるとのことだが、この本数差を見ると、相互乗り入れ運転以外に、東急側から走る電車の一部は新横浜駅での折り返し運転されることが分かる。
直通乗り入れにより、二俣川駅〜目黒駅間は約38分、海老名駅〜目黒駅間は約54分となり、相鉄沿線と都心との所要時間が短縮される。
この新線によって便利になるのが東海道新幹線の停車駅・新横浜駅。JR横浜線と横浜市営地下鉄ブルーラインに加えて新線が接続することになり、利用者もかなり増えそうだ。さらに、新線により東京都、神奈川県、埼玉県まで3都県14路線を結ぶ広域な〝新鉄道ネットワーク〟が完成することになる。
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会場となった「元住吉検車区」は構造がなかなか興味深い
新鉄道ネットワークの開業1年前の催しとして、東急電鉄の元住吉検車区で3月31日に開かれたのが「鉄道7社局の車両撮影会」。7社局というのは、相模鉄道、東急電鉄、東京メトロ(東京地下鉄)、東京都交通局、埼玉高速鉄道、東武鉄道、西武鉄道をさす。東京都交通局が加わっているために「社局」とされたわけだ。
会場となった東急電鉄の元住吉検車区は、東急田園都市線の長津田検車区と並ぶ東急電鉄の代表的な車両基地。誕生は1926(大正15)年2月と長い歴史を持つ。東急東横線の元住吉駅のすぐそばにあるのだが、電車からは良く見えず、気付かない方が多いと思う。なかなか興味深い構造なので、その造りを簡単に紹介しておこう。最寄りの元住吉駅は高架上に設けられている。一方、元住吉検車区は東急東横線の下の地上部にある。そのため車窓からは見下ろさないと確認できない。
元住吉駅で下車すると、目の前に「元住吉第1号踏切」という踏切があるが、こちらは元住吉検車区に出入りする車両のみが通る踏切だ。そのため不定期に電車が通りすぎる。車両基地へ入出庫する電車のためだけに設けられたというのも珍しい。踏切からは車両基地内に電車が多く並んでいる様子が遠望できる。
ちなみに、元住吉検車区に入出庫する車両は、1つ手前、渋谷側の武蔵小杉駅からの入出庫がメインだが、横浜側の日吉駅からも検車区へ入る専用線が設けられている。ここに配置される車両は東急電鉄の車両がメインとなる。
「鉄道7社局の車両撮影会」は、日ごろめったに見ることができない車両が集まる催しとあって、平日の日中にもかかわらず情報を聞きつけた熱心なファンが検車区の外に集まっていた。
「そうにゃん」「のるるん」も登場、新線ムードを盛り上げた
筆者は1時間ほど前に会場を訪れたが、該当する車両らしきものはちらほら見られたものの勢ぞろいにはほど遠い様子だった。ところが、徐々に車両が集まり始め、小一時間ほどで、きれいに調整され〝整列〟したのだった。このあたり手順の良さに驚かされた。
最初は新線開業の〝主役〟となる2社、相鉄・東急の現業長(下写真参照・左から・東急車両保全課 元住吉検車区 区長、東急運転部 奥沢乗務区 区長、相鉄運輸課 電車区 区長、相鉄車両センター 検車区 区長)と相鉄キャラクター「そうにゃん」と東急線キャラクターの「のるるん」が並んだ撮影がまず行われた。
2社のキャラクターは初めて身近で見たが、「のるるん」の頭に付いているパンタグラフが伸び縮みするとは知らなかった。
右から西武、東武、中央に相鉄と東急、そして地下鉄車両
さて、ここからは7社局のどのような車両が集合したのか、その選択や並びについて、深堀りして見ていきたい。
右から西武鉄道、東武鉄道という関東の大手私鉄を代表する2社が並ぶ。次に新線開業の〝主役〟でもある相鉄と東急の2車両が中央に置かれている。東急の隣は大手私鉄の一社でもある東京メトロ、東京都交通局と地下鉄車両が続き、一番左に埼玉高速鉄道という順だった。
7社局の関係者が見ても、鉄道ファンが見ても納得できるような並びだった。ちなみに、7車両のうち西武鉄道は新線区間への乗り入れはしない。あくまで東急東横線を走る車両としてこの日は加わった形だった。
8両編成の東急3020系は撮影日翌日がデビューとなった
ここからは各社の代表として並べられた車両に関して見ていこう。各社の車両選びにも、こだわりが感じられた。
まずはこの日の〝主役〟となる東急と相鉄の車両から。まず東急電鉄は3020系。2019(令和元)年11月に導入した目黒線用の車両だ。8両編成として製造したが、導入時は目黒線が6両編成への対応のみだったため、中間車2両は予備車扱いとなり車両基地に留め置きされている。
