こんにちは、書評家の卯月 鮎です。人様のおうちにお呼ばれし、趣味で作ったという茶碗なんかが出てきたら、「いや~、これは国宝級ですね~」なんて持ち上げることがありますが、よくよく考えると国宝ってなんなのでしょうか(笑)。重要文化財とはどう違うのか、いったい誰が決めているのか、国宝になったら国が買い取ってくれるのか……。国宝ということは国の宝で、つまり私も日本国民なので私の宝でもあるわけです、たぶん。
馴染みがなかった国宝を知るための本
そんないろいろな疑問も解決してくれるのが、この『カラー版 物語で読む国宝の謎100』(かみゆ歴史編集部・著/イースト新書Q)。
著者のかみゆ歴史編集部は、「歴史はエンターテイメント」をモットーに、雑誌・ウェブから専門書までの編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。主な著書に『日本の神様と神社の謎100』、『日本の仏像とお寺の謎100』(イースト・プレス)、『日本刀ビジュアル名鑑』(廣済堂出版)などがあります。本書は2021年に発売された『物語で読む国宝の謎100』のカラー版です。
カビだらけになってしまった国宝とは?
100個のQ&A方式で国宝が見開き2ページほどで紹介され、パラパラ気軽に読める構成。「Q1 そもそも『国宝』とはどんな制度か?」「Q3 『国宝』『重要文化財』『重要芸術品』一体何が違うの?」など、第1章には基本的な知識が並んでいます。
国宝を審議するのは文化庁の「文化審議会(文化財分科会)」。1年に複数件登録されることもあれば、ゼロの年もあるとか。そもそも、文化財保護法に基づき、希少性が高い文化財を「重要文化財」と呼び、そのなかでもさらに価値があるものが「国宝」に指定されるのだそうです。
そして第2章以降は「絵画」「彫刻」「工芸品」「考古・古文書」「建造物」と、国宝が分野別にセレクトされています。たとえば第2章「絵画」の最初は「高松塚古墳壁画」。「Q11 世紀の大発見なのにどうしてカビだらけになっちゃったの?」という質問をフックに、その謎を解いていきます。
1972年に発見された古墳内の壁画は鮮やかな彩色が残り、特に西壁の女子群像は「飛鳥美人」と称されるほどでした。しかし、石室に短時間人が入るだけで温度や湿度が変化し、1980年にはカビが大量発生してしまったとか。
その後、薬品でカビが取り除かれ、今は古墳全体を覆う断熱覆屋と空調設備で温度と湿度が一定に管理されるようになっているそうです。ほかにも厳島神社、犬山城など国宝を維持管理するのも大変だなと思えるエピソードが多く、貴重な宝を次代につなぐのも国宝制度の役割なのでしょう。
紹介されているなかで、私ができれば直接現地に行って見てみたいと思ったのは、「Q76 世界一危険な場所にある国宝とは?」で紹介されている鳥取県の「投入堂」こと「三仏寺奥院」。
断崖絶壁に無理に押し込まれたかのような建築物で、修験道の創始者・役行者(えんのぎょうじゃ)が、法力で建物を手のひらに乗るほど小さくして岩壁のくぼみに投げ入れたという伝承があるそうです。なんと実際の建築方法はいまだ解明されておらず……。荒々しい自然と神秘の技術が一体になった貴重な遺物です。
カラー写真が掲載されているので、色味もはっきりとわかり、馴染みがなかった国宝にも興味がわいてきます。単なる羅列ではなく、人に教えたくなるような話題のタネがQ&A方式で連なっているのが本書の面白さ。カジュアルに国宝を学ぶならこの1冊です。
【書籍紹介】
カラー版 物語で読む国宝の謎100
著:かみゆ歴史編集部
発行:イースト・プレス
国宝はいったい誰が、なぜ、どのような基準で決めているのか。博物館や美術展で「国宝」と記載されている作品を見たことがあると思うが、国宝が指定されるようになった背景を説明できる人はあまり多くないだろう。本書では、「この文化財がなぜ国宝となったのか」「どこが貴重なのか」など、国宝にまつわる100の謎を厳選し、カラービジュアル・図解つきでわかりやすく解説。国宝一点一点の美術・資料的価値が、物語・エピソードとして読み解ける一冊。
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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。