ギョーカイ“猛者”が走って、試して、書き尽くす!「ランニングシューズ戦線異状なし」
2023「ミズノ」秋の陣①「ウエーブライダー27」の巻(前編)
“やる気” の全てを溶かし続けてきたモーレツな暑さも、やっと落ち着いてきた。暑さを言い訳に、全てを先送りした結果の腹部周囲は、さすがにヤバっ……。なのに、食欲だけは自分史上、空前の好景気! そんな今、多くの人々が自戒のために始めるのが、シューズを履いて外に出ること。そう、ランニングシーズンの到来である。
“世界的巣ごもり”を理由に、走る回数も、距離も控えていた方々も、今シーズンの体脂肪率は待ったナシ。さらに、中止が相次いでいたマラソン大会も、続々と募集を再開し、走らない理由は、どーやら、どーこにも見当たらなくなってきた。
と、さまざまな理由で走り始める人々を応援する本連載。今回は、日本が誇る総合スポーツカンパニーのミズノの東京フラッグシップストア「MIZUNO TOKYO」にお邪魔している。普段のトレーニングから、初レース完走などエントリー層のランナーを支え続けているミズノの至宝「ウエーブライダー」が、今年もアップデートされたのである。
値上げラッシュのご時勢なのに、価格据え置き!
何もかもが値上げのご時勢、並みいる競合も値上げラッシュのなか、価格据え置き1万4850円(税込)という驚異的な大盤振る舞いで、ミズノの「ウエーブライダー27」はギョーカイの話題をさらっている。で、その背景にあるランニングシーンの変化を含め、今回ミズノに話を聞きに伺った。
「コロナ禍前は、人気のマラソン大会には、応募抽選でなかなか出場できない状況でした。現在、マラソン大会の状況がコロナ禍前まで戻らないと思っている人が大半だと思います。たしかに最近では、集客に困っている大会は数多くあります。ただ、ランナーの数が多かったコロナ禍前でも、大会の数そのものが多過ぎて、大会の人気によって集客に大きな差が出ていました」
と語るのは、ミズノでランニングを含めた陸上競技などを統括するマーケチームの斉藤太一マネージャーだ。なるほどSNSの発達とともに、大会出場の申し込みサイトも人気の大会を重視するようになっていた。コロナ禍前に徐々に進んでいた変化が、一気に加速したと斉藤さんが捉えている現象は、多くのギョーカイ関係者も感じていたことだ。
「もちろん、単に3年の間が空いたので、新たに大会に出ようとエントリーする人が一時的に減っただけで、イベントの有無に左右されることなく、個人個人の目的意識を持って走る人口は、むしろ増えたという見方もあります」(斉藤さん)
“これから走り始める人に”まさにジャストなタイミング
一方、この春に17年間在籍したサッカーのマーケチームから、ランニング部門に異動したミズノのランニング部門のディレクター加藤利行さんは、ギョーカイの慣習に囚われない客観的な目線で、日本のランニング市場を分析し、ミズノの可能性に明るい展望を抱いている。
「期待したいのは、コロナ禍を機に走り始めた人たちです。イベントそのものがない中でも走っているので、そもそも競技志向ではないのですが、最近“ハーフマラソンを走ってみようかなぁ”と話すのを聞くようになってきました。今、そのような方々にウエーブライダー27をお届けできるのは、すごくタイミングが良いと思っています」(加藤さん)
ウエーブライダー27は、前年にフルモデルチェンジされた26の新機能の数々を発展的に継承するモデルだ。26で刷新されたミッドソールの「ミズノエナジー」は、それまで(25)よりも2㎜厚くなったにもかかわらず、より軽く、より軟らかになり、着地衝撃の吸収は20%、反発性は30%向上。これは当然、27でも継承している。
さらにウエーブライダーの屋台骨とも言える「ミズノウエーブ」の形状も、このタイミングでモデルチェンジ。樹脂系のPEVA系の形状を進化させた。
“機能”の見直しではなく、“履き心地”のアップデートなのだ!