この春から8両に戻す作業が少しずつ進む。元住吉検車区へやってきたのは、初めて8両化された3023編成で、正面に「8」のマークが付けられていた。そして翌日の4月1日から目黒線、東京メトロ南北線、埼玉高速鉄道を走っている。この編成が同路線区間で、最初に走った8両編成車両となった。そんなこだわり車両が、この日の撮影会の主役となっていた。
ちなみに、今後、目黒線、南北線、埼玉高速鉄道、都営三田線では順次6両編成から8両編成に変更が進められることになる。
一方の相鉄は20000系が持ち込まれていた。20000系は新線開業用に2018(平成30)年2月に導入された10両編成の車両だ。まだ相鉄と東急の間には直接結ばれた線路がないため、撮影会にあたって、JR相模線の厚木駅から東京メトロ千代田線の綾瀬駅付近まで、JR貨物の甲種輸送によってわざわざ運ばれた上で、千代田線、有楽町線、副都心線を経由して元住吉検車区まで走ってきた車両だ。東急線内にしばらく留め置かれて、新線開業に備え乗務員訓練という形で試運転が行われるのであろう。
相鉄には目黒線乗り入れ用に21000系という8両編成の車両も2021(令和3)年6月に導入された。この21000系が4編成導入の予定とされている。21000系はすでに入線試験という形で、目黒線ほか、地下鉄路線にも乗り入れ試験を行っている。
試運転が続く都営三田線の新車6500形
次に地下鉄車両を見ていこう。この日に集まったのは東京メトロが9000系。東京都交通局からは6500形、そして埼玉高速鉄道からは2000系が集合した。この中で注目は都営三田線の新車6500形だろう。
都営6500形は前面が黒、淡いブルーの縁が付くなかなか個性的な正面。「人にやさしい車両」というユニバーサルデザインの考え方を取り入れた、全車両にフリースペースが設けられる。2022年度中に13編成×8両の計104両を導入の予定だ。走り始めるのは5月14日と発表されているものの、すでに目黒線内まで試運転電車が入線し、撮影会場となった元住吉検車区で折り返す姿を見ることができる。
東京メトロ9000系も鉄道ファンにとっては気になる車両だ。最初の車両は1991(平成3)年の南北線の開業に合わせて1990(平成2)年に登場した。後に5次車まで増備され、現在は23編成138両が走る。撮影会に集合したのは初期に造られた1次車だったが、最近は側面の帯が直線と波形(リニューアル車の目印)のものが走り、バラエティに富む。
さらに,
2009(平成21)年に増備された5次車はそれまでの9000系と設計思想も異なり、正面の形もかなり異なっている。この5次車は2編成のみで、9000系の中ではマイナーな存在だが、それだけに気になる車両と言って良いだろう。撮影会ではそうした珍しい車両を撮影できなかったのがちょっと残念だった。
この9000系も2022年度中には8両編成化が進められ、さらに新しい6次車も導入される。
東武は新線にも乗り入れ、西武は現状乗り入れせず
撮影会の時には右側に並んでいたのが東武鉄道と西武鉄道の車両。この日は東武が50070型、西武が40000系の姿が見られた。西武は前述したように新線乗り入れはないものの、東急東横線を走る列車の中では、唯一の有料座席列車として目立つ存在でもある。将来は、乗り入れが検討されるかも知れない。
それぞれ車両の特長に触れておこう。東武鉄道50070型は、正面のオレンジと黒の2色カラーが目印。50000系の一系列が50070型で、東武東上線だけでなく、東京メトロ有楽町線・副都心線、東急東横線などへの直通運転用に開発された。ちなみに東武東上線専用の車両が50000型、東武伊勢崎線・日光線用で、東京メトロ半蔵門線、東急田園都市線へ直通運転を行うのが50050型となる。また、有料座席指定制列車「TJライナー」用の50090型も東武東上線を走っている。形はほぼ同じだが、こうした系列分けが細かく行われている車両でもある。
東京メトロ副都心線を経て、東急東横線内へ乗り入れる西武鉄道の車両。東横線内には40000系と6000系が入線している。撮影会で並んだのは西武40000系で、2017(平成29)年に登場した車両だ。この車両最大の特長といえば、ロングシートとクロスシートと座席の転換ができること。デュアルシートと呼ばれる構造を生かして、西武鉄道線内だけでなく、現在は、副都心線、東急東横線、横浜高速鉄道みなとみらい線まで直通運転を行う有料座席指定制列車「S-TRAIN」として活用されている。
7社局の代表的な車両が集まった今回の車両撮影会は壮観だった。これら以外に新線を走ることになる車両はまだ多くある。そうした車両が相鉄・東急新横浜線を走ることになるのだ。さらに相鉄線内ではJR東日本の車両とも出会うことになる。今回の撮影会以上に、多士済々の車両たちが新線を走ることになりそうだ。今から新線開業が楽しみである。