日本上陸以来、着々と店舗数を増やし続ける会員制倉庫型スーパーのコストコ。価格の安さもさることながら、「自己都合OK」「食べかけでもOK」など驚きの返品ポリシーはその特徴の1つでしょう。しかし米国では、コストコに限らず、原則的にどんな商品も返品が可能。そんなやり方で小売店は果たして利益を確保できるのでしょうか? 米国の返品制度の仕組みについて紹介します。
返品の損害はメーカー負担
消費者を優遇した返品ポリシーは、買い物天国・米国を支える重要な制度。返品手続きはとても簡単で、理由さえ問わないお店もたくさんあります。
この返品ポリシーが浸透した背景には、「返品の損害は小売店の負担ではなくメーカーが保証する」という米国式の仕組みがあります。これがあればこそ、小売店は緩い返品ルールを設けて売り上げ増につなげられるのです。メーカー側も返品による損害を計上したうえで価格を設定し、返品率が高くなれば商品価格を上げることで対応してきました。
米国と同じ返品ポリシーを日本で展開するコストコも、メーカー側に返品できる仕組みのようです。同社の場合は会員制で大規模な年会費収入があるため、それを返品損害に充てることもできるでしょう。
返品率の高さをカバーするために
このような返品制度であっても、これまで通り想定内の返品率ならば大きな問題はないはずでした。
しかし、新型コロナウイルスの影響でオンラインショッピングを利用する人が急増し、返品率も大きく上昇。米国の2020年の返品率は10.6%でしたが、2021年には16.6%、2022年は16.5%と高く、その額は年間8168億ドル(約116.9兆円※) にものぼります。
※1ドル=約142円で換算(2023年8月2日現在)
こういった返品率の高さはメーカー側の収益に大きく影響し、特に中小企業では死活問題にまで発展。そのため、「返品時の損害を含めた金額で商品価格を設定する」という暗黙の商習慣に対し、最近はさまざまな取り組みが始まりました。
例えば、「返品期間を90日から30日に短縮」「領収書とオリジナルパッケージの提出が必須」「自己都合は少額の手数料を徴収」といったルールの構築です。返品を繰り返している悪質な常習者は、返品を拒否されるケースも出てきました。
また、返品された商品を“新中古品”として再販する試みも活発です。返品商品は多くが破棄処分となるため、環境汚染の観点でも問題視されていました。再販は家電などの高額商品をリーズナブルに入手できる方法として人気が高まっており、拡大する可能性があります。
コロナ禍におけるオンラインショッピングの拡大もあり、米国の返品制度は今まさに変革期を迎えています。従来の緩い返品ポリシーは消費者にとって歓迎すべき内容であるものの、メーカーの損害分が商品価格に上乗せされるのであれば不条理な制度とも言えそうです。
さまざまな課題を抱える返品制度ですが、消費者ニーズに応えながら時代とともにどのように変化するのか、注目していきたいと思います。
執筆/長谷川サツキ