近年、国内外で注目を集めており、人気が高まっている日本ワイン。長野県上田市にある「シャトー・メルシャン 椀子(まりこ)ワイナリー」は、その年の世界最高のワイナリーを選出するアワード「ワールド ベスト ヴィンヤード」で、2023年のアジアNo.1に選ばれました。
名実ともに日本のワイン文化をけん引する存在となったメルシャンと椀子ワイナリーでは、より革新的なワイン造りを実践・発信するべく、サステナブルに焦点をおいたワイナリーツアーの開催を発表。現地に赴き、その取り組みを取材しました。
一部の国のワインばかりが消費される日本を変えたい
なぜ、メルシャンがサステナブルなワイン造りに注力するのか。それはSDGsが世界的な目標であることはもちろん、ワイン造りが農業と密接な関係があり、地域社会や自然との共生が欠かせないと確信しているから。
しかし、日本のワイン業界の現状は、海外と比較すると後れをとっているのだとか。この実情については、日本で唯一の「Master of Wine」(マスター・オブ・ワイン。ワイン業界において最も名声が高いとされる資格)で、名前の後に「MW」を付記することが許されている大橋健一さんが教えてくれました。
今夏、世界中のマスター・オブ・ワインが集うシンポジウムがドイツで開催されました。そこで大橋さんが驚いたのは、すべての講演でサステナビリティについて触れられていたこと。つまり、海外のワイン業界ではサステナビリティがきわめて重要視されているのです。
大橋MWの考える、日本人の意識改革のひとつがワインの立ち位置。日本人1人あたりのワイン消費量は1年間で4本にすぎないそうで、ほかのお酒と比べると“日常酒”となっておらず、価格も高め。極端にいえば“ハレの日に飲む高級品”となっており、「ワインはたまにしか飲まない贅沢品だからサステナブルでなくてもいいんじゃないか、サステナブルな見地からは外れてもいいんじゃないかとか。日本ではそういう傾向が見受けられます」と警鐘を鳴らします。
つまり、国内におけるワインはラグジュアリーグッズとしての側面ももっており、サステナブルな観点としてはけっして歓迎できるものではないということ。
「ラグジュアリーグッズであるがゆえに、日本では圧倒的に偏った国のワインばかり消費される傾向が否めません。加えて公共性の面においては、まったくサステナブルではないのです」と大橋MW。こうした現状を、椀子ワイナリーを中心にシャトー・メルシャンが変えていこうと試みていることを教えてくれました。
見学や試飲で楽しむ新設のSDGsツアーを体験
椀子ヴィンヤードの開園は2003年。かつて桑畑であったものの生糸業の衰退とともに放棄され、荒廃農地となっていた土地をぶどう畑に転換して誕生しました。高品質なワインを造るために下草を刈るなどの丁寧な農作業を行い、雄大な草原環境を生み出し、現在では希少種を含む様々な生きものが生息する豊かな自然環境に回復させています。つまり、椀子ヴィンヤードはもともとサステナブルに意欲的なヴィンヤードなのです。
そんな同ワイナリーによる新たな取り組みが、見学体験や試飲を交えて楽しみながらヴィンヤードの価値を伝えていく「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー SDGsツアー」。2023年は9月2日と11月11日(ともに土曜)の2回開催し、今後も季節ごとに年間5回程度実施予定とのことで、その一部をいち早く体験させてもらいました。
椀子ヴィンヤードは10年以上前から地元・塩川小学校の学びの場にもなっているそう。3年生になるとじゃがいもを栽培・収穫。4年生になるとぶどう収穫、そして5年生はその植樹を体験する特別授業が盛り込まれるのだとか。これは郷土愛を育む体験として、また食育の観点からも素敵な取り組みだと感じました。
SDGsツアーではもちろん、ぶどうの木や果実も見学できます。取材時は夏だったため果実は青々としていましたが、秋には熟して収穫となり、9月のSDGsツアーはやや酸味が強いものの試食できるとのこと(11月は収穫後の時季ですが、残っていれば試食可)。
SDGsの取り組みは、収穫後のぶどうにも。例えば、醸造時にぶどうの実を搾ったあとの皮や種、茎などを活用するための堆肥場が圃場の端にあり、ここで約2年間微生物にゆっくりと発酵させて肥料にします。ぶどうのカスは焼却炉で燃やすようなことはせず、また外部から持ち込む肥料を少なくすることで、運搬時に発生するCO2の排出を最小限に抑えているのです。
良好な草原環境へと整備された椀子ヴィンヤードには在来種や希少種などの多様な植物が生育しており、2014年から実施している生態系調査では、絶命危惧種を含む昆虫168種、植物289種が確認されているそう。その一例が、絶命危惧種の蝶「オオルリシジミ」の幼虫唯一の食草である「クララ」です。
施設にもサステナブルな取り組みがあまた
また、椀子ワイナリーは施設自体がSDGsに配慮した設計になっています。それは「グラヴィティ・フロー」という、高低差を利用した設備や、動線により自然にかかる重力で果実や果汁を移すシステム。余計な動力が不要であるとともに、ぶどうの繊細な個性が損なわれず、エレガントで特色のあるワインが造れるというメリットがあります
椀子ワイナリーは山の高台にあるため、冷涼であることも特徴。これはワイン樽熟成庫の空調面で大きな効果があり、冷房が必要なのは初夏〜盛夏ぐらいだそう。SDGsツアーでは、そんな熟成庫への入室もできます。木を通して呼吸をするワイン樽はかすかに優美な香りを放ち、心地いい気分に浸れることでしょう。
ラストはお待ちかねのテイスティング。椀子の気候風土を表現する定番ワインのほか、オススメの限定品を含む計6種が味わえます。そのなかには高級銘柄の「シャトー・メルシャン 椀子オムニス」も。SDGsツアーの参加費はひとり税込1万円ですが、決して高くないといえるでしょう。
残暑はまだまだ続きますが、今年もあっという間に実りと収穫の秋が訪れるでしょう。つまり、ぶどう狩りやワインの季節でもあります。椀子ワイナリーでは今回紹介したSDGsツアー以外にも様々なイベントが開催されているので、行楽シーズンでもある秋に、旅行も兼ねて訪ねてみませんか。
【SHOP DATA】
シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー
住所:長野県上田市長瀬146-2
営業時間:10:00~16:30(テイスティングカウンター ※L.O.16:00)
※営業日は公式サイトのカレンダーを要確認
■アクセス
<電車の場合>
しなの鉄道「大屋駅」からタクシーにて約10分、JR北陸新幹線「上田駅」からタクシーで約25分
<車の場合>
上信越自動車道「東部湯の丸」ICより約10分
https://www.chateaumercian.com/winery/mariko/
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