忘れてならないのは、ミッドソールの「ミズノエナジー」フォームだ。軽く、反発性に優れ、しかも軟らか。と、フルモデルチェンジによるウエーブライダー26の諸々の機能や構造は、27にも継承している。となると27は、26と何が違うのだろう?
「ウエーブライダー27のアップデートは、26で行ったような機能の見直しではなく、“履き心地”の見直しです。そのため、かかとを包み込むコンパクトなヒールカウンターに変更しました。フィッティングが増し、かつ軽量化しています。新たに採用されたアッパーのメッシュは、かかとから足首回りまで吸い付くような感覚に仕上がりました」(斉藤さん)
ミズノがウエーブライダー27で見直した“履き心地”は、3点。先述の、①小型でかかと包み込むヒールカウンター、②よりフィットするメッシュアッパー。これに加え、③足の甲を包み込む一体構造のガセットタングに変更している。
実際に履いて走ったレポートは、次回にたっぷり紹介するが、ミズノは、これから本格的に走り始める人たちが増えるであろうタイミングに、フラグシップシューズの最新機能を、“履き心地”を重視したアップデートで熟成させ、しかもお手頃価格のウエーブライダー27として発表したのだ。
ウエーブライダー27の価格戦略の深淵を探る
「価格を上げる話は、もちろん大きな議題でした。しかし、今回は機能重視のモデルチェンジではなく、“履き心地”重視のモデルチェンジです。正直、ここまで変わるのか、と驚くと同時に、その良さを私たちは確信しています。ともかく履いていただくことが大切なタイミングなので、あえて価格維持に踏み切りました」(加藤さん)
ミズノの決断の裏には、現在のランニングシューズ業界の、苛烈な開発ラッシュによる消耗戦の実情がある。新技術を搭載したモデルチェンジが恐ろしい勢いで進み、従来のランニンシューズブランド以外からも、欧州勢など新ブランドが市場を席捲し続けている。数値化しやすい機能だけでなく、履く人の心まで設計されたシューズが求められている時代なのだ。
日本のモノ作りのミズノが、フラッグシップモデルのアップデートで日本のランナーに出したひとつの提案が、“履き心地”重視のモデルチェンジを“価格維持で行う”こと。ミズノの真摯なモノ作りへの自信を踏まえた選択なのだ。
推測の域を出ないので恐縮だが、この価格戦略にはもっと深い意味があると筆者は考えている。それは、日本のスポーツ用品市場では話題になっていないが、中国ブランドを始めとする日本以外のアジアのプレーヤーたちのシューズの存在だ。ミズノの価格戦略は、これからのプレーヤーたちの価格戦略への、ひとつの布石だと筆者は見ている。
ミズノお二人には答えをはぐらかされてしまったが、ユーロでの価格を見る限り、中国勢の価格の割安感は侮れない。欧米の多くのスポーツブランドは、中国を生産の拠点にしていた時期が長く、その技術力の高さに大きな遜色などない。欧米ブランドだけを見て高価格に振り過ぎると、かつての日本の家電の二の舞になることも、あながち夢物語ではないと思えてならないのだ。
ウエーブライダーである限り、ミズノウエーブは存続する
最後にどーしても避けられないのは、ウエーブライダーの命とも言える「ミズノウエーブ」の今後だ。安定性を担保するシューズの“骨”でもある硬いプレートの存在は、ウエーブライダーの安定性の源泉であり、多くのウエーブライダーファンの安心感の要でもある。昨今、競合他社が相次いで安定感を得るためのプレートの採用を行っておらず、ウエーブライダーの去就には注目せざるを得ないのだ。
「ウエーブライダー27の試履き会を行った際、一番評価が高かったのは安定性です。ウエーブプレートの存在があるからこその、グラつかずに走れる安定性の高さに、皆さん改めて気付いていただけたと感じています。ウエーブライダーのDNAであるミズノウエーブは、ウエーブライダーである限り、なくなることはありません」(斉藤さん)
と、ミズノランニングを支えるマーケのお二人の、熱~いウエーブライダー27話は尽きない。宴もたけなわではあるが、いよいよ最新ウエーブライダー27の“履き心地”のアップデート具合についてのレポートに移りたい。もちろん、次回のお楽しみだ!
撮影/中田 悟
【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】