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2023/2/8 21:30

なぜ「バカ」な行為がなくならないのか? 生物学的にアプローチする『バカの災厄』

1月の終わり、とある動画がネット上で公開された。金髪の男性が回転すし店のボックス席に座り、醤油のボトルの口の部分や未使用の湯飲みの縁を舐め回し、唾を付けた指先で目の前のレーンを通過するにぎりに直接触れる。

 

ウケを狙うか、大炎上した上に莫大な経済的損失の責任を問われるか

この行いをものすごく非難するわけではないし、抑えきれない怒りを覚えているわけでもない。ただ、どうしてもわからない。何なんだろう? 10年ほど前、後に「バカッター」と呼ばれることになる人たちがバイト先でのワイルドないたずら動画を続けてアップしたとき、こういうのはダメだという圧倒的コンセンサスが確立されたはずだ。

 

それなのに、おそらくは史上最悪の動画がアップされ、顔バレどころか本名と学校まですぐに特定された。民事で訴えられれば莫大な賠償金の少なくとも一部に責任を負うことになるだろうし、刑事事件になれば前科だってつく。リスクとメリットのバランスが圧倒的に悪いと思うのだ。

 

父親と一緒に謝罪に訪れた本人によれば、動画を有人の間で共有するつもりだったが手違いで外部に流出し、拡散してしまったという。被害を受けた企業の時価総額の下落額は170億円に達するとも報じられた。この原稿を書いている時点で、企業側は刑事・民事両面の訴えを取り下げる動きを一切見せていない。

 

「バカ」を生物学的アプローチで分類する

バカの災厄』(池田清彦・著/宝島社・刊)には、「頭が悪いとはどういうことか」という結構きつい響きのサブタイトルが付けられている。本書の主張もかなり強めだ。最初のページの9行で、「バカ」という言葉が5回出てくる。SNSなどで他人を誹謗中傷することに生きがいを感じる人たち。ネット上で陰謀論を振りまく人たち。あおり運転。あれこれ理由を付けて隣国に侵攻する大国……。世の中は、さまざまな災厄をもたらすさまざまなレベルのバカであふれている。

 

そこで、私には何ができるのかと考えたとき、世界に災いをもたらす「バカ」とはいったいどういう存在なのか、どうすれば「バカの災厄」を防ぐことができるのかという点についてわかりやすく解説し、心ある人々と理解を共有したいという結論に達した。

『バカの災厄』より引用

 

バカの種や属の特質を確認して分類し、それを周知させて共通の知識として蓄積していく。実に生物学者らしいアプローチではないか。

 

バカは自分以外を認めない

章立てを見てみよう。

 

第1章 バカとは何か
第2章 ますますバカになる日本人
第3章 バカを量産する日本の教育
第4章 バカにつけるクスリ

 

各章の項目も書き出しておこう。「バカはどうして攻撃的になるのか」「賢い人のコミュニケーション」「バカは複雑な問題を二元論でとらえる」「マスク警察はマウンティング」「型破りな人にしか到達できないイノベーションがある」「優秀な研究者ほど去っていく」「変わり者だと思わせ距離を置く」「多様性を欠いた生物は絶滅する」

 

池田氏は「バカ」を「概念が孕む同一性は一意に決まる」と思い込んでいる人々であると定義する。こういうことだ。

 

「この世界には最終的な真理があり、その認識を共有しない者は許せない」と思っている人のことである。別言すれば、「すべての概念は捏造されたものだ」ということに、まったく思い及ばない人のことだ。

『バカの災厄』より引用

 

もう少しかみ砕くと、こういうことになる。

 

いかに高学歴な人であっても、知識や教養のある人であっても、独善的で他人の意見に耳を傾けない場合、本書ではバカと呼ぶ。

『バカの災厄』より引用

 

筆者なりの表現をするなら、「自分が考える普通こそが、すなわち世の中全体の普通である」と考えている人ということになるだろうか。オープンかつリベラルな状態でいないと、人はバカに向かってまっしぐらに走っていってしまうように思える。

 

賢い人であるために

ならば、賢い人とはどういう人なのか。

 

わかりやすく言えば、「自分の考えと他人の考えは違っていて当たり前」ということをちゃんと理解している人のことだ。

『バカの災厄』より引用

 

これは、わりと当たり前のことだと思う。だが、どうしても「自分の正しさ」を主張せずにはいられない人たちがいる。だからこそ、LGBT関連でおよそ現実離れした発言を繰り返す政治家や、自分の笑いの感覚が「絶対に正しい」と信じて疑わないままホームレスの女性をいじめたり、飲食店での生理的な嫌悪感をもよおすいたずらをしたりという動画をアップする人たちがいなくならない。

 

でも、バカを図鑑的に文字化した本書を読んで、すべてのバカに真剣に怒るのは間違いなのかもしれないと思った。まず、絶対的に違うことを認めよう。バカに囲まれたバカにならないようにあるためには、そこから始めるべきだ。

 

 

【書籍紹介】

バカの災厄

著者:池田清彦
発行:宝島社

ネット炎上やあおり運転、陰謀論の流布やロシア叩きなど、「バカ」が引き起こすトラブルは絶えることがない。本書が「バカ」とするのは「概念が孕む同一性はひとつしかない」と思い込む人のこと。視野狭窄で他人の意見に耳を貸さない彼らは、自らの信じる「正義」や「真実」を周囲にも押しつけようとし、それを受け入れない相手を「敵」認定し攻撃する。しかし、こうした「バカ」化は、進化を遂げた人類にとって、一種の宿命でもあったー。暴走を続ける「バカ」につけるクスリはあるのか?

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